「それじゃ、まずはこれを見て欲しいのだ」
そう言って、ミラは〝素敵空間〟を行き来する時に使用してた例の手の平サイズのタブレットらしき機械を取り出した。
「トト様の〝推しアイドル〟のホログラフィ映像を出して欲しいのじゃ」
ミラが機械に話しかけると、電子音声が流れる。
「ラジャー! ニンキアイドルノ 〝ジャンヌ・ベクトル・ウピウピ・カールトン・ラーイトノベル・ダート・ナーフ・クヒョヒョ・ウリャー・アリャー・コリャー・ポポー・トウキョウトッキョキョカキョク・ナマムギナマゴメナマタマゴ・イブチャーン〟デスネ?」
電子音声が、訳わかんない事を言い終えると同時に、タブレット状の機械の画面から物凄く可愛くて綺麗な女の子のホログラフィ映像が飛び出してきた。
当然ながら、全く見たことない子だ。2110年のアイドルなのかしら?
「へー。このアイドルの女の子、ホログラフィ映像なのか。まるで本物みたいね。何て名前の子なの?」
……昨日から色んな経験して慣れてきたせいか、このぐらいの事では驚かなくなってきた自分が怖いわ。
「今、言ってたのだ!このアイドルは……えーと、名前なんだったかの?」
「〝ジャンヌ・ベクトル・ウピウピ・カールトン・ラーイトノベル・ダート・ナーフ・クヒョヒョ・ウリャー・アリャー・コリャー・ポポー・トウキョウトッキョキョカキョク・ナマムギナマゴメナマタマゴ・イブチャーン〟デスヨ!」
女の子の名前が言い出せないミラに、助け舟を出すかのように、再び電子音声が流れる。
「あー!そうそう!ジャンヌ・なんとか・イブチャーンなのじゃ」
えっ?さっきの呪文みたいな言葉って、このアイドルの名前だったの?どさくさにまぎれて、名前の中に早口言葉も交じってなかった?
「綺麗で可愛いけど、長くて変な名前ね。これじゃフルネームを言えるファンなんていないんじゃない?」
「トト様は、一度聞いただけで、この子のフルネームを覚えられたぞ」
「すげえな!アイツ!……それで、このアイドルちゃんと
「ジャンヌ・なんとか・イブチャーンは、ベガ星の超人気アイドルで、今度1年間かけて天の川を巡るライブツアーを行うのだ。昔助けたベガ星人と一緒に、
「………………………………………………………………え?」
ち、ちょっーと、冷静になろうか?味蕾来夢!
フー!フー!深呼吸!深呼吸!
えーと、今の話だと、華印はベガ星人の推しアイドルの〝天の川ライブツアー〟に行きたくて、私に1年間もミラを預けたってわけ?
ううん!きっと私の聞き間違いよね!?
「ねえ?ミラ?華印は、このベガ星人の推しアイドルのライブに行くのが大事な用事って聞こえた気がするけど、そうじゃないわよね?」
「いや、その通りなのじゃよ?」
「あんのドルヲタがあぁぁぁー!
特撮ヒーローみたいに、地球を守るために1人きりで悪の組織と戦うため!……とまでは言わないけど、家族と別れてでも遂行しなきゃいけない大切な〝男の任務〟みたいなのを想像してたのに!アイドルのライブツアーだったのかよー!?公園での私の涙を返せー!
「落ち着くのだ。ひいおばあ様。トト様の事をそんなに怒らないであげてほしいのだ」
「ミラ!あんたはそんな理由で、こんな時代に預けられて腹立たないの?」
「トト様もカカ様が亡くなってから、1人でミラの事を頑張って育ててくれたから大変だったし、たまには息抜きも必要だと思うのじゃ!だから、ミラはこの時代でお留守番をするのだ。トト様が2110年に帰った時は寂しくて悲しかったけど、ひいおばあ様がいてくれるから今は寂しくないぞ」
ミラは、そう言いながら例の機械を操作する。すると、ジャンヌなんとかちゃんのホログラフィ映像は消えてしまった。
「ま、まあ、ミラがそう思うなら、別にいいけどさ」
ミラの言葉を聞いてたら照れ臭くなって、怒りが消えてきちゃったな。はあーあ。我ながらチョロい性格だわ。
「どうでもいいけど、ベガ星人の言語って地球人には分からないんでしょ?そんな娘の曲なんか聴いて楽しいのかしら?」
「トト様は『この娘の歌は言葉は分からなくても魂に響いてくる名曲なんだよ!』って言ってノリノリで聴いてたのう。あ!天の川でミラのために
〝ピコン〟
その時、スマホから受信音が鳴った。
バンドのグループLINEに書き込みがあったみたいだ。
「菜々子からか。えーと『おはよう来夢ちゃん!皇ちゃん!今日の夜打ち合わせしたいから、駅前のファミレスに来れるかな?』か。打ち合わせ?何かあったのかな?」
『おはよー!菜々子。私は、今日バイトあるから20時くらいならOKだよ』と書いて返信する。
〝ピコン〟
また通知音が鳴ったので、グループLINEを開くと皇から『アタシも、その時間なら大丈夫だよ。来夢!遅れたらアタシにビール奢りだよ!クククッ!』という書き込みだった。昨日あんな喧嘩したけど、引きずらないのがアイツの良い所だな。
〝ピコン〟
菜々子から『2人とも、昨日みたいに飲みすぎちゃダメだよ!それじゃ20時にファミレスでね!』と返信が来たので、私は『後でね!』という内容のスタンプを送信する。
スマホの画面を何気なく見ると、時間は10時前だった。
「もうこんな時間?そろそろバイト行く用意しなきゃ」
「ひいおばあ様。出かけるのか?」
「そうよ。11時から定食屋のバイトがあるの」
「ミラも行きたいのだ!2025年の街を見てみたいのだー!」
「えー?子供なんか連れて行けないわよー!」
「やだー!行きたい!行きたいのだー!そうじゃ!
ミラは、そう言って例のタブレットみたいな機械を取り出した……って、いい加減言いにくいな。この機械の名前は何て言うのかしら?
「それじゃあ〝今日は思い
「ラジャー!〝キョウハオモイキッテ!キグルミチャン〟デスネ?ネンレイセッテイハ、イカガイタシマスカ?」
ミラの言葉に、機械の電子音声が答える。
「
「ラジャー!〝キョウハオモイキッテ!キグルミチャン〟ヲハツドウシマス!」
機械の電子音声が言い終えると同時に、ミラの全身が輝き始めた!
「キャッ!!こ、これは!?」
その輝きが収まると、私の目の前に立っていたのは……!?