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第63話……魔王死す、冬の到来。

「ぼろぼろになってるポコ!」


 魔王ベリアルの館に行く前に、岩石王の集落を訪れる。

 着いたそこは廃墟となった集落だった。



「大丈夫ですか?」


「……あ、ありがとうございます」


 瓦礫にうもれた住人を助け出し、マリーが回復魔法を使う。

 数人の被災者を助けた後、岩石王の領主の館に向かった。



「お邪魔します」

「おじゃまするポコ」


 岩で頑強に造られた館は壊れてはいなかったが、館を守る衛兵たちは皆倒れ、傷ついていた。



「しっかりしてください」


「ポーションあげるぽこ!」


 マリーとポココに衛兵の治療を任せると、私は一人、更に館の奥へと向かった。



「岩石王!」


「……おう! 情けない姿で申し訳ない」


 玉座で血まみれな姿の岩石王。

 岩のように堅いはずの表皮が、無残にも切り裂かれていた。



「至急手当てをしますね!」


「かたじけない」


 私はマリー程には回復魔法が得意ではないが、古代竜の加護により、少しだけ回復魔法が使えるようになっていた。



「かの者の傷を癒し給え! メディカル・ヒール!」


 温かい光芒が岩石王の体を癒す。

 さらには奇麗な布を包帯代わりにして、岩石王の体に巻いていった。



「……ふぅ、助かったよ」


 少し安堵したような岩石王。



「一体誰にやられたんですか?」


 岩石王を厚手の布の上に寝かした後に聞いてみる。



「ラムザとか名乗る奴が、突然に兵を連れて攻めて来たんだ!」


「……ラムザ!?」


 聞いたことがある。

 確かズン王国軍の将軍だった気がするが……。

 そのラムザが攻めてきて、岩石王の集落を破壊していったらしい。



「奴は魔剣シュバルツシュルトを持っていた。あの剣はアトラスの物であったはず! あの剣さえなければ、ワシもこのような不覚は取らなかったのだ……」

「魔剣シュバルツシュルトは、魔族に対し特効がある伝説の武器だ。ベルンシュタイン公も彼と戦う時には用心されよ!」


「ご助言、有難うございます!」


 岩石王の皮膚は鋼の刃も通さぬほどなのに、鋭い切り傷が沢山ついていた。

 その魔剣の切れ味の怖さを、まざまざと見せられた感じだった。




☆★☆★☆


「助けてくれてありがとう!」


「いえいえ」


 岩石王に頼まれ、館の地下室を塞いでいた瓦礫を除去。

 下から岩石王の家族を救出した。


 他にも、集落の住民を多数救出。

 けがの手当てと、治療に務めた。



「旦那様、我々も任務がありますれば! そろそろ……」


「そうだよね」


 スコットさんに言われ、ある程度の所で治療作業を終える。

 我々は魔王ベリアルのもとへと急がねばならなかったのだ。



「気を付けていかれよ!」


「わかったポコ」


 岩石王に見送られると、私たちは魔王ベリアルの館へと急いだ。




☆★☆★☆


「酷いポコ」


「ここもやられておりますな!」


 魔王ベリアルの館についてみると、警護兵のレッサーデーモンの死体が、多数散乱している有様だった。

 他にも、庭の手入れ用の金属ゴーレムも壊され、上級魔族の亡骸さえ散乱している惨状だった。



「とりあえず、中へと入りましょう!」


「ガウ、気を付けてね!」


 スコットさんの先導の下、ベリアルの館の中へと足を踏み入れる。

 途中の回廊は血まみれで、メイドや執事も多数倒れていた。



「!?」


 ドアを開けた先には、華美な服装を纏う、華奢な魔族が玉座でぐったりしている。

 それは魔王ベリアルの姿だった。



「大丈夫ですか!?」


「……」


 しかし、既にこと切れており、反応は無い。


 部屋の荒れ模様が、激闘を物語る。

 家具が散乱し、調度品は全てが壊れていた。


 切り傷の形跡は、岩石王のものと瓜二つだった。

 犯行はラムザという男に違いない。



「可哀そうポコ」


「無慈悲ですな……」


 魔王の周囲には、彼の家族の亡骸もあった。

 美しい奥さんに、可愛い子供たち。


 私達は炎の魔法により、魔王ベリアルの屋敷を焼き払った。

 マリーが近くで摘んできた花をそっと供える。


 私たちはとりあえず、岩石王の集落に戻った。




☆★☆★☆


「魔王様の御様子はどうでしたかな?」


「……そ、それが」


 私は見てきた惨状を、岩石王に話す。



「そうですか……、残念ですね」


「はい」


 岩石王は魔王ベリアルと仲が良かったみたいで、それはとても残念そうな雰囲気だった。



「それはそうとベルンシュタイン殿、お願いがあるのだが……」


「なんでしょう?」


「我が集落は無残にも半壊してしまったので、よければ其方の支配地に、皆で居住してもいいだろうか?」


「ええ、構いませんよ!」


 ということで、岩石王率いる岩の魔族たちはベルンシュタイン領に移住することとなった。

 彼等のご飯である鉱石は領内に豊富にある。


 そして、彼らは戦闘力の高い一族で、領地の防衛にも一役買ってくれるだろう。

 まさにウインウインの提案だった。



「あ、ガウ、雪だね」


「今年は早いポコね」


 我々が自領に帰ろうとしているとき、突然季節外れの寒波が押し寄せてきた。

 例年より2か月も早く、雪が降ってきたのだ。


 ……あとでわかったのだが、これは魔王ベリアルがいなくなったことで起こった現象だった。


 シャルンホルスト台地のほぼ全土が雪に覆われ、例年より遥かに寒い冬を迎えることになるのであった。

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