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第四章 【その男、財前 龍慈郎】



「雪音ちゃん!待ちなさい!」


待ってなんてられない。早くしないと、あの人が死んでしまう。


「ちっ、なんつー足の速さだ。遊里!早く追いつけ!」


「わかってるけどバカっ速いのよあの子!」


目に飛び込んできたのは、溺れている彼女だった。もがく彼女の首には緑色の物が巻きついている。わたしは勢いに任せて、川に飛び込んだ。






* 






「どうしたの、その顔。だいぶ酷いことになってるけど」


本日、火曜日、17時15分 ─。

出勤したわたしに掛けられた、第一声だ。


「昨日、あんま寝れなくて」


「海外ドラマか」


「んー・・・まあ」その海外ドラマも、どこまで観たか覚えていない。流してはいたけど、あまり頭に入ってこなかった。


「春香は?結局あれから飲んだの?」


「うん、そしたら火ついちゃって、夜の10時くらいまで飲んでたわ」


こやつの身体も、火をつけたら燃えそうだ。アルコールで。「店長にメールした?謝罪の」


「したわよ。あの人もあんまり覚えてないらしい」


「あそ」タクシーで爆睡していたから、無理もない。


「じゃあ、本日も張り切って行きましょう」春香が言い、「おー」わたしが応える。

このやり取りは、いつからか2人の日課になっている。こうなった経緯は覚えていないが、やらないと気持ち悪さを覚えるくらい、染みついてしまっている。実際は、張り切ってとは程遠いテンションだが。


でも、今日はそんな日課も無意味に終わりそうだ。19時に2組のカップルが来店して以来、ピタりと客足が途絶えた。外の人通りはいつもと変わらないが、今日は嫌われてしまったらしい。


「今日はもう終わりね」10時を回ったところで、春香がぼやいた。


「もうとっくに諦めてるよ」わたしが顎で指した人物は、厨房の中で堂々と煙を堪能している。店長はああ見えて、仕事中は一切たばこを吸わない。それは、客が途絶えた合間にもだ。

つまりは、本日は営業終了という合図でもある。


「もう、誰も来ないよね」決まったお言葉だが、わたし達は決して返事をしない。同意すると、喜ぶのは店長だから。


「10時半まで待ってみましょう」春香が言うと、店長はあからさまに嫌な顔をした。


「うーん、わかった」どっちが店長だかわかりやしない。





そして、店内の時計が10時半を指したところで、店長がパンと手を鳴らした。「よし、これにて終了」


「これだけ暇なのも久しぶりよね」春香は基本、暇が嫌いだ。何もしない時間にストレスを感じるらしく、それなら死ぬほど忙しいほうがいいらしい。それも不思議な話だが。


「そういえば、近所の焼き鳥屋、今日がオープンじゃなかった?3日間限定で生ビール100円とかってやつ。春香行きたいって言ってたよね」


「ああ、そういえば今日だったわね。そっちに持ってかれたか」ちっと、舌打ちが聞こえた。


「明日も暇そうだねこりゃ」


「まあ最初だけよ。みんなあーゆうオープン記念とかに踊らされてるけど、終わったら知らんぷりよ」


「行きたいって言ってたけど」


「あたしは踊らされてるんじゃなく、ビールを純粋に愛する者として行きたいの」


「屁理屈アル中」


「なんなら今から行ってみる?店長の奢りで。時間的に空いてるんじゃない」


「俺はパース。明日早いんだよね」


「わたしも予定あり」オネエは迎えに来ると言っていたけど、何処まで来るんだろう。外を確認したが、それらしき人は見当たらない。


「予定って何よ。海外ドラマ?」


「いや、約束あって」


「今から?」


「うん」


「誰と?」


「誰とって・・・」


「男?」


──なんだろう、この尋問でも受けてるような気持ちは。気づけば店長も、わたしに注目している。


「男っていえば男だけど・・・」断言出来ない。


「はっ!?マジで!?誰っ!」春香の勢いに押されそうになる。


「誰って・・・あ、別にそーゆうんじゃないからね。ちょっと野暮用があって」


「何よ野暮用って。この時間から?デートじゃないの?」


「雪音ちゃん、まさか彼氏出来た?」店長はニヤついている。


「ちがーう、野暮用は野暮用!いいから掃除して帰りましょう皆さん」


春香は目を細めてわたしを見た。「怪しい」


それから掃除が終わるまで、春香と店長はコソコソと何かを話し、痛いほどの視線を感じたが、気づかないフリをした。

わたしが男と約束あるのが、そんなに珍しいか?──考えて、すぐに納得した。




着替えを終えたわたし達は、同時に店の外へ出た。店長が店の鍵を施錠するのを見届け、さあ解散というところで──「雪音ちゃん」


一瞬、聞き間違いかと思った。声がする方を向くと、黒いSUV車が路肩に停まっている。運転席から降りて来たのは、"あの"オネエだった。


わたしは心の中で悲鳴を上げた。よりによって、このタイミングで──。

横目で春香達を見ると、目が点になっている。そしてすかさず、「ちょっと!アレ誰よ!アンタの名前呼んでなかった!?」小声だが、服をグイグイと引っ張られる。


「あー・・・」なんと説明していいものか。

オネエがこちらへ向かってくる。わたしはもう覚悟を決めた。


「雪音ちゃん、お疲れ様」


わたしが口を開く前に、春香にガッチリと腕をホールドされた。「お疲れ様ですぅ。初めまして、わたし雪音の同僚の春香っていいます」やっぱりな、そう来ると思った。


「・・・あら、そうなの。どうも初めまして。あたしは雪音ちゃんのお友達・・・でいいかしら?遊里です」


笑顔のオネエに対して、春香は言葉を失っていた。店長も、固まっている。

無理もない、一見モデル並の身長でスポーツマンのようなガタイの男が、オネエ言葉なんだから。


「あ・・・店長の木下です。どうぞよろしく」空気を察した店長が自ら名乗り出た。さすが年の功。


「あら、雪音ちゃんの店長さん。どうぞよろしく」オネエの笑顔に店長が見惚れているように見えたが、気のせいと思うことにする。


「・・・車だったんですね」


「そうなの、歩きではちょっと遠くてね。行けるかしら?」


「あ、はい。じゃあ、わたしはここで」


春香はわたしを掴む腕に力を込めた。「明日、詳しく聞かせてもらうわよ」


──詳しく話せたら、なんぼほど楽か。

視線で人を殺せるなら、わたしは車に乗り込む前に死んでいたと思う。それはサイドミラー越しにも感じ、車が次の信号を曲がるまで続いた。


明日が、恐ろしい。



「なんだか、ごめんなさいね」市街地を抜けたところで、オネエが言った。


「何がですか?」


「いや、なんか迷惑かけちゃったかしらって。雪音ちゃん注目されてたでしょ」


「・・・いえ全然。わたしが男の人と会う事が珍しいから、面白がってるだけです」男の人、の後に少し間が空いたのはあしからず。


「そうなの?」


「はい、春香はわたしをイジるのが趣味なので」


「あたしが聞いたのはそっちじゃないけど」


「え?」オネエを見ると、メーターパネルの灯りで照らされた横顔が笑っている。


「雪音ちゃんは大人ね」


「・・・わたしが?春香には、今時の小学生のほうがアンタより大人よって言われますけどね」


オネエはハハッと笑った。「春香ちゃん、よね。あなたの事、えらい気にかけてると思うわよ」


サイドミラーに映る自分と目が合い、笑っている事に気づいた。「それは、否定出来ないですね。良くも悪くも、わたしをよく知ってます」


オネエは前屈みになり、ハンドルの上に手を重ねた。「さっき、凄く警戒されてたわ」


「・・・警戒?誰がですか?」


「あたしよ」オネエは変わらず笑っている。


「・・・ん?誰に?」


「まあ、そういうことよ」それに続く言葉は、なかった。「それより雪音ちゃん」


「はい」反射的に答える。


「あたしの名前、知ってる?」


これは、何かの引っかけだろうか。オネエの顔はもう笑っていない。聞かれたことには、答えるまでだ。「早坂 遊里、さん」


「よかったわ」


「・・・あの、一体・・・」


「だって、雪音ちゃん、あたしの名前呼んでくれないんだもの」


「はい?」


「瀬野のことは瀬野さんって呼ぶのに、あたしは1回も呼ばれたことないわ」


オネエは若干、ふてくされ気味だ。言われるまで気付かなかった。そして、意識もしてなかった。わたしの中では、オネエが定着していたから。

というか、「そんなこと、ですか」


「そんなことじゃないわ。瀬野は嫌われてるんじゃないかってイジメるし」


「・・・嫌いになる要素、ないですよね」というか、そもそもそんなに知らない。


「だったらいいんだけど」


顔は、あまりよさそうではないけど。──そんなこと気にしてたんだ。なんだか、よくわからない人だ。


「あの、わざわざ迎えに来てくれてありがとうございます・・・早坂さん」


オネエが、パッとこっちを向いた。「ふふ、どういたしまして」そして、いつもの笑顔に戻る。それが子供みたいで、可愛くて、おかしくなった。


「何笑ってるの?」そういうオネエ、もとい、早坂さんも笑っている。


「いえ、なんでもないです」


「気になるわね。なあに?」


「いえ、それより前向いてください」


「ねえ、何の笑み?」


「いいから、前を向いてください」






それから15分程車を走らせると、窓の外の景色は住宅街へと変わっていた。

見えるのは立派な一戸建てばかりで、これぞ正に高級住宅街。車線のない道路を進んで行くと、緩い上り坂に差し掛かった。道路脇には、進入禁止の標識が設置されている。

早坂さんは、坂の手前で車を停めた。


「ここからは歩きなのよ。ちょっと上るけど大丈夫?」


子供でも余裕そうな傾斜だが。「これくらいは上るうちに入りません」


早坂さんは、でしょうねと笑った。

車1台通れるかの狭い道を、2人並んで進む。街灯まで高級に見えるのは、先入観か。


「抱っこしてあげるわよ?」


「結構です」


坂を上り切ったところに見えてきたのは、一軒の平屋だった。周りに建物はなく、家を囲むように木々が生い茂っている。先程まで見ていた景色とは別世界のようだ。


「あそこよ」早坂さんが、その平屋を指さした。


暗闇でよく見えなかったが、近づくにつれて、とても古い建物だということがわかった。日本の伝統を感じるような、木造の和風家屋だ。

草に囲まれた石畳のアプローチを抜けると、早坂さんはインターホンも鳴らさず、玄関の格子戸を開けた。


「財前さん、来たわよー」


「入りなさい」男の声だった。


早坂さんに続き、靴を脱いで中に入る。「お邪魔、します・・・」


そして、入ってすぐ右手の襖を開けた。「あら、瀬野はまだね。いつも誰より早いのに」


「さっき、向かってるって連絡があったよ。間もなくじゃないか」


早坂さんの大きな背中に視界を奪われ、声しか確認出来ない。

「雪音ちゃん、どうぞ」早坂さんの手が背中に回り、わたしを先に部屋に通した。



中に居たのは、着物姿の若い男性だった。

文机の前に正座している彼は、細筆を手に持ち書き物をしている。目が合うと、静かに微笑んだ。


「こんばんは」


「あ、こんばんは・・・」お辞儀をする。


「財前さん、この子が雪音ちゃんよ。雪音ちゃん、彼は、財前 龍慈郎(ざいぜん りゅうじろう)さん」


代わりに紹介を済ませてくれたのはありがたいが、そもそもこの人は誰なのか、この状況はどういう事なのか、自分の立ち位置がわからない。


「初めまして。中条 雪音です。よろしくお願いします」



不思議な事が、起きた。財前さんは笑みを浮かべているが、その眼が一瞬、鋭くわたしを捉えた。意識が飛びそうになる。

財前さんが立ち上がり、ハッと我に返った。


── 今のは、何?

こちらに向かってくる彼に、なぜか恐怖心を感じる。


「雪音ちゃん」


ビクッと身体が反応した。早坂さんの手が、肩に乗る。


「大丈夫よ」


── 何が?どう大丈夫?わからない。わからないけど、早坂さんの顔を見て、安心する自分がいた。


「雪音ちゃん、だったね」近くで見る財前さんは、とても小柄だった。そして、とても若い。また、不思議な感覚に陥る。「すまない。怖がらせてしまったね。ちょっと、試させてもらったよ」


「・・・え?」


「だから言ったでしょ。この子はちょっと別格よ」


「そのようだね」


2人の会話の意味はわからないが、1つ、感じた事がある。財前さんがそばに来ると、そこだけ空気が冷たくなる。まるで、財前さんから冷気が放たれているかのように。


「座りなさい。今、茶を淹れてくる」


「・・・あ、おかまいなく」


部屋の真ん中に重厚な木のテーブルが置いてあり、座布団が4つ並べられている。そこに早坂さんと並んで座る。座った途端、もの凄い疲労感に襲われた。


「雪音ちゃん、大丈夫?」


「何がですか?」


「ちょっと具合悪くなったでしょ」


「早坂さん、あの人って・・・」


襖が開き、背筋がピンと伸びる。隣の男は、笑いを堪えてるようだった。



財前さんはわたしの向かいに座り、お茶の乗ったトレーをテーブルに置いた。その間、なぜか顔が見れず、彼の手元だけを見ていた。差し出されたお茶を受け取り、「いただきます」1口飲みながら財前さんを見て──「グホァッ」


「ちょっと雪音ちゃん!大丈夫!?」


大丈夫じゃない。息が出来ない。早坂さんに背中を叩かれながら、むせ返った。

落ち着いたところで、目の前の人物を凝視する。


──── だれ?


その時、カタッと扉の閉まる音が聞こえた。「来たわね」


襖が開き、瀬野さんが現れた。涙目のわたしに怪訝な顔をする。「泣かせたのか?」


「なんであたしを見るのよ!」


「遅かったね、正輝」


「出掛けにタイヤがパンクしちまって、タクシーで来た。遊里、帰りは俺も乗せてけ」


「はいはい」


会話が耳に入ってこない。それより、わたしの目の前にいるこの人は、誰?

瀬野さんはその人の隣に座った。


「財前さん、何時に戻ったんだ?」


「遊里達が来る少し前だよ」


「どうだった?」


「収穫はなかったよ」


「そうか・・・」


早坂さんが、わたしの顔の前で手を振る。「おーい、雪音ちゃん?起きてる?」


そうか、わたし、夢を見てるのかもしれない。瀬野さんは今、財前さんと言った。でも、わたしの目の前にいる人は財前さんじゃない。いや、確かに、財前さんではある。着物だけは──。


「僕が誰か、わからないかい?」わたしに微笑みかける。


「わかりません」だって、その顔はさっきまでの財前さんじゃない。額、目尻には深い皺が刻まれ、後ろで結ぶ髪は変わっていないが、先程の黒髪ではなく、白髪交じりのグレーヘア。言葉遣いは同じだが、声が高く、細い。


一見、60歳くらいの男性に見える。よく見ると、湯呑みを持つ手も、皮膚が薄く血管が浮き出ている。


「僕の名前は、財前 龍慈郎だよ」


「・・・同姓同名の若い方と一緒に住んでおられませんか」


早坂さんが噴き出すのがわかったが、わたしは至って真剣だ。どう考えても、説明がつかない。



「なるほど、そういう事か・・・中条、財前さんはな」状況を察知した瀬野さんを、"隣の彼"が目で制した。


「雪音ちゃん、僕を怖いと思うかい?」彼の目は、しっかりとわたしを見据えている。


「・・・思います」


「どうしてだい?」表情は穏やかではあるが、内に秘められているものが、わたしを試しているような、面白がっているような、そんな気がした。それでもわたしは、正直に答えるしか出来ない。


「眼・・・というか、こう、全てを見透かされてるような・・・そーゆうところ?ですかね」


自分の発言の賛否を分析するより先に、彼が声を上げて笑った。「違うだろう。君が恐れなければならないのは、僕の姿形のはずだが」


賛否の分析は出来ないが、目に見えてわかるのは、目の前の人物は笑い、その隣の人物は呆れ、その向かいにいる人間は、可笑しそうだ。


「恐ろしい子だな」悪い意味ではないのは、彼の表情でわかった。「遊里の言う通り、心配する事は何もなさそうだね」


「でしょ?あたしの目に狂いはないわよ」


「雪音ちゃん、君はもう、本能でわかっているだろう?」


答えられないのは、長年培われた否定精神だ。



「財前さん、この子はあまり免疫が・・・」早坂さんの腕に触れ、その先を止めた。早坂さんは少し驚いているようだったけど、わたしが聞かれたことだ。わたしが答える。


「"財前さん"、あなたは、人間ですか?」彼の目を見て、言った。


少しの間、沈黙が流れる──。


財前さんはテーブルに肘を付き、顔の前で手を組んだ。「僕は、人間だよ。──半分は」


「え?」


「半分は、妖怪だ」


「・・・半分、ですか」


「ああ、僕を生んだ女性はただの人間だからね。ということは、わかるだろう?」


「・・・お父さん・・・が」


財前さんは静かに頷いた。頭の中を整理する。財前さんは半分人間で、半分妖怪。お母さんが人間で、お父さんが妖怪。その人間と妖怪の間に出来た子供、それが財前さん。


──そんなことが、ありうるんだろうか。理屈はわかっても、頭が追いつかない。



「何か、聞きたいことはあるかい?」


突として聞かれ、返答が出来なかった。聞きたいこと、聞かなければならないことがあるはずなのに、頭が働いてくれない。


「あの・・・」何か言わなくては──「食べ物は、何を食べてるんですか」

すぐに後悔したが、時すでに遅し。最初に早坂さんが笑い、釣られたように財前さんも笑った。瀬野さんはやはり、呆れ顔だ。


「本当におもしろい子だ。食べ物か。普通の人間と同じ物を食べているよ。当たり前にお腹も空くしね」


「・・・なるほど」驚きはない。財前さんは何処をどう見ても普通の人間にしか見えない。


「ただし、睡眠は必要ないんだ」


「え、そうなんですか?」


「ああ、生まれて此の方、眠いと思ったことがないよ。腹は空くのに、おかしいだろう?」


「確かに」無意識の発言に自分で焦った。「すみません」


「雪音ちゃん、僕に対して気を遣う事はない。腹を割って話そうか」


2回、頷いた。1つは感謝を表して。


「最初に目が合った時、確信を得たよ。君は僕にも耐えられる存在だと」視界の隅で、早坂さんが頷くのがわかった。「僕は、君を試したんだ。この悍ましい力に耐えられるか、自分を保つことが出来るか。僕を前にして、正常でいられるのか」


「・・・それは、何か、力を使ったということですか?」


「そうだ。感じたかい?」


「はい。よくわからないけど・・・クラクラして、倒れそうになりました」


「普通の人間は、とっくに意識を無くしているよ。むしろ、強めに掛けたんだがね」


「あたしでも、けっこうきたわよ」


「君がいつ倒れてもいいように、遊里は備えていたからね」


「・・・そうなんですか?」早坂さんは、とぼけたように笑った。── 全然、わからなかった。


「雪音ちゃん、他に聞きたいことはあるかい?何を聞いてもらっても構わない。君には、全てを応えよう」


戸惑ったのは、この状況に対してじゃない。自分の中に芽生えた新しい感情にだ。


「ありません」


ここに来て初めて、財前さんの笑顔が"本物"だと感じた。



「では、僕から君に話が・・・いや、頼みがあるんだが、聞いてくれるかい?」


ほら、やっぱり。自分でも、なぜこんな感情になるのかわからない。


「はい」


「僕はね、ある妖怪を探しているんだ」財前さんは右腕をテーブルに置き、着物の袖を捲り上げた。上腕全体を覆う赤黒いアザに、思わず顔をしかめる。「これは、その妖怪によってつけられたものだ。不気味だろう」


「前に見た時より、広がってるな」瀬野さんの言葉に早坂さんが頷く。


「これは僕を蝕み、いずれ身体全体に広がる」


「・・・どうなるんですか?」


「我を失い、醜い化け物へと変わり、人を喰い殺すだろう」


ごくりと唾を呑んだ。「治らないんですか?」


「方法は1つ。これをつけた者を始末することだ」財前さんは袖を下ろし、その手を左袖に通した。「だが、そう簡単にはいかなくてね。その者が今何処にいるのか、どんな姿をしているのかわからない」


「どんな姿・・・?」


「あやつは元々、大蛇の妖怪なんだ。人を呑み込み、その姿に化ける」


「人間の姿に化けるってことですか?」


「そうだ。数ヶ月に1度、大蛇の姿に戻り、脱皮するんだ。そしてまた別の人間を喰らい、姿を変える。あやつが人を喰らうその近くには皮が残されているんだ」


その場面を想像するだけで、身震いする。


「数日前も、ある山中で3メートル程の巨大な皮が見つかったと情報を得て向かったんだが、空振りに終わったよ」


「・・・あの、蛇の姿に戻ると、それまで化けてた人はどうなるんですか?」


財前さんは、言葉を選んでいるようだった。「自分の中に取り込むんだよ。それは物体だけじゃなく、その人物の記憶までね」


「記憶・・・ですか?」


「記憶、知識、全てだ。だから、その人物になりきれる。そうやって人間の世界に上手く溶け込んでいるんだ」


「言ってしまえば、取り込んだ人の数だけ賢くなれるってことね」早坂さんが言い、財前さんが頷く。


「そんなことが・・・」現実に起きていると思うと、背筋が凍った。完全に理解の域を超えている。


「残念ながら、現実に起きている事なんだ。だから、君にお願いがある」


「はい」


「この先、僕が我を失い、危険だと判断した時は、躊躇なく僕を殺してほしい」


財前さんが笑顔で言うものだから、言葉の理解に時間がかかった。


「重く受け止めなくていいんだよ。これは元々、この2人に託してる事だ」早坂さんと瀬野さんの表情は、冷静そのものだ。「ただ、君にもその覚悟を持っていてほしいんだ。出来るかい?」


──そんな、簡単に聞くこと?

誰かを殺す覚悟なんて、持てるわけがない。


「僕は、君の事を認めているんだよ。僕に耐えられた君なら、大抵の事には対処出来る。いや、そうしなければならない」


「・・・さっき、思ったんです」口に出したはいいが、その先を上手く説明出来るか、不安だった。でも、3人は何も言わず待ってくれる。「財前さんが、わたしには全て応えてくれるって、頼みがあるって言った時、凄く、嬉しかったんです。自分も認められたんだ・・・"こっち側"に来たんだって・・・ワクワクしてしまったんです。──だから、わたしも協力します」


「・・・中条、その協力というのは・・・」


「はい、その蛇を見つけましょう」



─── 「クッ・・・」沈黙を破ってくれたのは、早坂さんだった。顔を背け、口元を押さえている。


「あのな、それが出来たら・・・」次は瀬野さんだ。


「わかってます。でも、財前さんを殺す前に、その蛇を見つけたいです」


「どうして、そう思うんだい」


「・・・さっき、わたしは本能でわかってるって言いましたよね。だから、本能に従います。わたしは、あなたがどんな人か知らないし、聞く気もないです。ただ、あなたを助けたいと思いました」


財前さんは虚ろな目でわたしを見ると、顔を伏せた。「僕の頼みは聞いてくれないということか」


再び流れる沈黙。──やばい。わたし、怒らせた?


「フ・・・フ・・・ハハハハハ」部屋に響き渡る、大きな笑い声。財前さんは気でも触れたように笑い始めた。


わたしは呆気に取られ、ポカンとする。助けを求めるように隣を見ると、声を発していないだけで、同じ状態だ。



「その蛇を見つけましょう、か」笑いの合間に呟き、また高笑いする。「君は本当に、とてつもなく面白い子だ」


「落とし物を探すわけじゃないんだぞ」呆れ口調の瀬野さんに、財前さんがまた笑う。


「ありがとう、雪音ちゃん。そう言ってもらえて素直に嬉しいよ」それが本心なのは、表情でわかった。


「あの、その蛇を見つける方法は他にないんですか?」


「・・・ないわけではない。あやつの放つ妖気は他の妖怪とは比べ物にならないからね。僕達のような人間は、近くにいればわかるんだ」


わたしにも、わかるだろうか。


「君にも感じるはずだ。さっき僕の妖気に耐えられた君なら、正気を失わずにいられる。──それと、もう1つ。あやつの身体には、僕と同じアザがある。それは人間の姿に化けても消える事はない」


「・・・あの、お願いがあるんですが」


「なんだい?」


「非常に、言いづらいんですけど・・・」


「言ってみなさい」


「・・・さっきの右腕のアザ、写真撮ってもいいですか?」


財前さんは最初キョトンとしていたけど、すぐに笑ってくれた。「構わないよ」


携帯で撮ったアザの写真を、早坂さんが覗き込む。「それ、どうするの?」


「忘れないように、念の為」



「雪音ちゃん、ナイフを貰っただろう。今持ってるかい?」


「あ、はい。ポケットに入れてます」


「それでいい。肌身離さず、持っていなさい。もちろん、僕と会う時もね」


その意味はわかった。だから、返事はしなかった。


「2人の短刀とは違って小振りで頼りなく見えるかもしれないが、造りは頑丈だ。安心しなさい」


何に対して安心すればいいのか──「はい」と言っておく。


財前さんが、静かに立ち上がった。「今日はもう遅い。帰りなさい」



──なんだか、不思議な気持ちになった。この家に財前さんを1人残して帰ることに、妙な罪悪感を覚える。


財前さんは帰り際、君に会えて良かったと言った。わたしもです。と返すと、見たことのない優しい顔で微笑んだ。

わたしは正直、泣きそうになった。何故か、母の顔が浮かんだんだ。





「気になる?」3人で車に向かう途中、早坂さんが言った。


「えっ?いや・・・」意味もなく、何度も振り返っているからだ。「なんかこう、不思議な気分なんですよね・・・」


「フフ、わかるわよ」本当か?と思ったけど、言わない。「あたしも最初会った時、そうだったもの。そうねえ、言葉で表せない、不思議な感覚よね」


早坂さんも、そうだったんだ。「瀬野さんは・・・?そういうの、ありました?」


少し、間が空く。「不思議な感覚か。まあ、わからなくもないな」


それを聞いて、少し安心する。わたしだけじゃなかったんだ。


「ちょっと雪音ちゃん、どこ行くつもり?」


車のドアに向かうわたしに、早坂さんが言った。「え・・・車に乗ろうかと」


「アナタは前でしょう!」


「え、いや、瀬野さん乗ってください。わたし後ろに乗るんで」


「やめてちょうだい!何が悲しくて男を隣に乗せなきゃならないのよ。それもこんな図体デカいの」


「それはお前も同じだがな。中条、前に乗れ。後ろが静かでいい」


「はあ・・・」



車を走らせてすぐ、猛烈な睡魔に襲われた。車内に流れる洋楽のバラードと、時々フワッと香る芳香剤の匂いが、リラックス効果を増大させる。


「雪音ちゃん、寝ていいわよ。今日は疲れたでしょ」


「大丈夫、眠くないです」とは言いつつ、シートにしっかりともたれ掛かる。


「いいから寝なさい。家に着いたら起こしてあげるから」


「・・・早坂さんが言ってた、時間は関係ないって、寝ないからってことだったんですね」


「ああ、財前さん?そうよ」


「生まれてから、ずっと寝てないってことですよね」


「そうね」


「・・・ていうか、財前さんて何歳なんですか?」


「んー、あたしらもそこは詳しく知らないんだけど、100年は生きてるわね」


「ひゃっ!?」思わず身体を起こす。「100年、ですか・・・」


「最初に会った時点で100を超えてたからな。実際はもっと行ってるんじゃないか」と、後ろの瀬野さん。


「若いと思ったら急に年取ってたり、不思議な人だ・・・」


「どうして、聞かなかったの?」


「何をですか?」


「見た目のこともだけど、財前さんに聞きたいことはあるかって言われた時、あなた、無いって言ってたじゃない」


「ああ・・・」あの時は、本当にそう思った。「実際、聞いても理解出来なかったと思うし、だったら無理にわかろうとしなくていいかなって。財前さんがどんな人でも関係ないって思ったんです。あ、投げやりって意味ではないですよ」


早坂さんは前を見ながら、わたしの頭に手を置いた。「わかってるわよ」──大きい手が、帽子みたい。


「おいセクハラ野郎」瀬野さんが、座席の間から顔を出した。「なんでこんなにノロノロ運転なんだ」


「雪音ちゃん乗せてるんだから、安全第一よ!そしてセクハラはやめてちょうだい!」


「にしたって、遅すぎるだろう。もっと飛ばせ、眠くなる」


「あんたは少々の事じゃ死にはしないだろうけど、彼女こんなに小さいのよ。石にぶつかっただけで死んじゃうわ」


まず、車のメーターは普通に80キロを超えている。そしてわたしも日本成人女性の平均身長を超えている。そして石にぶつかっただけでは死なない。

まあ、この2人の基準はアテにならないということだ。


「2人とも大きいですよね。身長何センチですか?」


すぐに答えが返ってこなかった。「さあ?何センチかしら」


「俺も知らん」


「・・・自分の身長、わからない事ってあるんですか」


「学生以来、測った記憶がないわ。覚えてる限りでは180だったかしら」


「俺もそんな感じだ」


この2人の、普段の生活が見てみたい。「いや、もっと大きいと思いますよ」


「そうかしら。雪音ちゃんは?」


「167です」


「あらん、おチビちゃんね」


子供の頃から、常に平均身長を上回ってきた。今日は、おチビちゃんと言われる最初で最後の記念日に認定した。


「・・・あの、1つ聞いてもいいですか?」


「どーぞ?」


財前さんは言った、自分を殺す覚悟を持ってほしいと。わたしなら、それが出来る、そうしなければならないと。


「どうして、わたしを財前さんに会わせたんですか?」


「雪音ちゃん、勘違いしてほしくないんだけど、財前さんがあなたにあんな事を言うなんて、思ってなかったのよ」車のスピードが、少し落ちた。「あなたを連れて行ったのは、正直、それが1番手っ取り早いと思ったからなの」わたしの反応を見ながら、早坂さんが続けた。「世の中には、あたし達のように奴らが見える人間はたくさんいるわ。でも、奴らに対処できる人間はそういない」


「わたしは、出来る・・・と」窓の外を見ながら言った。


「そうよ」


「その基準って、なんですか」


「能力的な事もだけど、何より大事なのは精神力ね。財前さんを前にして、あなたは怖気付かなかった」


「・・・怖かったですよ」最初に目が合った時、本当は逃げ出したかった。


「それでも、十分堂々としてたわ。財前さんは、あなたのような人を求めてるの。どんな妖怪にも怖気付かず、立ち向かえる人を」


「それは・・・財前さんに対してもってことですか」


車が減速し、早坂さんは車を道路脇に停車させた。シートベルトを外し、わたしに身体を向ける。


「雪音ちゃん、ごめんなさい。あなたを財前さんに会わせたのは、あたしのわがままでもあるの。──あたし達は、あの人を救いたい。でも、本人は少し諦めかけてるというかね・・・自分を制御出来なくなるのを、何より恐れてるのよ。でもね、あなたに会って思ったの。この子なら、財前さんを救えるんじゃないかって。救おうとしてくれるんじゃないかって」


「・・・どうしてですか?」


早坂さんの笑顔は、いつもより控えめだ。「なんでかしらね。あなたの言う、本能っていうやつなのかしら。事実、あんなに笑った財前さんは久しぶりに見たもの」早坂さん手が、わたしの頬にソッと触れた。「雪音ちゃん、何の説明もせずに連れてってごめんなさい。あなたには、酷かもしれない・・・でも、あたし達と一緒に財前さんを救ってほしい」その目は真剣で、逸らすことが出来ない。「協力してくれる?」


「・・・わたしは言いました。財前さんを助けたいって」


早坂さんは、ニッコリと微笑んだ。そしてもう片方の手でわたしの顔を包む。「ありがとう」


「・・・おい」


「ギャ──!!」


「キャ──!!」


「俺がいること、忘れてるだろう」


──正直、忘れていた。


「話が済んだら早く出せ」


「はいはい」早坂さんはゆっくりと車を発進させた。




家の前で車を降りたわたしを、早坂さんが運転席から呼び止めた。


「あなたの事は、何があってもあたしが守るわ」


「・・・あい」


安心させるために言ってくれたんだろうけど──内心、本当に安心してる自分がいた。



脳がパンク寸前で、思考が完全に停止している。その日は、帰ってすぐ眠りについた。









わたしの起きてからのルーティンは、決まっている。


目が覚めたらまず、コップ1杯の水を飲み、顔を洗う間に、ケトルでお湯を沸かす。

コーヒーを淹れて、ソファーに座り、テレビをつける。その時間によってテレビの内容は違うが、基本、選ぶのはワイドショー。

社会問題や芸能、スポーツ界のニュースをボーっと流し観している。興味を惹かれるものがない場合は(基本毎日)、テレビを流しながら携帯のゲームに切り替える。

ライフが無くなるまで遊んだら、朝昼兼用のご飯タイムだ。メニューは1択、パンだ。

冷凍ストックの食パンをトースターで2枚焼き、バターを塗って食べる。その時間が何よりの至福だ。



だからこそ、その冷凍ストックを忘れた時のダメージは計り知れない。

わたしは冷凍庫を開けたまま、項垂れた。

そうだ、昨日買わなければならなかったのに、財前さん宅訪問でそれどころではなかった。


冷蔵庫の中には、水とビールと酎ハイ。そしてカマンベールチーズ。前に春香が家に来た時、冷蔵庫の中を見て、一人暮らしの男みたいねと言われたのを思い出す。


さて、どうしたものか。今を逃せば、次に食事にありつけるのは出勤後の賄い飯。ざっと考えて、8時間後だ。かと言って買い物に出るのも面倒だし。それまでチーズで凌ぐか。あーだこーだと考えていると、携帯が鳴った。


店長からだ。【おはよう。うちのマザーがギックリやっちゃって。申し訳ないけど今日は臨時休業にします。また連絡するね】


「あらら・・・」


大丈夫だろうか。店長のお母さんは1人で暮らしていると、前に聞いたことがある。店長には妹が2人いるが、離れた場所に嫁ぎ、近くには店長しかいないとか。


【了解です。お大事に】と返信する。


──ということは、是が非でも買い物に行かねばならなくなった。

家着から近所用の服(Tシャツとスウェット)に着替え、家を出た。


近所のスーパーまでは、徒歩10分。今日はカラッとした青空で湿度も低く、過ごしやすい気候だ。少し遠回りになるが、散歩がてら河川敷を回って行くことにする。


ここは、わたしが今の家に引っ越す決め手となった場所だ。河川敷の遊歩道は、昼夜問わず多くの人が行き交う。ランニングをする人、犬の散歩をする人、川の流れを眺めながらベンチでおにぎりを食べる老夫婦。そんな有りふれた景色が、わたしの癒しとなっている。



今日は平日の午前中という事もあってか、人通りはまばらだった。

ウォーキングをしているおじさんに、すれ違いざま、こんにちはと声をかけられる。彼はいつもすれ違う人みんなに声をかけていて、ここを通る度に必ずと言っていいほど見かける。

わたしの中で、24時間歩き続けている説が浮上している。


歩きながらふと目に入ったのは、川岸に佇む1人の女性。

何を、やっているんだろう。いや、何もしていないから目につくのか。

仁王立ちになり、動かず、ただ川を見ている。その足元には、大きなボストンバッグのような物が1つ。


歩きながら彼女を見ていたが、その足が思わず止まった。

彼女は突然、バッグに両手を突っ込み、その中身を川に向かって放り投げた。白い粒子状の物が宙を舞う。


──なんだなんだ?


そしてまた、繰り返す。2回、3回。

頭を過ったのは、海外ドラマで観た、トイレに"白い粉"を流すシーン。


──まさか・・・。

いやいや、こんな白昼堂々やるわけないだろう。テレビの見過ぎだ。



「出てこい!いるのはわかってる!」


ギョッとした。叫んだのは、その彼女だ。そしてまたバッグの中身を川に向かって放り投げる。

ちょっと、危ない人か ──?見なかったことにして、歩き出す。


「お前が母さんをあんな目に合わせた!出てこい化け物!」


再び、止まる足。少しだけ、鼓動が早まる。

いや、そんなはずはない。考えすぎだ、自分。

昨日の事があったから、敏感になっているだけだ。さあ、スーパーに行かなくては。

自分の意思とは裏腹に、わたしの足は彼女へと向かっていた。


1メートル程後ろまで近づいたが、彼女は自分に必死で、わたしに気づかない。一連の動作を見届けて、声をかけた。


「あの・・・」


「ひゃっ」彼女はビクッとしてこちらを振り向いた。激しく動いていたせいで息は切れ、顔が紅潮している。


「驚かせてすみません」


「な、なんですか」彼女はバツが悪そうに顔を背けた。おそらく、わたしと同世代だ。


「何、してるのかなって、思いまして」


「別に、なんでもないです・・・頭がおかしいと思ってるんでしょうけど、お気になさらず」


やっぱり、彼女は"まともな人"だ。むしろ、頭が良さそうに見える。



「化け物って、言ってましたよね」


「・・・それが何か」


「出来れば、詳しく聞かせてほしいなと・・・」


彼女は奇妙な目でわたしを見た。「え?なんで?」


わたしの目は、泳ぐ。「いえ、ちょっと、興味があるというか・・・」


「面白がってます?お願いだから、1人にしてください」


──性格上、そう言われると引きたくなる。でも、彼女の叫んでいた言葉を追求したい自分がいる。


「もしかしたら、力になれることがあるかもしれないので・・・その、"化け物"の話を教えてくれませんか」


「・・・は?力にって・・・ていうか、あなた誰ですか?」


いや、本当に、ごもっとで。こうなると、わたしのほうが怪しい気がしてきた。


「通りすがりの者です・・・が、決して怪しい者ではありません。本当に」言葉のチョイスが、怪しさ倍増だ。「さっき、お母さんをあんな目に合わせたって、言ってましたよね」


ピクッと反応した彼女の顔が、みるみる曇っていく。そして、フッと鼻で笑った。「どうせ、信じないし・・・誰も」聞こえるか聞こえないかの呟きを、わたしは聞き逃さなかった。



目の前の人物が誰かも知らないし、この状況だって理解出来ていない。でも、その言葉だけは、聞きたくなかった。


「言ってみて。正直、信じるか信じないかはわからないけど、ちゃんと最後まで聞くから」


多少なりとも、誠意は伝わったんだと思う。彼女はまた、「どうせ信じないと思うけど」を前置きとして、事の起こりを話してくれた。



──2ヶ月程前、彼女は母親と2人でこの川岸を散歩していた。すると突然、母親が悲鳴をあげ、次の瞬間には、何かに引きずられるように川に落ちた。すぐに自分も飛び込み、母親の腕を掴んで引き上げようとしたが、明らかに様子がおかしく、見えない何かが、母親を水の中に引きずり込もうとしていた。

その時近くにいた男性に母親は助けられ、大事には至らなかったが、それ以降、悪夢にうなされ眠れない日々が続き、精神を病んで入院した

そうだ。


母親は言い続けていた。何かに足を掴まれ、首を絞められたと。その証拠に、助けられた母親の首には所々、アザが残っていた。

でも、その話を信じる人は誰もいなかった。



──彼女の話が本当なら、この川に妖怪がいるということか。

早坂さん達に連絡するべきか・・・。でも、確信もないのに?


「どうせ、信じてないでしょ」


「え?いや、信じますよ」


元々大きい彼女の目が、更に大きくなった。「・・・嘘だ」


「いえ、本当に。あなたの言う事が本当なら、ここには妖怪がいるのかと」


わたしの言い方がまずかったのか、彼女は口を開けたまま固まった。「・・・今、なんて言いました?」


「妖怪。それより、それ、なんですか?」気になっていた物を指さす。


「えっ、あ・・・これは・・・」


「見ても?」


彼女の表情を、イエスと受け取った。バッグの中身を手ですくう。

この感触は──「塩?」


「・・・そうです」


「なんで、これを川に?」


「・・・霊には、塩が効くって聞いたから」


「あー・・・」なるほど。そこに行き着いたか。


「ていうか、妖怪・・・?って、なんのことですか?」


今度は、わたしの番だ。「信じますか?妖怪」至って真面目に聞いた。


「・・・霊じゃなくて・・・妖怪?」


「わたしは、霊とかはよくわかりません。ただ、妖怪は見えます。人間に危害を加える妖怪が、この世にはいるんです」


全て受け売りですけどね!心の中で自分に突っ込む。


彼女は、明らかに混乱していた。そして、たぶん信じていない。そりゃそうだ、霊云々の話ならまだしも、妖怪なんて言葉が出てきたら、漫画やアニメの世界しか想像出来ない。それも、見ず知らずの女から聞かされるんだから。


「霊とは、違うんですか・・・?」


予想よりは良い反応だっが、あいにく、その質問に答えられる知識は持ち合わせていない。


「ちが・・・う?と、思います。霊は、死んだ人間が成仏出来なかったりとか、そういう話だと思うけど、妖怪は・・・動物だったり、こう、いろんな姿のがいて・・・」


自分の語彙力に、涙が出そうだ。


「じゃあ、母さんを襲ったのは、妖怪・・・」


「おそらく。ちなみに、妖怪には塩は効かなと思います」それも、断言は出来ない。


「あなたは、その妖怪を"退治"出来るんですか?」


「・・・・・・え」


何も、答えられなかった。出来ると言ったら、嘘になる。出来ないと言っても、嘘になるのでは。わたしには、あのナイフがある。


「いえ、なんでもないです。聞かなかったことにしてください」


「あのっ、わたしの知り合いなら出来ます」


「・・・本当に?」


コクコクと頷く。「だから、あなたはここには近づかないでください」


彼女は眉間にシワを寄せた。「嫌です。黙ってるなんて出来ない」


「・・・あなたも、お母さんみたいに襲われるかもしれないんですよ」


「その時はその時よ。別に、どうなったっていい」


度胸があるというか、自暴自棄というか──。


「とにかく、わたしの知り合いに連絡してみるので、それまでは絶対、ここには近づかないでください。"事"が済んだら、ちゃんとあなたにも報告しますから、連絡先教えてもらってもいいですか?」


わたしの提案に、彼女はすぐに返事をしなかった。難しい顔で考え込み、一言だけ、わかりましたと。

納得していないのは、わかった。でも、これが本当に妖怪の仕業なら、彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかない。


彼女が去った後、わたしはしばらく川を眺めていた。穏やかに流れる水面に太陽の光が反射してキラキラしている。こんなに綺麗な川に、いったい何が──?






その日の夜、早坂さんにメールを入れると、すぐに電話がかかってきた。

今日の事を出来るだけ詳しく説明したいが故に、冷凍ストックの件(くだり)からグダグダと長くなってしまったが、早坂さんはうんうんと聞いていた。


「そうねえ・・・実際に見てない分、確信は持てないけど、その子の言う事が本当なら可能性はあるわね」


「ですよね。最初はおかしい人だなって思ったんですけど、話を聞いてるうちにそうとしか思えなくなってきて」


「よく話しかけたわね」


言われて、気づいた事がある。たぶん、早坂さん達に会う前の自分なら、気にはなったとしても、声はかけなかったと思う。


「・・・気づいたらそうなってました」


電話越しに早坂さんが息を吐くのが聞こえた。「あなたの勇気は認めるけど、もう少し危機感持たなきゃダメよ」


「危機感、ですか」


「どんな人かわからないでしょ。本当に危ない人だったかもしれないし」


「まあ、女性だったっていうのもあるし、"人間"だし・・・」


沈黙に包まれる。「・・・あなたは妖怪の前に人間ね。どうすればいいかしら」声のトーンが、完全に独り言だった。


「あの・・・」


「まあ、それは一旦置いといて、明日その場所へ行ってみるわ」


何を、一旦置くんだ。「わたしも行きます。彼女に、あそこには近づかないように言ったんですけど・・・」


あの様子では──「言う事聞かなさそう?」


「はい。たぶん、また行くと思います」


「わかったわ。じゃあ、明日の10時にその近辺で落ち合いましょう」


ふと、頭に浮かぶ疑問。「お仕事は大丈夫なんですか?」


「ん?ええ、基本自由だから大丈夫よ」


── 基本自由な仕事って、なんだろう。カフェで会った時も、昼間だったし。

まさか、無職?いや、でも立派な車に乗っていたし。


「おーい、雪音ちゃん?」


「あ・・・わかりました。じゃあ明日の10時に」






そして、翌日──。

家を出て、すぐに気づいた。あのデカい後ろ姿は・・・「早坂さん?」


私に気づき、手を上げる。「雪音ちゃん、おはよう」


「・・・どうして家の前に?」


「早く着きすぎちゃってね。迎えに来たの」


「はあ・・・」すぐそこなんだが。


「行きましょうか。瀬野も来てるわよ」


「えっ!瀬野さんも?」


──あの人も、基本自由な仕事なんだろうか。・・・・・謎だ。


今日の早坂さんは、白いTシャツに黒いパンツ。足元はスニーカーだ。服装は至ってシンプルなのに、なんでこんなに人目を引くんだろう。


早坂さんが足を止め、振り返る。「なんで後ろ歩いてるの?歩くの早かった?」


「いえ、そうじゃないです・・・」並んで歩くと自分も見られてるような気がして、気が引ける。


「疲れてるなら抱っこしてあげるわよ?」


「結構です」


気後れしながら隣を歩く。早坂さんはさっきよりゆっくりになった。別に、早くても大丈夫なんだけどな。


「良い所ねえ。癒されるわ」


「ですよね。わたしも此処が気に入って、今の家に決めたんです」


「家といえば、雪音ちゃん」急に真剣なトーンになる。


「はい」


「あなたの家、セキュリティ的に大丈夫?」


「と、ゆーと?」


「いえね、悪く言ってるわけじゃないのよ。ただ、誰でも上がれるじゃない」


「まあ、アパートなんで。安いし。築年数は古いけど、中は綺麗なんですよ」


「そーゆう問題じゃあないのよねえ」


「早坂さん」


「ん?」


「前から来る人。ウォーキングしてるおじさん」


早坂さんが目視で確認して、わたしを見る。「どうかしたの?」


おじさんがいつもの挨拶をしながら通り過ぎるのを待った。「いつもいるんですよ。ここに来ると必ず会う。昨日も会ったし。やっぱり24時間歩き続けてる説が濃厚になってきたな」


「・・・クッ、ハハハハ」ぎょっとした。早坂さんは上を向いて可笑しそうに笑っている。

「真剣な顔で何を言うかと思えば。あの人にイタズラでもされたのかと思ったわ」


「イタズラって・・・。でもホントに、100パーセントの確率で会うんですよ。いつ来ても」


「だから、24時間歩き続けてる説?それじゃあまるで妖怪じゃない」


2人の足が同時に止まった。そして同時に後ろを振り返る。

おじさんは両手を振り上げ、歳を感じさせない歩きをしている。


「・・・まさか」


早坂さんはプッと笑い、わたしの頭に手を置いた。「それはないわ。──たぶん」


たぶん!?──まあ、まさかね・・・。


「おいストーカー」


「ぎゃ───!!」


「きゃ──!・・・ちょっと雪音ちゃん、ビックリさせないでちょうだいっ」


「だって・・・」真後ろに瀬野さんがいるんだもん。


「素通りするな」


「あら、何処にいたの?」


「そこのベンチにいただろう。普通に目の前通り過ぎやがって」


「あらそう、話に夢中で気付かなかったわ」


「すみません瀬野さん・・・」


瀬野さんは、白い半袖シャツにダークグレーのパンツ姿だ。色黒だからか、やけに白が映える。


「ていうか、ストーカーはやめてって言ってるでしょ!」


「ストーカーだろ、家まで行って待ち伏せしてるしな」


「言い方!迎えに行ったのよ!」


「中条、迎えは必要だったか?」


「いえ、近いので」


早坂さんは大袈裟にシュンとして見せた。「雪音ちゃんまで・・・あたし、今日は枕を濡らすわ」


「汗でか?」


「おだまり!」


「でも、わざわざありがとうございます。近いのに」


最後の強調部分を聞き流し、早坂さんはふふっと笑った。「じゃあ、次も迎えに行くわね」


──・・・次?


「ところで中条、その場所は何処だ?」


「あ、もう少し行った所です」



──2人のデカい男に挟まれて歩くと、威圧感が凄い。なんというか、連行されてる気分だ。


「あれ・・・何かしら?」


「え?」早坂さんを見上げると、目を細めて遠くを見ている。その視線を追うと、川の水面に水しぶきが上がっているのが見えた。

わたしの唯一の取り柄は、体力と視力。


気づいたら、その場を駆け出していた。


「雪音ちゃん!?」


「彼女!」そう言うのが、やっとだった。

後ろで、2人が何か騒いでいる。

それより彼女、彼女を助けなきゃ、──あれは、なんだ?もがき苦しむ彼女の首に、緑色の何かが巻きついている。


わたしは勢いに任せて川に飛び込んだ──はずが、物凄い力で引き戻される。一瞬、空を飛んだ。落ちる衝撃がなかったのは、瀬野さんが受け止めてくれたから。


「遊里!」


「えっ・・・」


瀬野さんが目で追うのは、溺れている彼女。早坂さんの姿がない。

まさか──立ち上がったわたしの腕を、瀬野さんが掴んだ。


「駄目だ。ここにいろ」


「でも、早坂さんが」


次に見た時、彼女の姿は消えていた。いつも通りの穏やかな水面。


「うそ・・・」彼女は・・・早坂さんは?

動こうとする身体を、佐野さんが押さえる。


「いいから待て」


──実際は、数秒だったと思う。わたしには恐ろしいほど長く感じた。


水面に、浮かび上がる影。それは、水しぶきと共に、姿を現した。

金切り声を上げ、水中に向かって抵抗している。身体の造りは人間に見える。全身が緑色で、左右に平たい顔。真ん丸なギョロっとした金色の目。耳の部分には大きなヒレ。


「半魚人か」瀬野さんが言った。


そいつは、上半身を捻らせ必死に逃げようとしていた。水中の何かに捕らえられている。

そして次の瞬間、水中に姿を消した。


辺りが、静まり返る──。



瀬野さんの手を振り払い、1歩踏み出したその瞬間、──ザバッと水しぶきが上がり、中から、早坂さんが顔を出した。その腕には、彼女が抱えられている。


瀬野さんが、大きく息をついた。


彼女は咳き込んでいるが、意識はあるようだ。

ホッと、胸を撫でおろす。

早坂さんはわたし達の元へ彼女を運ぶと、草むらにそっとおろした。わたしはボディバッグからハンカチを取り出し、彼女の顔を拭いた。


「大丈夫ですか?」彼女の咳が落ち着くのを待って言った。


「・・・か、川に近づいたら、急に何かに引っ張られて・・・」


「怪我はしてませんか?」彼女がうんうんと頷く。「早坂さんは・・・」


「あたしはこの通り大丈夫よ」笑顔を見せれる余裕に安堵する。「彼女、水を飲んでると思うから病院に行ったほうがいいかもしれないわね」


「遊里、奴は・・・」


早坂さんは濡れた髪を後ろに撫でつけ、川のほうを見た。「始末したわ。彼女抱えたままだったから少し手こずったけど」


「わ、わたしには、何も、見えなかった・・・」恐怖からか寒さからか、彼女の声は震えていた。


「おーい!大丈夫かあ!?」


大きな声で駆け寄って来たのは、あの、いつも会う、ウォーキングおじさんだった。

早坂さんが咄嗟に口を押さえる。──この状況で笑うか。


「今救急車呼んだから、待ってなさい」


どうやら、一部始終を見ていたらしい。「ありがとうございます」


「しかし、なんでまた溺れたんだ?この辺は流れも緩いしそんなに深くもないんだが」


「あー・・・」


「彼女、足つっちゃったみたいで」フォローを入れる早坂さんが不思議なくらい満面の笑みなのは、必死に笑いを堪えているからだ。


「そうかそうか、大変だったなあ。しかし兄ちゃん、かっこよかったなあ!この姉ちゃん取っ捕まえて自分が飛び込むんだからよ」


一瞬すぎて何が起こったかわからなかったけど、わたしを引き戻したのはやっぱり早坂さんだったのか。


「こっちの兄ちゃんも、姉ちゃんシッカリ受け止めてよ。2人ともスーパーヒーローみたいだったな!ハハハハハ」


2人を交互に見る。早坂さんは噴き出す一歩手前で、片や瀬野さんはうんざりといった表情だ。




到着した救急車に乗り込む彼女に付き添い、最後に伝えた。「もう、いないから。安心して」

周りの目もあり、具体的な発言は避けたけど、彼女は理解していた。

最後に一言、ありがとう、と。


彼女を見送った後、早坂さん達の元へ駆け寄る。「早坂さん、今ダッシュでバスタオルと着替え持ってくるんで待っててください!」

早坂さんは救急隊員が差し出したバスタオルを辞退していた。


走りかけた腕をグッと掴まれる。先程までの早坂さんとは違い、険しい表情だ。

あれ、──怒ってる?


「雪音ちゃん、さっきの事だけど・・・1人で突っ走っては、ダメよ」初めて聞く、真剣な低い声だった。


「・・・あ、ごめんなさい・・・」


「あたし達もいたのよ?」


「・・・ごめんなさい。足が、勝手に動いちゃって・・・」


早坂さんは、深い溜め息を吐いた。「わかるわよ、あなたの性格を考えると。でも、もう少し、落ち着いて周りを見てちょうだい。あのまま飛び込んでたら、どうするつもりだった?」


「・・・考えてませんでした」


更に重い溜め息に変わる。「あなたにはまだ、対処出来ないわ。だから、無茶をしてはダメ。これからは、あたし達がいる事を忘れないで。いいわね?」


「・・・はい。すみません」わたしは、馬鹿だ。何も出来ないくせに、勝手に突っ走って、最後には迷惑をかけるくせに。自分に嫌気がさす。


「わかったのならいいわ」頭に乗る、大きな手。早坂さんは優しい顔に戻っていた。



「中条、100メートルは何秒だ?」


「今その話必要かしら!」


「お前、すぐに追いつけなかっただろ。かなり速いタイムのはずだ」


「だから今聞くことかしら!」


「じゃあいつ聞けばいいんだ」


プッと噴き出し、ハッと思い出す。「早坂さん、今バスタオルと着替え持ってきますから!」


「着替えって、誰のだ?男物あるのか?」冷静な瀬野さん。


「・・・わたしのです」


「入るのか?」


「・・・伸びたシャツがあるんで!それならもしかしたら!」


「下は?」


「・・・伸びたスウェットがあるので、入ります!」


「丈は?」


「・・・アウトですね!」


早坂さんが、ハハッと笑った。「ありがとう。でも大丈夫よ、こんな時のために車に着替え積んでるから」


──そうそうない状況だと思うが。「よかった・・・」



「よし、俺は仕事に戻るぞ」


「あたしは着替えたら財前さんに報告してくるわ。雪音ちゃん、家まで車で送ってくわよ」


「・・・歩いたほうが早いんで大丈夫です」


「心配だわん。ちゃんと帰れる?」


「目ェ閉じても帰れます」


この人の過保護ぶりも、どこまで本気なのか──。


2人と別れて、はたと気づく。職業、聞き損ねた・・・。




その日の夕方、彼女からメールが入った。


【今日はありがとうございます。思い出すと今でも怖いけど、世の中には常識では理解出来ない事があると認識しました。でも、私は母親のようにはなりません。一緒にいたお2人にも感謝の気持ちをお伝えください。 長野 桜】


──最初は変な人だと思ったけど、しっかりした人だ。自分と比べると尚更。

彼女の名前を今知ったことに、少し可笑しくなる。


店長からの連絡で、店の再開は明日からとなった。今日こそ、待ちに待った海外ドラマナイトだ。食料とアルコールは十分に補充した。


今は全てを忘れて、愛しの主人公、ジェイクに集中したい。























































































































































































































































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