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第67話……氷雪の巫女

「いつまでも寒いポコね」


「……だなぁ」


 例年のこの季節なら、汗ばむ陽気となる日も出るくらいの暦なのだが、一向に雪は解けなかった。

 汗ばむどころか、未だに寒いのである。


 雪が溶けなければ耕作が出来ず、それどころか野山に新芽さえも出ない。

 池の氷はまだ張っており、動物のみならず、低位の魔物たちも食べ物に困る始末であった。


 狼や熊が里に降り、魔物たちも食べ物を求めて村々を襲った。

 そもそも人間たちも食べ物に困っており、住民たちの不満は支配層であるパウルス王家に向かった。




☆★☆★☆


 ベルンシュタイン城の謁見の間にて、パウルス王の代理としてザームエル男爵が口を開く。



「陛下からのご下命である。至急、この寒さの元凶を解決せよ、との仰せだ!」


「はい。謹んでお受けいたします」


 王命を受けるは、準男爵のマリー。

 パウルス王国から見たベルンシュタイン領は、マリー準男爵自治領という名称である。



 ご下命が終わった後、執務室で皆と対策を練る。

 ザームエル男爵も一人の知己として会議に加わってもらっていた。



「そもそも王様は、なぜこのような命令を?」


 私はザームエル男爵に率直に聞いてみる。



「いやいや、王も宰相もお困りで、王国の全ての貴族にこのようなご下命を出しております」


「なるほど」


 ……つまるところ誰でもよく、なりふり構わず解決したいんだな。



「しかしガウ殿、この難題を解決せしものには莫大な恩賞を約束されていますぞ」


「は、はぁ……」


 確かに莫大な恩賞は欲しい。

 ……が、天候を変えることなど、普通はできようはずがない。



「あ、あの……よろしいですか?」


「ええ、どうぞ」


 発言の許可を求めてきたのは、岩石王の奥さんだった。



「私の里にある伝説なのですが、はるか東の山脈の向こうに、氷雪の巫女がいるという逸話があります……」


「ほぉ」


 私は興味深く思ったのだが、



「まぁ、ただの伝説でしょうな?」


 と、ザームエルさんはつれない。



「その巫女はどのあたりに棲んでいるのですか?」


 私は手元にある地図を差し出す。



「多分、このあたりです!」


 ……ぇ!?

 私はびっくりしてしまう。

 彼女は東の果ての方に、ぐりっと大きく丸を描いたのだ。



「……わはは!」


 岩石王が笑う。

 『わはは』じゃないよ、広域地図にこんなに大きな丸を描かれんじゃ、どこだか分からない。


 が、マリーをその地図を手に取って、



「ガウ、その氷雪の巫女を探しに行くわよ!」


「え? だってそんなに広範囲だったら、どこかわかんないじゃない?」


 私がそう言うと、マリーは真面目な顔になり、



「皆が困っているのだから、少しの手がかりでも頑張って探すべきよ!」


 と言ってくる。



「ああ、うん、じゃあそこに行こうか……」


 マリーの提言に、仕方なく折れることにする。

 まぁ、領地経営の方は、イオさんとバルガスに任せておけば、少しの間は大丈夫だろうしね……。



――グルルルル。


 私はドラゴに幌付きの荷車を牽かせ、荷車に荷物を積み込む。

 かなり大雑把な目的地を目指して、雪の中へと出かけるのだった。




☆★☆★☆


 今回の旅のメンバーは、私とマリーとポココとスコットさんの4名。

 多分大きな戦闘はないと踏んでいたのだ。



「すいません」

「ごめんくださいポコ」


 東部の山脈の麓で、村々を訪ね、聞き込みをして回った。

 なにしろ、この地図だけだと、目的地がどこだかまるで分からなかったのだ。



「有難うございます!」


 村々で長老格から話を聞くと、意外と早く巫女の居場所らしきところが分かったのだ。


 ……が、



「この上ポコ?」


「き、きついわね……」


 マリーとポココが怯むのも無理はない。


 話に聞いた場所は、そそり立つ絶壁の上だった。

 まるで道らしき道がないのだ。



「ここから先は、私とスコットさんと行ってくるよ!」


「ガウ、お願いね!」

「お願いポコ!」


 荷車でマリーとポココにお留守番を頼み、スコットさんを鞄に詰め込み、絶壁をよじ登ることにする。


 氷壁に剣を突き立て、少しずつ岩山を登る。

 冷たい吹雪が視界を遮り、一寸先は真っ白だった。



「岩肌よ! 我に道を指し示せ! ロック・リサーチ!」


 岩石王に先日教わった魔法で、崩れにくい岩肌を選択。

 一昼夜かけて岩肌を登り切ったのだった。



「……げ」


「敵ですな……」


 登り切った先では、氷属性の魔物が多数襲い掛かってきた。

 スコットさんと協力して、次々と倒していき、さらに頂上を目指した。



「旦那様、あそこに建物がありますぞ!」


 数度の戦闘をこなし、登り切った先には、小さな祠のようなものがあった。



「こんにちは」


 祠の木戸を叩く。

 ……すると、



「どうぞ、お入りになって」


 と、女性の小さな声がした。




☆★☆★☆


 招かれて中に入ると、妖精族らしき小さな女性がいた。

 身長は30cmくらいだろうか。



「こんなところまで、ご用はなんですか?」


 彼女は飲み物を出してくれる。

 凄く冷えた氷水であったが……。



「貴方が氷雪の巫女様ですか?」


 私は率直に聞いてみた。



「そうですわ、私が世界の氷雪を自在に操る巫女です」


 ……こんな小さな妖精が、世界の氷雪を自在に操るって?

 確かに聞いたのは私自身だが、なんだか騙されている気にもなる。



「実は、……、……」


 私は要件を丁寧に話した。


 ……この山脈の下の世界の人々が、寒くてとても困っている。

 出来うるなら解決して欲しいと……。



「ぜーったいに、嫌ですわ!」


 ……ぇ!?

 私は彼女の返答に絶句してしまった。

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