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第47話……凱旋、ドラゴンナイト

「お主、名を何という?」


 奇妙にも剣が話し掛けてくる。

 前世であったら、まさに驚愕モノだ。



「ガウといいます……」


 伯爵との死闘が終わり、興奮と緊張によるアドレナリンが引き、肩の痛みに引き攣りながら答える。



「ガウというのか……、我の名は魔剣イスカンダル。これから良しなに頼むぞ!」



「は、はぁ……」


 そう返事をすると、剣の表面に浮かんでいた顔がふっと消えた。

 伯爵の遺体から鞘を探し、有難く頂戴する。



「ふあああ! 良く寝た。終わりましたかな?」


 どこからともなく、スコットさんが現れる。



「終わったよ!」


 そう告げると、彼がニッと笑うので笑い返した。

 死霊と巨人のほほ笑み合いなど、他人からしたら気持ち悪いだけかもしれないが、我々としては最高の瞬間だった。



「お外が大変ポコ!」


「え!?」


 ポココが騒ぐので、外に出て様子を見る。


「!?」


 そこには、ゾンビやら骸骨剣士やらワーウルフやら、夜を主体に活動するモンスターが一斉に私に敬意を示してきた。



「「「我が王よ……」」」


 伯爵に変わり私が主人になったようだ。

 私は彼らに一通り手を振り応えると、ドラゴに跨り、古城への帰路についたのだった。




☆★☆★☆


 帰りは傷が痛むのもあり、ある程度のんびりと進む。



「旦那様も立派なドラゴンナイトになりましたな!」


「あはは、今だけかもね」


 スコットさんにドラゴンナイトと言われ、悪い気はしない。

 前世でドラゴンナイトと言えば、超一握りの英雄のイメージがある。


 ……まぁ、死霊連れの血まみれ巨人なので、ブラッディナイトといったほうが近いかもしれないが。



「……しかし、旦那様のマントも深紅に染まりましたな?」


「ああ、そうだね」


 自分の血は蒼いので、多分伯爵の血とかだろう。

 バンパイアロードの血で染まったマントとか、なんだか少しカッコいい気もする。



「しかし旦那様、纏わる闘気がお替わりになりましたな? 何か変わったことをなさいましたか?」


 ……そう聞かれてもなぁ、何かしたっけ?



「ああ、そうそう、伯爵の心の臓たべちゃった」


「なんですと?」


「やめた方が良かった?」


「……いや、わかりませんが、それで皆に新しい主人と勘違いされたのかもしれませんな」


 そんなことを呑気に言いながら街道を進む。


 ……あとで知ったが、魔族の世界では、不死身の英雄パール伯爵が新参者に倒されたと大層な噂になったらしかった。




☆★☆★☆


「ただいまぁ」


「お帰り!」


 ……というか、既にマリーは水晶から無事に解放されていた。


 マリーたちは血色も良さそうだ。

 出血による貧血なせいで、私の方が、若干顔色が悪かったかもしれない。


 多分、黒騎士エドワードは、自分とパール伯爵の戦いを遠目で見ていたのかもしれないと思った。



「隊長、囚われの身となり申し訳ないです……」


 マリーと一緒に捕まっていたジークルーンが、申し訳なさそうに謝る。



「気にするなって!」


 ……と、私より早く言ったのは、盾のデルモンドだった。

 こいつは、本当に私のことを主だと思っているのだろうかと、いつも悩む。



「皆さま、お初にお目にかかります!」


 聞きなれない声に、マリーたちが驚く。

 魔剣イスカンダルが、自ら鞘から出てきて自己紹介した。


「……ガウ、この人誰?」


「ええと、さっき戦ってきたバンパイアロードさんの持ち物」


 マリーは魔剣イスカンダルをしげしげと見つめる。



「しゃべる剣! これは高く売れそうね!」


「えー、勘弁してくださいよ!」


 久しぶりに目が$マークになったマリーに、いきなり凹まされた魔剣イスカンダルだった。


 そう、マリーに逆らったら売られかねない。

 ひょっとすると、私でさえ。

 ……なんだか、そんな少し怖いことを思ってしまった一幕だった。




☆★☆★☆


 久々に古城で風呂を沸かし、お湯を被る。

 もう血やら汗やらで、ぐちゃぐちゃだ。


 この世界には、お湯につかるという発想の風呂は無い。

 だいたいがサウナ風呂だ。


 しかし、ここには湯船につかれるタイプのお風呂を作っていた。

 前世の記憶があればこそである。



「ぽここ~♪」


 ポココが楽しそうに湯船で犬かきをする。



「ガウ、眼をつむってね!」


 私はマリーに頭を洗って貰っていた。


 湯気がもうもうと上がる景色。

 幸せである。



――バシャーン


 巨人の私が湯船に入ると、お湯が大量に溢れた。

 お湯が貴重なこの世界では、かなり勿体ない行為でもある。



「……ぽここ!?」


 湯船で温まった後。

 洗われるのを嫌がるポココを捕まえて、ごしごしと洗う。

 たまに洗わないと、フカフカの毛並みが維持できないのだ。



――バシャーン


「……ぽこ」


 一通り洗った後のポココはとても不機嫌だった……。




☆★☆★☆


 お風呂から上がったあと、晩御飯にする。


 一応は戦勝パーティーということで、ご馳走が出る。

 今回のメインシェフは、ルカニだそうだ。



「ぷは~♪」


 冷えたエールが旨い。

 まさにこの為に生きているって感じだ。



「お待たせです!」


「ぽここ~♪」


 緑が映えるサラダのあとに、湯気が立ち上る子羊肉のシチューがお目見えする。


 疲れていたのもあって、鍋3杯分もお替りしてしまった私であった。



 お腹いっぱいになって、ベッドに潜り込む。



「助けてくれてありがとう……」


 寝る前に耳元で、そんなマリーの泣きそうな小さな声を聞いた気がする。

 しかし、とても疲れていて、極度の眠気に押しつぶされた幸せな夜だった。

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