「本当にタイムワープしちゃった……の?」
私は、先程までブラックホールがあった付近の空を眺めながら呟いた。
今となっては、タイムカプセルやブラックホールなどのベガ星人の痕跡は何も無い。
例えば、この場を通りかかった人が現れたとして、『つい数分前まで、この空にはブラックホールが出来てて、ここにはタイムマシーンがあったんですよ!』と説明しても、その人は信じてくれないだろう。
無理もない。この私でさえ(ひょっとして、今まで見てたのは夢か幻だったんじゃないか?)と、思い始めてるくらいだからだ。
それにしても、今夜は色んな事があり過ぎたわ。僅か1時間くらいの出来事だけど、何十時間も経過したように感じる。
……ライブハウスを出禁にされ、荒れていた私の前に突然現れた未来の孫の
こと座からやってきたベガ星人っていう宇宙人が開発したカプセル型タイムマシーンのタイムカプセルや、プ、プ、プラモデルジオラマ……じゃなくて!えーと?何だっけ?まあ、いいや!〝素敵空間製造機〟などの超科学アイテムを目の当たりにした。
そして、華印は私に1年間も娘の面倒を任せて、2110年の未来へ帰ってしまった……。
何よ?この展開?昭和の特撮作品だって、ここまで無茶苦茶な話は無かったわよ!これ現実?
でも、私の目の前にはちび来夢がいる。その光景が、先程までの体験が夢でも幻でも無い事であると改めて実感した。
「まあ、こうなったからには仕方ないか!いい?私のアパート狭いんだから、絶対に部屋で騒ぐな!大人しくしてろよな?あと、私もバンド活動やバイトもあって色々と忙しいんだ!だから、私の生活ペースを乱すようなマネは絶対にするなよ!分かった!?」
私は、空を眺めてるちび来夢に、そう言った。
その直後、ちび来夢は私に対して背を向けて俯いたと同時に、その全身が小刻みに震え始める。
「……トト様、もう帰ったんじゃよね?ら、来夢、少しだけ頑張らなくても、トト様は……えぐ!……ひ……ひっく!……来夢の事を嫌いになったりしないよね?……うっ……うぅー!うっ……うわぁぁーん!トト様ー!トト様ー!わぁぁぁーん!」
ちび来夢は、いきなり泣き出し始めた!
「ち、ちょっと、あ、あんた!いきなりどうし……」
私の声が聞こえてないのか、ちび来夢の泣き声は、ますます大きくなっていく!
「うええーん!うわぁぁぁー!!うえぇ!………ぐす!……ひっく!……ひっく!……来夢は大好きなトト様と一緒にいたかった!本当は、もっともっと遊んで欲しかったし、ご飯も一緒に食べたかったし、優しくギューもして欲しかったのじゃ!……でも!でも!トト様の大事な用事を邪魔しちゃいけないから、来夢はトト様の前で泣かなかったのじゃ!我慢して頑張ったのじゃ!トト様!明日からもっと頑張るから!だから来夢の事を嫌いにならないで!1人にしないでほしいのじゃー!うわぁぁーん!うわぁぁーん!」
……私は、いつの間にか大粒の涙を流してる事に気がついた。
それは、自分でも止められなくて、次々と溢れ出してくる!
どうして、私は泣いてるの?
昭和特撮ヒーロー番組の主人公たちは、基本的に子供好きだけど、私はどちらかと言えば子供が嫌いだし、そこは真似出来ない部分だった。
だって、私がリアルで出会った子供達は、公園で特撮ヒーロー番組主題歌のアカペラ練習してると『やーい!やーい!オタク姉ちゃん!』とか、『ダッサ!そんな歌、今どき誰も聞かねーよ!』と言ってバカにしてきた連中ばかりだったから。
だから、私は目の前で子供が転んだり、喧嘩して泣いてるのを見ても可哀想とは思わなかったし、むしろ(ざまあみろ!)と思ってたくらいだ。
でも!でも!ちきしょう!何でだよ!?目の前にいるのは、出会って1時間くらいしか経ってない小生意気な子供じゃない?
どうして、この子が泣いてる姿を見てると私の心がズキズキ痛むんだよ!?意味分かんねーよ!誰か教えてよ!!
ちび来夢の涙の一粒一粒が、まるで散弾銃の弾丸のように私の心を削ってきやがる!
何なんだよ!?こんな気持は初めてだよ!!
この子が、私の曾孫だから?
だから、子供嫌いのはずの私が預かる気になったの?
タイムマシーンは人間の体だけじゃなくて、
なあ?ちび来夢!ついさっきまで、そんな泣き虫な所を全然見せなかったよね?大好きなトト様のために我慢してたって?本当は、もっと甘えたかったんだろ!?小さな子供のくせにカッコつけすぎなのよ!バカヤロー!!
華印は、自分の時代に帰っただけだし、1年後には迎えに来ると言った。その言葉は、多分嘘じゃないと思うから、永遠の別れという訳ではない。
しかし、
この子にとって、それは
ちび来夢って、まだ5、6歳くらいの女の子だよね?私が、この子と同じ歳くらいの頃は何してた?
両親と姉ちゃんの家族に囲まれて、幸せ生活を満喫してたよね?もしも、当時の私が今のちび来夢と同じ状況だったら、とっくの昔に泣き叫んでたんじゃないの?
この子は、父親の前では涙を一切見せずに我慢してた!笑ってた!私なんかより、ずっと強い子じゃない!
そう思った瞬間、私は、ちび来夢の背中を力一杯抱きしめていた。
「えぐ!……ひっく!……ひっく!……ひ、ひいおばあ様?……何をするのじゃ?」
「……なんかじゃない!」
「えっ?」
「お……お前は1人ぼっちなんかじゃない!いるだろ!私が!
「ひいおばあ様ー!うわぁぁーん!うわぁぁーん!」
ちび来夢は、私の胸に顔を埋めて、更に泣いた。
私も堪えきれず、もっと声をあげて泣いた。
私達は、抱き合って泣き続けた。
「お嬢ちゃん達、こんな時間に何してるんだい?」
……突然、背後から声をかけられたので、私は泣いたまま振り向く。
そこには、40代くらいのお巡りさんがいた。
「いや、近所の人から女の子が大声で泣いてるって通報があったもんでね。何で泣いてんの?とりあえず、話を聞かせてくれるかな?」
「ぐす!……ひっく!……ひっく!……あ、い、いや!な、何でもないんです!ちょっと口喧嘩しちゃってて、えっと、それでもって熱くなり過ぎて涙が出てきただけなんです!お騒がせしてごめんなさい!ア、アハハ!」
私は、慌てて涙を拭いて、お巡りさんに適当に思いついた事を話す。
「こんな夜中に?こんな場所で?とりあえず、免許証とか持ってたら、見せてもらってもいいかな?」
「あ、はい」
私は、お巡りさんに原付の免許証を渡した。
「えーと、名前は
「あ、ああー。え、えっと、そうそう!姉妹なんですよ!私達!妹なんです!この子!!」
「本当かい?それじゃ妹ちゃん、お巡りさんに、お名前聞かせてくれるかな?」
「味蕾来夢なのじゃ!」
いつの間にか泣き止んでいたちび来夢は、大声で答えた。
「味蕾来夢?姉妹なのに同じ名前なの?」
ヤバい!完全に怪しまれてる!何とか誤魔化さないと!
「そ、そうなんですよねー!私達の親って何考えて名前を付けたんでしょうかねー?家では、私は『おい!でか来夢!』、妹は『ねえ?ちび来夢ちゃん』って呼ばれてるんですよ!エヘヘへ!」
「……どうも怪しいな。とりあえず、交番まで一緒に来てくれるかな?」
えー!?それは非常にマズい!本当の事なんか言えないし、話した所で信じてくれる訳ない!どうする?私?
「お巡りさん!来夢達は、本当の姉妹なのじゃ!来夢が我儘言って家出しようとしたら、お姉様が怒って、ここまで追いかけてきてくれたのじゃ!疑ってるなら、血液検査でもDNA鑑定でもしてくれて構わないのだ!」
そう言って、ちび来夢は袖をまくった右腕をお巡りさんに差し出す。
「あー、分かった!分かった!ともかく、女の子達だけで、こんな時間に出歩いてちゃダメだよ!お姉ちゃん!もう仲直りしたんだろ?妹ちゃんを連れて早く帰んなさいよ」
ちび来夢の想いが伝わったのか、お巡りさんは(やれやれ仕方ないなぁ)というような表情をして、優しい口調で言った。
「は、はい!分かりました」
「それじゃあね!もう姉妹喧嘩するんじゃないよ!」
お巡りさんは、公園から去っていった。
「さーてと、家帰るよ!おいで〝ミラ〟!」
「ミラ……?それって、来夢の事なのか?」
「そうよ!あんたが、この時代にいる間の名前!私と同じ名前じゃ、今みたいに色々不便だからよ!……一緒に暮らすんだし」
「どうして、ミラなのじゃ?」
「あんたは
「そんな事ないのじゃ!ありがとう!ひいおばあ様!」
私とミラは、手を繋いで歩き始める。
あれ?今、私から手を繋いだんだっけ?それとも、この子から?
私は〝その瞬間〟を思い出せないくらい、自然に手を繋いでた事に気がついた。
ウフフ!変なの!でも、こういうの悪くないかもね!
「ねえ?特撮ヒーローたち。私、これで間違っていないよね?」
「ひいおばあ様、何か言ったか?」
「な、何でもないわよ!」
そう言って、私は夜空を見上げる。
たくさんの昭和特撮ヒーローたちが、サムズアップして私を励ましてくれてる姿が見えたような気がする……。
今は、これで良い。多分何とかなるよ!
〜次回、第3曲目「ミラちゃん はじめての2025ねん!〜死闘!?来夢VSオーヴァー〜」に続く!〜