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第66話……物価高騰の裏側に巨大商会あり!?

 シャルンホルスト台地に2か月早く寒波が来たことにより、本来冬場に馬に与えられるはずの干し草が十分に作られず、特に北部のパウルス王領で馬の餌が不足。


 軍馬に優先して与えられたため、特に物資輸送用の馬がやせ細ったり餓死したりした。


 さらに、街道に早い時期に雪が降り積もったために、輸送用の馬車の負荷は激増。

 供給地から加工地に物資が流れ込まず、食料のみならず物資は全て品薄になった。


 輸送コストの激増に伴い、物価は高騰。

 物価高騰にともない、生産地である農村部で売り渋りが横行した。

 そのような因果関係で都市部のみならず、農村部の食糧事情も悪化していった。




☆★☆★☆


「ただいま!」


「おかえりなさいませ!」


 我々は物資をドラゴに満載して、急ぎ古城に戻った。

 城門ではバルガスが出迎えてくれた。



「これは城下で配給しておいて!」


 ジークルーンに砂糖と食塩が入った袋をいくつか渡す。

 焼け石に水かもしれないが、全くないよりはましだろう。



「次はポテトの品種改良を急いでしよう!」


「ぽこ?」


 ポココが不思議な顔をしている。



「どうして、そんなに食べるものを作らないといけないポコ? そこまで不足しているようには思わないポコ!」


 確かに古城の倉庫には、秋収穫の食料もいくらか備えがあった。



「食べ物が足りなくなると値段が上がるから、みんなもっと値段が上がるだろうと思って売らなくなるんだよ! だから実際より食べ物がなくなっちゃうの」


「ぽこ?」


「だから、みんなに食べ物がある様に見せかけて、だんだんと値段を下げていくと、食べ物が出回るようになるんだよ!」


「わかったポコ!」


 前世の世界での米不足や、銀行の取り付け騒ぎ等、実際にモノが過度に無くなったわけじゃない。

 そこで為政者が行う唯一の解決法とは、みんなに十分にモノがあることを見せるということなのだ。



「ガウ、このポテトをどうするの?」


「魔法で寒冷期でも育つようにする! しかも三倍の速度で!」

「だけどデメリットが若干不味くなることなんだよね……」


 私はスコットさんと滅びた古代魔法文明の農業書を解読しながら質問に答える。



「え~、美味しくないのは嫌だなぁ」

「嫌ポコ!」


 皆さんとてもご不満の様だ。



「馬の餌にも必要だから、この際、味は関係ありませんよ!」


 戻ってきたジークルーンが、代わりに答えてくれた。


 この寒波に乗じて、王都の巨大商会が買い占めを行っており、馬の飼料も値上がりしているのだ。

 ……買い占めがムカつくので、めちゃくちゃな量作ってやるぞ!


 樽に大量に用意した特殊な魔法溶液に種芋を三日漬け、すぐさま城下の畑に植えていった。




☆★☆★☆


「アルデバランJr! 南部の荒れ地に新たな農地の開拓を進めよ!」


「はっ!」


 ケンタウロス族の族長であるアルデバランJrに開墾を指示。


 南部は芋以外にも、商品作物であるサトウキビを飢える予定だ。


 冬場農閑期でお休み中の農家も総動員。

 マリーやルカニの広範囲炎系魔法で融雪を図った後、大規模な開墾を行う。



「出でよ! 地獄の騎士たちよ!」

「甦れ! 不屈の戦士たちよ!」


 夜は夜で、スコットさんと私がアンデットモンスター達を大量召喚。

 彼等に開墾や治水工事を行わせた。


 今までのベルンシュタイン領は鉱業に重点を置いてきたのだが、この機に一気に農業部門をてこ入れ。

 文字通り昼夜を分かたず開発しまくっていった。




☆★☆★☆


――1か月後。

 そろそろ春なのだが、一向に雪は降りやまない。



「旦那様、我が領へと塩を運んでいた商隊が、山賊に襲われました!」


「なんだと?」

「急ぎ討伐隊を出せ!」


 我が領で治安を担うバルガスが声を荒げる。

 ……多分、今から追っても無理だろう。


 塩は我が領では、干魚の製造に大量に必要だったのだ。

 きっと、値上がりを狙う王都の巨大商会が背後で糸を引いているに違いなかった。



「……なんだ? 塩がなくてお困りか?」


「ええ、何か良い手があるんですか?」


 執務室の会議の席上。

 のんびりとした声で聞いてきたのは、最近こちらに移住してきている岩石一族の部族長であるエンケラドゥスさん。またの名を岩石王だ。



「いやあ、岩塩があるではないですか?」


「……え?」


 このシャルンホルスト台地には全域で海がない。

 更には、私の知る限りでは塩湖もない。


 つまりは、全ての塩が岩塩由来なのだが、前世のような高度な地層知識がなければ、新たな採掘場を発見することは難しかったのだ。

 よって、砂糖や胡椒ほどではないが、塩もいくらかこの世界では貴重な品だった。



「ワシならすぐ見つけられるんだが?」


「本当ですか!?」


 私より先にビックリして声を発し、席から立ち上がったのはルドルフだった。

 彼はリザードマンの族長で、漁業や干魚の製造部門の責任者でもあったのだ。




☆★☆★☆


 その後、私は岩石王と二人で、古城の西にそびえる雪深い山に登る。



「ほら、ここにあるでしょう?」


 岩石王が岩肌を崩すと、白色の壁面が現れる。

 舐めてみると、確かに塩辛かった。



「……凄いですね? どうしてわかるんです?」


「そんなもの、よく見て歩けばすぐですよ、ほらあそこにも!」


 ……ダメだ、全然分からない。


 魔力を全て目に集中しても分からなかった。

 そもそも雪が積もっていて、岩肌さえ見えないのだが……。

 まあ多分、きっと岩石族特有の特性なのだろう。

 得手不得手は誰にもある。



「この辺りを掘ってくれ!」


「わかりました!」


 岩石王の指示のある岩肌を、動員してきたドワーフたちで掘削。

 掘りだした岩塩を次々に古城へと運び出した。



「ここへ岩塩を置いて下さいね!」

「おいてくださいポコ!」


 古城ではマリー率いる製塩班が、大鍋で湯を沸かしていた。

 ここで不純物を取り除き、次々に製塩。

 物凄い量の塩を作ることに成功していくのだった。




☆★☆★☆


「いらっしゃいませ!」


「塩を二袋下さい!」

「毎度あり!」


 城下であまりにも安くなった塩は、高関税にも関わらず、周辺の商人が買い付けに来るほどになった。


 こうして、ベルンシュタイン領は干魚の製造コストを大幅に下げることのみならず、更に一つ特産品を増やすことに成功したのだった。



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