俺は、野球部で球拾いをしていた。楽しかった。寝てばっかりで体は重たかったが、汗をかいて気持ちが、スッキリした気持ちになっていた。一緒に球拾いしていた田中伸二が俺に質問してきた。
「何で塩見君が球拾いしてんの?」
「え?基本一年生は球拾いっしょ?」
と俺は不思議そうな顔をしてる伸二に答えた。
監督が俺に近づいて来て
「どうだ?ブルペンで投げてみないか?」
と言って来た。
「いや、一年なんで球拾いで良いです。」
「塩見、どうした?お前ほどの投手が。」
と監督は不思議そうな顔をしている。
「投手?俺、投手なんですか?」
「お前、」
と監督は言葉を失ったかのようにその場を去った。
俺は、何故だか野球が楽しくて仕方が無い。
その後、俺を金属バットで殴った犯人が捕まった。同じ一年生の中島翔太とその他三人だった。傷害容疑で逮捕された四人は退学処分になり少年院送りになった。俺は、テレビを見て初めて知った。しかし、今の自分には野球があると思い気にも止めなかった。後、檸檬が野球部のマネージャーになった。
「檸檬ちゃん、どうしたの?まぁ、みんな檸檬ちゃんみたいな美人さんがマネージャーになってくれて喜んでるけどね。」
檸檬は、複雑そうな顔をしてマメだらけの俺の手を握ってくれた。
「でも、同好会は?」
と俺は檸檬に聞いた。
「律子ちゃんが、続けてる。」
「そっか、良かった。」
俺は、一人になった律子の事など忘れて野球に打ち込んだ。最近では、ブルペンでも投げさせてもらっている。監督も部員のみんなも喜んでくれていた。それが何よりも俺は嬉しかった。帰りは檸檬と二人で下校した。
ある日、檸檬が別れ際に
「塩見君、良かったらわたしと付き合ってくれない?」
と言ってくれた。
俺は即答した。
「うん。こんな、俺で良いなら。」
檸檬は、嬉しそうな顔をして俺にくっついて来た。檸檬の大きな胸が俺の腕に当たった。こんなに幸せで良いのだろうか?と思った。少し律子の事が頭をよぎった。
「律子ちゃんは、同好会、一人で活動してるの?」
とご機嫌な檸檬に聞いた。
「そうだよ。活動っていっても放課後、教室でDVD観てるだけだけどね。」
と檸檬は陽気に答えた。
「ふーん。」
何故か、律子の事が、気になった。
三学期の後半に俺は野球部の練習を抜け出して律子がいる教室に行ってみた。
律子は、黙って映画を観ていた。
「律子ちゃん、元気?」
と俺は聞いた。
律子は、少し驚いた様子で
「野球部の練習は?」
と聞いて来た。
「あぁ、ちょっと抜け出して来た。本当に一人でDVD観てたんだね?」
と俺が答えて少し律子は沈黙した。
「塩見君、別人だね。」
と律子が、沈黙を破るように言って来た。
「そうなの?」
と俺は不思議そうにテレビ画面を見つめている律子に聞いた。
「そうだよ、前はもっと暗くて無口で映画好きで本ばっかり読んでたのに。」
と律子は答えた。
「マジで?信じられない。こんなに野球楽しいのに野球部に入部すらしてなかったなんて。」
何か自分で俺は言いながら不思議な気持ちになった。前の自分が暗くて無口で本ばっかり読んでる。まるで劣等性だ。