十一月のある日、私は借りていた本を返すために彼の部屋の前にやって来た。
何度、扉をノックしても彼からの返事はない。今朝のうちに連絡していたから、彼の性格からして部屋にいるはずなんだけど…
心配になってドアをそっと開けてみるが、こちらからは彼の姿は確認できない。
勝手に入ることを申し訳ないと思いつつ、部屋の中へと進んでいく。
ベットに上半身だけ預けた彼を見つけて慌てて近寄る。息は……口の傍に手をあててみるとちゃんと息をしていた。
じゃあ熱……? 今度はおでこを触って確認するが、平熱だと思われる。
ならば、ただ寝ているだけか。一安心して彼の寝顔をジッと眺める。
ああ、こうしてみても彼はやっぱり綺麗だ。
その瞳に見つめられるだけで私はどれだけ胸が苦しくなるか分からない。
君に出会ってから私はずっと――
そう思いながら、無造作に投げ出された彼の手のひら。その長い指先に触れる。
その瞬間、彼に私の手が掴まれた。力強く腕を引かれて、私はそのまま彼の傍に寝転がる形になる。
普段は私の方が強がっているのに、時折見せる彼の強さが私の胸を締め付ける。
「……にいて……」
彼の口から零れる言葉が聞き取れない。何か苦しい夢でも見ているのだろうかと心配になってしまう。
「大和? どうしたの?」
耳元で小さく囁く。
「傍にいて……」
耳を疑う言葉。なぜなら彼は厳しい祖母に育てられたせいか、人に頼ったり甘えたりすることは滅多になくて……
でもどんな時だって彼の傍に私はいた。怒りを堪えた時も、瞳に浮かんだ涙が零れないように耐えた時も。
離れていた両親に会えて満面の笑みを咲かせた時も。
――ずっと、ずっと大和の傍には私がいたから。
「お願い、傍にいて? 彩…」
彼の呟きに顔が熱くなる。
勝手な私の感情で四月からは遠くへ離れ離れになるというのに、まだ彼は私を必要としてくれてる。
トクトクとうるさい胸の鼓動。そうやって君は私の心を掻き乱していく。
その顔で、その声で、その行動で。
掴まれた腕から伝わる体温がもの凄く心地よくて、彼の寝息が耳にくすぐったくて……
幸せでそれでいて切なくて、左の瞳から涙が一粒だけこぼれ落ちた。
――ねえ。本当は、私もずっと君の傍にいたいんです。