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ギャルバンで昭和特撮ヲタの私が、ひいおばあちゃんになった話
ギャルバンで昭和特撮ヲタの私が、ひいおばあちゃんになった話
ひらやまけんじ
SF時間SF
2025年02月05日
公開日
5.9万字
連載中
1970~80年代の特撮ヒーロー主題歌のコピーバンド「スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ」のギターボーカルの味蕾来夢【みらいらいむ】は、自身の音楽活動が全くウケない現状に不満を抱いていた。
 同時期にデビューした中学時代の同級生オーヴァー・ジュリエッタ(日本人)率いるアニソンコピーバンドの「ダイヤモンドブレイカーズ」が、徐々に知名度を上げている事も彼女のストレスと嫉妬を増加させる原因となっていた。
 そんなある日、来夢の前に青年と幼女が現れる。
 青年は言った。
 「―貴女の孫だよ。突然で悪いんだけどさ、俺の娘をしばらく預かってくんない?」
  幼女は言う。
 「―貴女の曾孫なのじゃ!ひいおばあ様!お世話よろしくな!」
 あり得ない状況に来夢は叫ぶ!
 「ギャルバンで昭和特撮ヲタの私が、突然ひいおばあちゃんになったんだが!?えっ?マジでー!!??」
 これは、ある日突然、曾孫を名乗る幼女と暮らす事になった1人のバンド少女の笑いアリ、涙アリ(ホント?)の日常生活を描くという予定の物語であったりするのである!!(多分)

第1曲目(1/4) 出会いは求めてないのに勝手にやってきた!

 「皆ー!今日もありがとうごさいまーす!〝スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ〟でした!」


 ここは、都内某所にあるライブハウス。今夜は、複数のインディーズバンドによるライブイベントが開催中である。


 そのステージ上では、たった今演奏を終えた1970~80年代の特撮番組主題歌のコピーバンドであるスーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズのギターボーカルの私こと味蕾来夢みらいらいむが、客席に向かって叫んでいた。


 なのに!なのに!観客の1人である青年が、愛想笑いを浮かべて拍手するだけで、40~50人くらい程の他の客たちは俯いてスマホを弄ってたり、友人同士の談笑に夢中になってたりと、私の言葉は耳に入っていないようだった。


 あり得ない!あんなに特撮ヒーローの名曲を熱唱したというのに、こいつらの心には何も響かなかったというのかしら!?


 「あのー!ウチらの演奏どうだったでしょうか!?楽しんでもらえましたかー!?」


 せっかく、気合い入れたのに、このまんまじゃ終われないわ!


 「そ、そうだー!このマフラー、素敵でしょ!?この間、古着屋で見つけまして……」


 私は、何とか観客の興味を引こうと、ライブで初お披露目となる真っ赤なマフラーの紹介をしようと思った。


 いつものステージ衣装である黒い革ジャンに、この赤マフラーを合わせた姿を鏡で見た時は、1970年代風ヒーローになれた気がして、背筋が震えたものよ!


 「はーい!ごめんね!イベント時間が押しちゃってるし、次のバンドも待機してるから、もうこの辺でね!」


 私が、マフラーの素晴らしさをたっぷりと語ろうとした瞬間!突然イベントのMCが、乱入してきて、私の話を遮ってきた。


 「ち、ちょっと、まだ話の途中……!」


 「時間押してるって言ったよね?もう、次のバンドが待機してるの!」


 そう言ったMCの顔は笑っていたけど、目は笑っていなかったのは、私にも理解出来た。


 「来夢ちゃん、もう交代しよ?」


 空気を読んだベース担当の七海菜々子ななみななこが、私の袖を引っ張る。


 くっ!悔しいが仕方ない!私は、菜々子や、ドラム担当の昴皇すばるすめらぎと一緒にステージを後にすることにした。


 「次のバンドは、皆さんお待ちかね!今、話題急上昇中の〝ダイヤモンドブレイカーズ〟だ!」


 MCの紹介と同時に、舞台袖から次の出演バンドであるダイヤモンドブレイカーズのギターボーカルのオーヴァー・ジュリエッタ(女。あとこんな名前だけど日本人だから!)、ベース担当の加藤一郎(言うまでもなく男!)と、ドラム担当でジェンダーレス生春巻(本人いわく、体は男だけど、心は乙女らしい)の3人がステージに現れる。


 「全く、貴女方の演奏は、古臭くて見てられなかったですのよ!」


 すれ違いざまに、オーヴァーが、私の耳元で呟いた。


 「な、何よ!あんたに、ウチらの音楽と熱さが……」


 しかし、私の言葉は、ダイヤモンドブレイカーズを見た途端、別人の様に生き生きとし始めた観客達の声援に遮られて、オーヴァーの耳には入らなかったようだ。


 「きゃー!ダイヤモンドブレイカーズ!待ってたわー!」

 「オーヴァーちゃーん、素敵だよー!」

 「加藤君、可愛いー!」

 「生春巻お姉様ー!あ、いや、お兄様だったかしら?どっちでもいっか!春巻様ー!」




 「……あの観客どもは、全員イタコなのかな?」


 舞台袖から、その様子を眺めていた私は、菜々子達に呟いた。


 「はっ?来夢、そりゃ、新手のボケか?どんな風にツッコミ入れてほしいんだ?全然意味分からん?」


 私の言葉の意味が伝わらなかった皇が、質問を質問で返す。


 「あー、来夢ちゃん?そもそもイタコって何?追い詰められると臭いオナラする動物だっけ?」


 「そりゃ、イタチでしょ!ベタベタなボケしないでよ!思わずツッコミしちゃったじゃない!イタコってのは、死んだ人の魂を自分の体に憑依させる事が出来る能力を持った人の事!」


 ワザとなのか、天然なのか、判別し難いボケをかましてくる菜々子に対し、ツッコミと解説をする私であった。


 「そのイタコと、今の観客達が、どう繋がるんだ?」


 漫画に例えると頭上に、クエスチョンマークを沢山浮かべてる(ように見える)皇が、再び私に問いかける。


 察し悪いなぁ!これが漫画だったら、その〝?〟を1個もぎ取って、頭を叩いてやりたい!

 内心イライラしながらも私は、2人に自らの発言の説明を始めた。


 「あの観客達、アタシらの演奏の時は、死んだ魚の目をしてスマホ弄ってたのに、アイツらの番になった途端、別人みたいにノリノリじゃん!だから、アイツら全員イタコで、今は霊に取り憑かれてるんじゃないか?っていう意味のネタよ!」


 「来夢ちゃん、その例えは分かりにくいよー。せめて、『あの観客達はエメラルドゴキブリバチなの?』って言ってくれなきゃ!」


 「菜々子、エメラルドゴキブリバチって何?」


 「ゴキブリさんをゾンビ化させて操れるハチさんのことだよ!」


 「「そっちのほうが、100万倍分かりにくいわ!」」


 私と皇のツッコミが、綺麗にハモる。


 「ふ、2人がかりで言わなくても……大体、来夢ちゃんが変な事を言うのが悪いんだよー!」


 菜々子が、半ベソで私達に反論する。


 「なあ来夢?もう、楽屋戻ろうぜ?」


 皇が、なだめるように私の肩を掴んで言った。


 「……そうね」


 楽屋に戻ってきた私は、イライラを紛らわすため、鞄の中からライブ前に買っておいた度数の強い缶チューハイを取り出した。


 本当は、終わった後に飲むつもりだったけど、もう我慢できない!


 〝プシュッ!〟


 プルトップを開ける音がした瞬間、楽屋内の出番待ちおよび、出番を終えた他のバンドメンバー達が、私の事を怪訝な目で見つめてきた。


 「ら、来夢ちゃん、他のバンドさん達もいるし、最後の挨拶もあるから、お酒は控えた方が良くない?」


 やけ酒をあおる私に対して、根が真面目な菜々子が注意してくる。


 「飲まなきゃやってらんないわ!あー、もう!何なの!ムカつく!何で、ウチらの音楽はウケないで、ダイヤモンドブレイカーズの連中の方ばかりが、チヤホヤされるんだよー!」


 「まっ、やっぱりアイツらの方が時代の流れに沿った演奏してるからかな?」


 荒れてる私の様子を見ながら、缶チューハイを飲みながら皇が冷静な口調で返してくる。


 ……ちなみに、アンタが当たり前のように飲んでるの私が買ったお酒だからな?私は、あげるなんて一切言ってないよな?


 「だからさ、アタシは前から言ってんじゃん?どうせ、コピーするなら昭和時代の特撮ヒーローの歌ばっかじゃなくて、平成、令和仮面ライダーやスーパー戦隊、ウルトラシリーズとか、最近のアニソンもセトリに入れた方が、客のウケも良いんじゃね?」


 「皇ー!何度も言ったでしょ!私が歌いたいのは〝熱い生き様〟や〝正義.友情〟をストレートにぶつけてくれる1970~80年代の特撮ヒーローソングなのよ!魂を揺さぶる名曲ばかりでしょーが!あの〝熱さ〟は、今時のJポップモドキのチャラい特ソン、アニソンには決してマネ出来ないんだから!あと、私がなけなしの金で買った酒を自分の物のように飲むなー!」


 「そんな固い事言うなよー!あ!おかわり頂くからね!プハー!ウメー!ウメー!」


 いつの間にか、皇は2本目の酒に手を付けていた。タダ酒という魅力が成せるのか?恐るべき、早業!


 「来夢ちゃん、色んな方面の方々を敵に回すような発言は止めた方が良いんじゃないかなー?」


 どこの誰に配慮したのか知らないが、菜々子が熱く語る私を止める。


 私達のバンド『スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ』が、結成してから早くも半年が過ぎた。


 都内各地のライブハウスで、開催されるイベントで演奏活動を続けているが、自慢じゃないが全くウケない!嫌がらせを受けてるかのようにウケない!


 ……突然の自分語りとなるが、高校生までの私は、友達は一人もおらず、やりたい事も無かったため、人生で1番輝くJK期間を無駄に過ごすという勿体ない時間の使い方をしていた。


 そんな日々を過ごしていた私の人生を突然変えてくれたのは、パパがBOOKOFFで買ってきた1970~80年代のウルトラマンや仮面ライダー、スーパー戦隊シリーズなどの特撮ヒーロー作品の主題歌を纏めたベストアルバムをたまたま隣で聞いた時だったの!


 今の時代では、死語になりつつある〝正義〟〝友情〟〝愛〟を熱くストレートに伝えてくる数々の曲を聞いた時、私の頭に衝撃が走ったわ!


 そして(同じ想いの仲間達とバンドを結成して、こんな素敵な曲をもっと多くの人達に、自分が歌って伝えたい!)という夢を見つけられたんだ。

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