……気がつくと、私は1人きりで閑静な住宅街を歩いてた。
確か、楽屋で皇と喧嘩して、その後はどうしたんだっけ?っていうか、ここどこ?あれ?ギターが無い!
周りを探して見たけど、どこにも見当たらない。
「無い!無い!!私の命の次に大事なギターが!どこ行ったー!?」
駄目だ!飲みすぎたか?皇と喧嘩した後の事が全然思い出せない!
「仕方ない。菜々子に聞いてみるか」
私は、スマホを取り出して菜々子にLINE電話を掛ける。
「もしもし、来夢ちゃん!?今、どこにいるの?」
「あー、ライブハウスの近くかな?っていうか、菜々子こそどこにいんの?ライブハウス?」
「そんなわけないでしょ!来夢ちゃん、さっきのこと覚えてないの!?ねえ!!!」
菜々子が声を荒げて、私に問い詰める。ヤバい!菜々子の奴、マジで怒ってる!これ以上、刺激しない方がいいな。
「アハハ!少ーしだけ飲み過ぎたみたいで、思い出せないの!テヘペロ♪来夢ちゃんったら悪い子!だからー菜々子さん、お馬鹿な来夢ちゃんに教えてくれるかなー?」
私は、能天気キャラを演じて、菜々子から話を引き出そうと試みる。
「テヘペロ♪って、来夢ちゃんたらお茶目なんだからー!……なんて言うとでも思った!?ふざけないでよ!!来夢ちゃんと皇ちゃんが、楽屋で大喧嘩したせいで、私達、他のバンドメンバーやスタッフの人達から、ライブハウスを追い出されたんだよ!2人ともどこか行っちゃったから、私が一生懸命謝ったんだけど、もうあそこは出禁だって!せっかく広い楽屋があって良い所だったのに!自分のやらかした事の重大さ、本当に分かってるの?これで、出禁にされたの何件目よ!うわぁぁーん!もう、私の人生は、お先真っ暗だよー!こんな歳だから、今更まともな会社に働けないし、バンド活動は全然上手く行かないから、お金もどんどん無くなって、近い内にヤクザのお兄さんに、お風呂屋さんに送られるんだ!そして、一生水垢でヌメヌメになったお風呂をベロで舐めて掃除させられたり、湯上がりのお客さんにフルーツ牛乳を配るけど、それが不味かったら怒られる人生を過ごすんだよ!わぁぁーん!そんなの嫌ー!ちゃんとした会社でOLさんをやって、そこで出会った人と結婚して暖かい家庭を作りたかったよー!お母さん、ごめんなさい!!わぁぁぁー!!」
「あ、あのー菜々子?お前の想像してるお風呂屋さんって、そんな仕事はしないと思うぞ?もっとこう18禁的な〝あんな事〟や〝こんな事〟とかな……っていうか、たかがライブハウス1件出禁になったくらいで、悪く考え過ぎだよー」
暴走してネガティブモード120、いや200%となってしまった菜々子を落ち着かせようとしたが、私の言葉は、全然聞こえてない!
「とにかくごめん!今日の事は私が悪かった!もう寝ろよ!また、連絡するからな?それじゃ!宿題やれよー!」
これ以上、菜々子に喋らせると、もっとマズい事になりそうなので、半ば強引に通話を終了した。
皇は……。まあ、アイツの事だから、ほっといても大丈夫だろう!
「はあ、また出禁か。こんな事を繰り返してちゃ、マジで駄目だよな」
菜々子との通話では、気にしてないフリをしていたが、今日の場所も出禁扱いにされた事は、私自身も結構ショックだったので、思わず溜息と独り言が出る。
出禁になったライブハウスは、今日で3軒目になった。
まだ、バンド結成して、半年だよ!?それなのに2ヶ月に1軒のペースで出禁にされたら、都内で演奏させてくれる所なんて、すぐに無くなっちゃうよ!
「あー!何やってんだよ!私のバカバカ!」
自己嫌悪に陥った私は、自分の頭を数回ゲンコツで殴打する。
原因は、分かってる。私らなりに一生懸命演奏してるつもりなんだけど、全然ノッてくれない観客達、そんな私らとは正反対に、どんどん知名度とファンを増やしてくダイヤモンドブレイカーズの存在が、私らの……いや、私の嫉妬と苛立ちを募らせてるんだよ!
「ちきしょー!」
自分の感情を抑えきれず、私は、再び叫んでしまう。
「駄目だよ。お婆ちゃん。もう夜も遅いんだから、大声出しちゃ!」
「えっ?誰?」
突然、背後から声をかけられたので、反射的に振り返ると、二十代後半くらいのニコニコした痩せ気味で青色の髪の男と、5~6歳くらいで、髪がピンク色の女の子が立っていた。