…………あれ?ここは、どこだろ?
私は、辺りを見渡した。
どうやら、どこかの幼稚園のグラウンドのようだった。
何で、私はこんな所にいるの?一体いつから?
周囲には誰の姿も無く、不気味なくらい静まり返っている。
「来夢ちゃーん!ウフフ!」
気がつくと、私の目の前には
「菜々子?いつからいたの?それよりも、ここどこ?幼稚園……なの?」
菜々子は、私の質問に答えずニコニコしてる。
「ねえ、私の声が聞こえてないの?」
「どうした来夢?そんなマヌケな顔しちゃってさ!キャハハ!」
この声は
「皇でしょ?ねえ?どこにいるのよ!」
「ここだよ!ここ!」
声のした方を振り向くと、皇がグラウンド内のブランコを漕いでいる。
右手には缶ビールを持っており、すでに酔っ払ってるみたい。
あれ?さっき見た時は誰もいなかったのに……?
ブランコから降りた皇はビールを飲みながら、私に近づいてくる。
「カァー!うめぇ~!ほら!来夢も一杯
皇が胸の谷間から取り出した缶ビールを勧めてくる。
「そんな乳臭くて生温いビールが飲めるかー!」
ったく!少しくらい胸が大きいからって、嫌味な真似しやがって!
「ダメだよ皇ちゃん!来夢ちゃん、もうお婆ちゃんなんだから、お酒を飲ませちゃ!」
菜々子何言ってんの?お婆ちゃん?私まだ19歳だよ?
「あ!そうだった!悪い!悪い!それじゃこのビールはアタシが飲むか!しかし、来夢も水臭いじゃないか!アタシらにお婆ちゃんになった事を黙ってるなんてさー!ゴキュ!ゴキュ!プハー!もう、来夢はバンド引退だな?だって、孫の面倒見なきゃいけないんだろ?ニヒヒ!」
「ち、ちょっと、皇まで何を訳わかんない事を言ってるの?それに私が抜けたらスーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズは、どうなるのよ!?」
「大丈夫だよ!来夢ちゃんの代わりに新メンバーが入ってくれたから!」
菜々子が満面の笑みを浮かべている。
この娘、笑顔でとんでもない事を言いやがるな!こんな性格だったか?
「キャーホッホッホー!!キャーホホホー!!」
突然、狂ったゴリラみたいなクソウゼえ笑い声が聞こえてきた!
何よ?この下品な笑い声!聞いてるだけで、こっちの頭も狂いそう!怪獣ライブキング(※)でもいるのかよ?
声のする方を見ると、グラウンドの端にあるジャングルジムのてっぺんに、誰かが立っている!
遠くて顔が見えない。誰なの?
「今行きますわよ!とぉー!」
〝ソイツ〟は呼んでもないのに勝手に飛び降りて着地した瞬間、こちらに向かって全力疾走してくる!
いや、こっち来んなよ!
「キ、キャーホッホッホー!!ハア!ハア!み、味蕾来夢!フウ!フウ!も、もうお前はお払い箱ですのよー!キャーホ、ホッホッホッホーゥ!……ウッ!ゴ、ゴホン!ゲ、ゲフン!」
私の目の前に立ちはだかったソイツは怪獣ライブキング!……ではなく、憎きダイヤモンドブレイカーズのオーヴァー・ジュリエッタだった!
どうでもいいけど、今カッコつけて高笑いしようとしたら咳き込んでなかった?プッ!だっさ!
「来夢!紹介するよー!スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズの新ボーカル兼ギター担当のオーヴァー・ジュリエッタ様さ!」
皇が、何故かオーヴァーをお姫様抱っこしながら、私に言った。
「さあー!菜々子!皇!新生スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズの初ライブですのよ!早く会場へレッツ・ゴー!するのよ!」
「OKさ!オーヴァー様!」
皇がウインクして返事する。
「はーい!オーヴァーちゃーん!という訳で菜々子たちライブ行ってくるね!来夢お婆ちゃんサ・ヨ・ナ・ラ!」
菜々子は手を振りながら、私のメンタルを抉るような事を言ってきやがる!
オーヴァーを抱っこしたままの皇と、菜々子は私に背を向けて歩き始めた。
「お前ら行くなよ!私からバンド取り上げたら、ただの痛い特撮ヲタクになっちまうだろーが!」
私は菜々子達を追いかけるが、距離が全然縮まらない!
「ひ〜〜い〜〜おばあ〜〜さ〜〜ま〜〜!!」
突然、上空から怪獣みたいな唸り声が聞こえてきた!
「え?ひっ!な、何あれ!?」
空を見上げた私は、あり得ない光景を見てしまい思わず腰を抜かしてしまった。
「な、何で、空一面にピンク色の髪をした女の子の顔が浮かんでんの?くっ!で、出たなー!怪獣・幼女ザウルスめ!お前はショッカーの刺客なのか?それともバルタン星人の手先か!?お、お前なんか全然怖くないぞ!」
私は何とか立ち上がり、虚勢を張って幼女ザウルスに言い放つ。
「お〜〜せわ〜〜するのじゃ〜〜!!」
幼女ザウルスは、そう言って大きく口を開けた。
その瞬間、私の体が空に浮かび上がる。
ちくしょう!こいつめ!私を吸い込んで食べる気か!?
「や、やめて!助けてー!」
私は空中で手足をバタバタさせるが、その抵抗も虚しく幼女ザウルスに飲み込まれてしまった………。
「う、うわぁぁー!!ハアハア!……ゆ、夢だったの?」
私は、自分の叫び声で眠りから覚めた事に気がついた。
※『ウルトラマンタロウ』第2~3話に登場する怪獣。人間の笑い声みたいな咆哮が特徴的。