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翌日、学校の支度を終えた恭介は、六時二十分に玄関のドアを開けた。
すると家の前の道路には、体の前でスクールバッグを両手持ちした佳奈が立っていた。口角の上がった満面の笑みで、恭介に親しげな視線を向けている。
「先輩、おはようございます! 小鳥がさえずり、風がささやく。物事の始まりにはもってこいの、とってもすばらしい朝ですね!」
「……小鳥はともかく、風がささやく? 君、それ、意味わかって言って……。まあいいや、おはよう」
たじろぐ恭介が小さく返すと、「おはようございます!」と、二度目の挨拶が来た。
(なんかやっぱり間違ってるだろ、これ)と、苦々しい思いを抱いたまま恭介は佳奈へと歩み寄っていった。