百合。俺が女優になってなんて言ったから。
洋は、前にも増して練習量を増やした。筋トレ、ピッチング、ロードワーク。
「ちょっと、早い!」
麻衣子が、自転車で追い付けない。それくらい早く走る、洋。
「オーバーランだよ!」
洋は、黙って何も答えない。
伸二が心配している。
練習のし過ぎで、球が伸びて来ない。
「休め!」
と伸二に洋は言われた。
洋は、鉛のように体が重い。
家に帰って夕飯を食べるとすぐに自室に閉じこもる。そして鳴るはずの無いスマホを見つめている。
練習試合では、ボコボコに打たれた。
ついにエースの座からも降ろされた。
そんな時に檸檬から声を掛けられた。
「洋ちゃん。」
と優しく。
洋は、緊張の糸が切れたように泣いた。
「大丈夫、大丈夫。洋ちゃんなら乗り越えられる。」
と檸檬は洋を抱きしめて言った。
それから、洋は、部室で檸檬の腕の中で眠った。起きたのは夜中だった。檸檬も寝ている。
「檸檬、ありがとう。」
と洋は言ってまた眠った。
165キロ。
数週間休むと洋は、調子を取り戻して球のスピードも戻った。
洋は、百合の死を乗り越えた。そしてさらに強くなった。
「遅い!」
と麻衣子に言われるようになった。
ロードワーク、筋トレ、ピッチング。元に戻した。
そして、エースの座に返り咲く。