「出でよ! 屈強なる地獄の剣士たち! ドラゴントゥース・ウォーリアー!」
スコットさんが撒いたドラゴンの骨から、大型の骸骨剣士が4体現れる。
「小癪な!」
「死霊たちよ、再び安息に戻れ! ディスペル・マジック!」
バンパイアロードの詠唱と共に、骸骨兵は一瞬で全て砕け散る。
「ぐぬぬ……、されば!」
「炎の怪鳥よ! 我が敵を焼き尽くせ! ファイアー・フェニックス!」
スコットさんの両手から、炎を形作った鳥が、バンパイアロードに襲い来る。
「下らん! 解呪! マジック・キャンセラー!」
バンパイアロードの一声で、炎の鳥は消え去ってしまう。
スコットさんはそれを見て歯噛みする。
……その後、三度スコットさんは魔法を唱え、そのすべてが解呪され、霧散させられた。
しかも、相手は未だに椅子に座ったままだった。
☆★☆★☆
「客人! 戯れ事は終わりか?」
不死族の君子が、つまらなそうに呟く。
「そなたがパール伯爵か?」
とりあえず問うてみる。
「いかにも、我が名はパール。下種な巨人よ、跪け!」
威厳ある迫力に、思わず跪いてしまいそうになるが、相手は今回の敵である。
「我が名はガウ。申し訳ないが、お命頂戴致す!」
大見得を切って、ロングソードを構えなおす。
「くくく……、小僧。貴様に倒されることなど、未来永劫ないわ!」
パール伯爵はようやく椅子から立ち上がり、金髪で美しい髪をかき上げた。
刹那、伯爵の姿が消え、いきなり目の前に姿を現す。
「小僧、死ね!」
華奢な伯爵の物とは思えない長身のロングソードでの一撃を、すんでのところで盾で受け止める。
すかさず、盾のデルモンドが炎を噴きつける。
伯爵は飛びのき、『ほぉ』と驚く。
「その盾は、古の炎王バーンの業物。貴様どこでそれを手に入れた!?」
……本当に由緒ある盾だったらしい。
むしろこちらが逆に驚く。
「問答無用! 死んでもらう!」
今度はコチラが飛び掛かり、聖水のかかったミスリル鋼のロングソードを振り下ろす。
――ザクッ
「……え?」
躱されると予測したが、運よく敵の胸を貫くことが出来た。
伯爵は灰となって崩れ行く。
「旦那様! 後ろ!」
……という幻想を魅せられたようだった。
スコットさんの助言により、後ろからの斬撃を、すんでのところで飛び躱す。
躱したところから、再び地を蹴って斬り返した。
「すばしっこい小僧だ! 炎よ迸れ! ファイアボルト!」
私は伯爵より、剣技においては若干の分がある感がある。
……が、間合いを詰めると、彼は息をするが如く魔法を次々に放ってきた。
魔法を躱しながら、踏み込み、そして斬りかかる。
さらに、お互い回り込みながら、複数合斬り合った。
「小僧よ、惜しいぞ! その剣技の才能が惜しい。今ここで殺すのがな!」
伯爵は一度距離をとり、血の混ざった唾を吐き捨てる。
「……が、私に楯突いた以上、やはり死んでもらうぞ!」
伯爵がカッと眼を見開き、周囲の空気が振動するほどの魔力を滾らせる。
「開け荘厳なる冥界の門、七度我に魔神の力を付与させ給え! 秘儀・ダークロード・イリュージョン!」
伯爵が次々に分身し、等身違わぬ存在が7つ現れた。
……幻影魔法の残像かと思ったのだが、
「嘶け雷光! サンダーボルト!」
「迸れ炎球! ファイアーボール!」
「響け地鳴りよ! アース・ドライヴ!」
3体がそれぞれ違う魔法を詠唱し、残る4体が斬りかかってきた。
魔法を避けながら、2体の剣を防ぐも、残る2体の剣を体に受けてしまう。
「……ぐっ!」
皮膚が避け、肉がえぐれ、蒼い鮮血が迸る。
さらに力が抜けるのを感じる。
「旨いな! やはり若い生き血は素晴らしい!」
伯爵の剣に纏う黒い霧が、舌なめずりする恐ろしい形相を現しながら言霊を現す。
彼の剣もまた、ただの剣ではないようだった。
「「「うはは、小僧! 我が魔剣イスカンダルも喜んでいるぞ!」」」
7体の伯爵が異口同音に、笑いながらに喋るのが耳障りだ。
……しかし、このままでは絶対に勝てない。
せめて、魔法詠唱の時間だけでも取れないものか……。
ジリジリとさがりながら、思案を続けていると、
「……そこの死霊! 何をしている?」
伯爵に言われ、右後ろを見ると、スコットさんがドラゴンの骨をばら撒きながら、聞いたことのない長い詠唱をしていた。
「……再びの竜牙兵か? 性懲りもない」
伯爵は戦力差の余裕から、スコットさんの仕草を笑いながら眺めていた。
スコットさんは小さな両手を天に掲げる。
「暗黒精霊デス・サイズよ、我が想いを成せ給え! 我が主の元へ集いて、龍の衣と成れ! ドラゴン・メイル!」
スコットさんとドラゴンの骨が、一陣の竜巻によって巻き上げられる。
……が、飛んできた方角は伯爵ではなく、私の方だった。
もともと実体のないスコットさんと、ドラゴンの鱗が調和して、私の体に次々と重なり合い、見事な全身鎧として形成された。
「おおう? 見事な小細工だな? 褒めてつかわす!」
伯爵は余裕綽々に笑う。
「……貴様、いつまで笑っている!? 未だに勝ったつもりか?」
私の全身鎧の一部となったスコットさんが笑い返す。
「!?」
「なんだと!? 下郎!」
伯爵の顔色がみるみる曇っていく。
怒りにより震え、顔には深い皺が刻まれ、より長大な魔力が噴き出ているのを感じる。
……スコットさん。
無意味な挑発などやめて欲しいものだが。
私の両手は、過剰な緊張で小さく痙攣していた。