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第48話……領内開発、醤油造りの野望。

 澄み渡る青空の下。


――カーン、カーン


 小川近くの水車小屋から金属音が響く。



「旦那様、いらっしゃいませ」


 今日は城下の領内の見回りだ。

 水車小屋では、工員のドワーフに案内を受ける。



「これが新式の鍛造機です」


「……へぇ」


 ドワーフが人間より力が強いとはいえ、水車が作り出す巨大な力には勝てない。

 ここでは、もうもうと上がる蒸気の中、熱した鉄を水車の力で叩いていた。


 ここ古城の周り、改めベルンシュタイン領の主要産業は鉱業。

 鉱石や石炭を掘り出し、加熱精錬して行商人に販売するのが主な収入源だった。


 ベルンシュタイン領の住人の85%は、買ってきた非人族系の奴隷が元である。

 ほとんどが奴隷期間を満了し、そのまま住んでくれているのだ。


 自分が買った奴隷だからといって、厳しく扱えば逃げられるかもしれないし、そうなれば管理するのが大変なのだ。


 ……なぜ非人族系なのかって?

 私が人間を嫌いだからだ。

 他に理由は無い。



「旦那様、これが蕎麦の実です」


 次に向かったのは農場。

 紹介を受けたのが新種の作物の蕎麦。

 前世で食べたことはあるけど、植物として見るのは初めてだ。



「これって何が良いの?」


「年に3回収穫ができるそうです」


「……3回!? 飢饉対策にとても良いね!」


「ただ、食べ方が難しいですね。良い食べ方がありません」


 ……よっしゃ、初めて転生者としてのメリット来たる。

 やはり、こういうことが多少は無いとね。



「旦那様、何をニマニマしてるんです?」


「……いや、何でもない」


 蕎麦きりを作ろう。

 出汁は川魚を干すとして……。


 問題は醤油だな。

 大豆を煮て発酵させるんだよね。

 とりあえずは、魔法で安全に発酵させよう。




「旦那様、魚を生でお食べになるんで!?」


 次に訪れたのは、川の漁場。

 管理人はルドルフの所から雇ったリザードマンだ。



「ああ、食べたい」


「寄生虫に内臓をやられますぞ」


「いや、一度魔法で冷凍したら防げるんだよ!」


「おお! 流石はバンパイアロードを倒しただけはありますな!」


 うんうんと頷く、漁場管理主任のリザードマン。

 ……いやいや、全くバンパイアロード関係ないよね。

 まぁ、食用事情が悪い世界だから、干し物のほうが、とりあえず需要があるんだけどね。




――最後は郊外の畑。

 連作障害を避けるために、魔法で土壌調査をする。


「旦那様、この畑は次も使えますかな?」


「……ああ、ちょっとやめといた方が良いかな」


「わかりました、とりあえず3か月休ませますわ!」


「お願いしますね」


 魔法で地質改良できないこともないが、膨大な魔力が必要となる。

 まぁ、自然に逆らわない農法というのが、やはり基本だろうと思う。



――大麦畑にて。


「皆さん、鎌の遣い方はこうですよ!」


「は~い」


 新参のゴブリンに刈り入れ指導をするのはスコットさん。

 彼は鎌の遣い方にはめっぽうウルサイ。

 ……個人的には、刈れればなんでも良いじゃないかと思うんだが、これが彼の唯一のこだわりだから黙っておく。




 最後は、猟場だ。

 主に弓を使って獲物をとるのだ。


 この世界では、羊は飼っているが、牛や豚の畜養はさほど行っていない。

 よって、狩りは肉をえる主要な手段だった。



「旦那様、新しい猪用の罠でございます!」


「……へぇ」


 狩猟担当のオークに、大きな籠のような罠を見せて貰う。


 罠さえあれば、非力な者でも獲物が獲れる。

 職業の汎用性は領内の豊かさに繋がる。

 一部の技術者にしかできない仕事は、できるだけなくしていくべきだった。



「仕上げは必要なのはどのくらいいる?」


「今のところ、冷暗所に保管してある3匹分です」


 オークに連れられて、冷暗所に向かう。

 保管されていた猪肉に、筋肉繊維分解の闇魔法を掛けた。


 こうすると、程よく熟成されていい肉になるのだ。

 ……たくさん実験した効能である。



「OKです!」


「じゃあ、2頭分は解体して領内で、1頭分は丸ごと行商人に売り払いますね!」


「了解です!」


 暗黒精霊デス・サイズを苦労して支配し、スコットさんに厳しい教えを乞うた闇魔法は、主に精肉加工にその力を発揮していた。

 誰にでもできることではないだろう。

 ……まさに匠の技だ、ごめん大嘘。


 それはさておき、我が領内のお肉は柔らかくて美味しいと、王都パウルスの貴族にも大人気だそうな。

 ……いずれは、ブランド化してガッポリ稼ぎたいね。



 その後、シカ肉の処理と野鳥肉の処理を施し、古城に帰る。

 まぁ、私でないとできない仕事は、この肉処理くらいのものである。




☆★☆★☆


「旦那様、これが先日の行商人の分です」


「はいはい」


 古城に帰ると事務作業だ。


 城下では商取引に税金は課さないが、領境の関所で関税を課していた。

 税金が欲しいというより、何がもたらされ、何が出ていくかを調査するためだ。


 この古城の城下町に来るには、モンスターが湧く森を通る必要がある。

 よって、やって来る商人は少なく、流通量も大したことは無い。


 ……が、この城下町が大きくなれば、いずれ事務員を雇う必要が出てくるだろう。


 しかし、意外なことに、この関税というのは儲かる。

 歴史上の偉人が関所撤廃をしたと歴史の本にあったが、絶対に撤廃したくなくなるほどの儲けだったのだ。



「旦那様、お客様ですよ!」


 お客様の様だ。

 ちなみに新しい秘書は、女性のバンパイアだ。

 パール伯爵の屋敷から連れてきた。


 今回の客人は、なんと空からやってきたのだった。


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