目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第30話

俺が覚えているのは、ここまでだ。

 気がついたら、バンドアパートの中に居た。

 どうしたもんかとしばらくの間、建物の中を散策していたら、半透明になったお前の姿を見つけたから、様子を見ながら話しかけたんだ。

 陽、お前、本当は何を覚えている?

 あの後一体、何が起きたんだ?

 恐らく、頭を打って意識を失った俺が、この世ならざる、バンドアパートに彷徨っているのは、まだわかる。今、俺は死にかけてるんだろう。

 というのも、この場所は、〝死〟に近しい場所に居るほど、魅了されてしまうんじゃ無いかと思うんだ。

俺は、妹が死んで、その幻影にずっと悩まされていた。――永遠にこの症状が続くのなら、いっその事……と、血迷った事も――正直、ある。だから、幽霊達の音楽が聞こえたし、夢でアパートの一室に閉じ込められて、出られなかった。

 陽の場合は、現実に帰るのが嫌で閉じ込められたよな。

――あの時、本当はお前、死にたいって、思ってたんじゃないか?

 ――どちらも、〝帰りたい〟と強く願うことで、外に出れた。だからきっとまだ、終わりじゃない。

 でも、一体全体どうしてアンタまで、再びこのアパートに閉じ込められているんだよ?



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?