教室中に重たい雰囲気が漂っていた。映画は、恋愛物だった。檸檬と俺は一番後ろの席に座って檸檬は俺の腕を掴んで離さない。律子は、いつもの通り窓際の先頭に座って映画に夢中だ。翔太は時々、俺達を見ては舌打ちをして廊下側に座っている。気まずくて俺は耐えられなくなって席を立った。
「トイレ行くわ。」
「じゃあ、わたしも。」
と檸檬は付いて来た。翔太はあからさまに不機嫌な態度だ。律子は微動だにしない。教室を出るとスッと体が軽くなった。檸檬は、とてもご機嫌が良い。しかし。
「何で電話、メールくれなかったの?」
と聞いて来た。
「ばあちゃん具合悪くて目が離せなかったんだよね。ごめん。」
と俺は言い訳した。おばあちゃんごめん。健康なおばあちゃんごめんと何度も心の中でごめんと謝った。罪悪感に襲われた。
「それじゃあ、仕方無いね。でも、同好会に来たって事はおばあちゃん体調良くなったんだね?」
「あぁ、まぁ、そうだね。」
俺は、もう、しどろもどろである。
トイレ行く前も行った後も檸檬は中島翔太の文句ばかり言っている。
「中身が、バカで気持ち悪い!」
俺と檸檬は、教室の前で見てしまった。翔太が律子の隣の席に座って必死で何か訴えてるのが。よくよく耳を澄まして聞いてると会話が聞こえて来た。
「あの、二人もよろしくやってるんだから律子ちゃんと俺も仲良くしようぜ?」
「断わる!」
律子は、映画鑑賞を邪魔されると人が変わったように態度が急変して不機嫌になる。
「調子乗るなよ!ブス!」
と翔太は言って律子の頬を平手打ちした。
「てめー!」
と俺は、檸檬を振り切って教室に入り翔太を殴った。そして倒れ込んだ、翔太に馬乗りになり顔面を殴り続けた。翔太の端正な顔が段々崩れて涙と血と鼻水でぐちゃぐちゃになった時に律子が俺に
「もう、やめて!」
と叫んだ。
痛い痛いよ〜と情けなく翔太は言って泣いている。
檸檬も近づいて来て
「こんな最低野郎、退会にしよ!」
翔太を見て言った。
「お前、女に手を上げるってどういう事だよ?」
と俺は泣いて痛がっている翔太に聞いた。翔太は俺を見て後退りした。すみませんでした。もうしませんと翔太は土下座した。律子は、映画の世界に戻っている様子だった。檸檬は、俺の拳を綺麗なハンカチで拭いていた。
結局、その後、翔太は俺の担任にチクリを入れて俺は、何も言わずに一週間の停学処分になった。律子と檸檬には口止めした。殴った事には変わりは無いからだ。謹慎中、檸檬は毎日、俺のうちに来ては未知子、有紗、一郎と仲良くなっていた。律子は、毎日、映画のDVDを持って来てはどんまいと言って帰って行った。