冬休みが終っても俺は映画研究会にいた。
「野球やるんじゃなかったの?」
と律子に放課後、聞かれた。
「野球?」檸檬が首を傾げている。
「何かここ居心地の良いからさ。
と俺は言い訳した。
キツい練習についていけるか心配だった。一年弱、鍛えてないメンタル、フィジカル。最近、野球部の練習を見ていると大寺学監督に声を俺はかけられた。高圧的な態度は入学した時から変わっていない。
「あそこでエラーは無いよな。」
と中学生の時、全国大会をかけた試合で俺はエラーした。
その試合を監督は見てたらしい。しかし、ピッチャーの俺には強豪校からのスポーツ推薦の話が来た。エラーして全国逃してスポーツ推薦なんて受けれないと断った。恥ずかしいが俺は負けた時、ずっと泣いていてメンバーに謝れなかった。俺は、完全に殻に閉じこもった。
「野球またやる気になったか?」
と学は俺に聞いて来た。
「いえ。」
とだけ言って逃げるようにグラウンドを後にした。
それを、俺は、律子と檸檬に話した。律子も檸檬も無反応だった。俺と野球がかけ離れているからだと思う。帰り道、檸檬は、
「野球ってそんなに楽しいの?」
と俺に聞いて来た。
俺は黙った。
「映画研究会にいてよ。」
と檸檬は言った。
「うん。」
と俺は答えた。
檸檬は、俺にキスして来た。
「わたし、塩見君が好き。」
と言って急いで走って帰ってしまった。
ファーストキスか〜とぼんやり俺は唇に触れて思っていた。何故か俺は律子と話したくなった。自動販売機でコーヒーを買いながら律子に電話した。律子は、
「映画見てた。」
と唐突に言って来た。
「何の映画?」
それから俺と律子は三時間くらい話した。
「もしかして外にいるの?」
と律子は聞いて来た。
「そうだよ。」
「また、風邪引くよ。」
と自分が風邪を移した自覚が律子には無い。
「早く家に帰りな。」と律子は、一方的に電話を切った。
家に帰ると未知子が、
「有紗が帰って来ない。」
と心配していた。
「まだ 、電車の中じゃないの?」
と俺が言うと、
「メールも電話もブロックされてるみたいなの。」
と未知子は嘆いている。
あんだけ厳しくされりゃあなと俺は思ってテーブルに置いてあるオムライスを電子レンジに入れた。
「洋、バイクで探して来て!」
と未知子は俺に言って来た。
あまりに必死な未知子の形相にたじろいで
「分かった。」
と玄関を出てバイクに乗った。
バイクを走らせてすぐに有紗は見つかった。この寒い中近所の公園のベンチに座っていた。俺は、バイクを停めて公園の中に入った。
「ママ、心配してるぞ。」
と足元を見つめてじっと動かない有紗に俺は言った。
「わたし、最近、死にたくなるんだよね。」
と有紗が無表情で呟いた。
「ママの期待に応えるの疲れた?」
と俺はなるべく優しく聞いた。
「それもあるけど、二時間半かけてバス、電車で通うの疲れちゃって。」
「だよね~彼氏と会う時間も無くない?」
と俺は聞いた。
「会ってるよ。」と有紗は答えた。
色々話していると未知子から電話が来た。
「有紗いた?」「うん。今から帰る。」
と俺は言って電話を切った。