野球部の田中伸二が、映画研究会に入会した。その為、正捕手の座を上村一樹に譲った。つまりは田中は補欠になったのだ。
「何でだよ?田中?」
と俺が練習中に聞くと田中は嬉しそうに
「一度の青春、野球だけで終わらせたくない。」
と答えた。
確かにそう言われると何も言えなくなる。
「それにさ、月曜日から水曜日まで映画研究会に出て木曜日から週末までは野球部の練習に出るから。」
と伸二は俺の心配そうな顔を見て言った。
伸二と律子が二人で、想像するだけで嫉妬の嵐が胸に流れて来た。
じゃあ俺もと思って監督に言うと怒鳴られた。
「塩見!お前は自覚が足りないのか?毎日プロだ、大学だがお前をスカウトする為に見に来てるのに全く自覚が足りん!」
監督の剣幕は、凄かった。
あちゃー!久しぶりに野球をサボりたくなった。
檸檬と夕方下校していると、前に伸二と律子が一緒に並んで歩いていた。俺が声をかけようとすると檸檬に腕を引かれた。
「邪魔しないの!」
と檸檬に言われて俺はガックシだった。
家に帰ると波子が来ていた。
「洋ちゃん、記憶戻ったの?」
と小さい声で聞いて来た。
「何で分かるの?」
波子は、ただ微笑むだけだった。
俺は、自室に入ると律子に電話をかけようか迷っていると檸檬から電話がかかって来た。檸檬は特に用事も無く電話して来たようだった。女の勘ってやつかもしれない。結局三時間ぐらい話して檸檬は電話を切った。おれは、もどかしい気持ちで寝た。
次の日、何か嫌な予感がして野球部を抜け出して同好会の教室に入った。何とそこには中島翔太の姿があった。手には血のついたナイフを持っていた。伸二が腹を押さえて倒れていた。
「よう!死にぞこないの塩見!」
と言って翔太は律子に迫っていた。
「やめろ!」
「おっと!塩見、床を見てみろ。」
俺が翔太に言われて床を見てみると何かの液体がばら撒かれていた。
「何だよ!これは?」
液体?ガソリン?
「火付けたら綺麗に燃えるぜ!」
と翔太は言って律子の腹部をナイフで刺した。
律子は、その場に倒れた。動けない。翔太はガソリンを頭から被って火を付けようとしている。
「待て!俺に恨みがあるんだろ?」
俺は、律子と伸二を助ける。
「俺を殺せば良いだろ?」
「確かに。」
と翔太は言って俺の腹部にもナイフを突き刺した。
何だ?この感覚?体から力が抜けてく。翔太はゲラゲラ笑っていた。そこで意識は途切れた。
また、目を覚ますとベッドの上だった。
腹部に鋭い痛みが走った。
後から聞いたが律子が警察と消防署に刺される前にスマホで連絡したらしかった。間一髪で翔太は逮捕された。翔太は、鑑別所を抜け出して逃亡中だったようだ。
律子も伸二も奇跡的に助かった。
昏睡状態の律子に、俺はサンキューなと呟いた。