犬養治が、入部して来たのは二月だった。監督が直々にスカウトして来た逸材だ。麻衣子が驚いていた。治は、実は石黒豊と同じ高校で野球部だった。しかし、豊の活躍で出番無し。そんな治に目をつけたのが監督だった。治は猫目の口だけ男と言われてきた。
「塩見!エースナンバー奪われないようにな!」
と監督に洋は言われた。
「監督、俺、即エースと違うんかい?」
関西弁?
「まぁ、切磋琢磨して塩見を引きずり降ろせ!」
監督は、笑いながら言った。
「何じゃあ!あの狸親父が!」
「自信無いのか?犬養?」
と伸二は聞いた。
「あぁ?黙って俺の球捕れや!」
治は左耳に銀色クロスのピアスをしていた。そして、光、相手に勝負を挑んできた。スピードガンを手に俺は伸二の後ろに立った。
スピードガンは、160キロを計測した。
「ふーん。」
と光は、ボール球を見送った。
二球目、光のバッドが治の球をとらえてホームラン。
「嘘やろ?」
と治は、マウンドで項垂れた。
次は、洋の番だった。
スピードガンを持った治が笑っている。
スピードガンは、165キロをマークした。
「嘘やろ?」
と治は、また項垂れた。
光を高速スライダーとフォークで三振させた。
光と治は、悔しそうに俺を睨んだ。切磋琢磨して良いんじゃないと俺は、思った。これが監督の狙いか。まだまだ、甘いね。これじゃあ、石黒豊は倒せない。