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第44話……いざ! パールの屋敷へ!

――月に雲が、妖しくたなびきかかる深夜。



「いくぞぉ!」


 パール伯爵の屋敷を、小高い山の上に確認した私は、ドラゴに騎乗したまま突っ込む。



「ギギギ、侵入者、貴様止マレ!」


 茂みの中からは、外敵を感じた無数のワーウルフが飛び掛かってくる。


 ドラゴは素早くそれを感知して、ジグザグに走り、敵の進路予想を外していく。

 私は騎乗のままロングソードを振り下ろし、次々にワーウルフを肉の塊に変えていった。


 さらに、地中から這い出てくるゾンビたちに、最高速で走るドラゴの上から、ロングソードを突き立てる。

 騎乗速度が刺突衝撃力に加わり、不死族系のモンスターが、次々に無残な姿に変わっていったのだった。



「旦那さま、大きいのが来ましたぞ!」


「臭いぽこね!」


 次に見えるのは、巨体を波打たせるフレッシュゴーレム。

 以前にも見たことのある、魔物の死体でできたゴーレムだった。

 しかし、奴は力が強くとも、足が遅い。


 私は距離をとり、弓を引き絞り、3本矢をゴーレムに突き立てる。

 今回、相手がバンパイアをはじめとした不死族ということで、矢じりは全て高価な銀製にして、愛剣のロングソードにも聖水をたっぷり振りかけていた。



「暗雲を蠢く、雷光よ! 我が指差すところへ走り給え! サンダー・ドライブ!」


 突き立てた3本の銀矢を軸にして、スコットさんの雷魔法が、高熱を保ったままフレッシュゴーレムに突き刺さる。


――ギャオォオオ!

 複数の怨嗟にも聞こえる叫び声をあげて、フレッシュゴーレムは焼け落ちていく。


 その間にも、私は3体のワータイガーの首を刎ねていた。


 ドラゴの機動力は、ワータイガーのそれよりも速い。

 敵は不利を悟っても、逃げることもできずに、私の剣に倒れた。


 時折、近寄る敵には、喋る盾ことデルモンドが炎を噴きつける。

 敵は大軍、こちらは人手不足なので、大忙しだった。


 ……しかし、敵は幾らでも、地中から現れる。

 消耗戦になれば、やはり負けてしまう。




☆★☆★☆


「古の勇者よ、我が意に従い再び立ち上がれ! スケルトン・ウオーリアー!」


 相手の数が多いので、隙を見ては骸骨戦士や、竜牙兵を多数召喚。

 これをもって雑魚敵にあたらせた。


 不死属性の巨大なヒグマを6体倒した頃になると、流石に敵の数が減り始める。

 あとは、骸骨剣士や竜牙兵に任せて、私はパール伯爵が待つであろう屋敷に突撃することにした。


 ドラゴの手綱を引き、一気に傾斜を駆けあがる。

 意外なことに、小高い丘にあったパール伯爵の屋敷の庭は美しかった。

 色とりどりの美しい花が咲き誇り、不死属性の親玉の屋敷とは思えない優雅さだった。



「こういうところに住みたいですな!」


 スコットさんが安穏と呟く。



「ああゆうのがお好みポコ?」


「……ま、まさか!?」


 ポココが指さした先にいたのは、風情ある庭と場違いなドラゴンゾンビだった。

 全長は約15m。

 ……お世辞なしで、でかい。


 大きいだけでなく、羽も立派で、鱗の輝きも美しかった。

 さぞや、生前は立派なドラゴンだったに違いなかった。


 しかし、相手もこちらを見つけた様で、漆黒の高エネルギー・ブレスを吐きつけてくる。

 嵐のような黒炎で、庭の木々が黒い炎で焼かれていく。


 私はすかさず、背中にあった盾で防いだ。



「あちぃ、あちぃ! 助けて!」


 喋る盾こと、デルモンドが熱がる。

 温度だけでなく、闇のエネルギーも凄まじいことを、盾の裏側でさえ感じる。

 ただの鉄の盾だと、一瞬で消し飛ばされかねないエネルギーだった。



「闇の茨よ! 魔王の庭園の如く咲き誇れ! ダーク・ローズ!」


 私が魔法を唱えると、ドラゴンゾンビの足元に、漆黒の薔薇の茨が複雑に絡みつく。

 とりあえず、あまり動けないようにしておくのだ。


 さらに、敵のブレスを掻い潜り、三度四度と聖水が掛かった剣で切りつける。

 そして段々と、ドラゴンゾンビの巨体は満身創痍になっていき、腐った匂いのする体液が迸り、見るからに俊敏性が落ちていった。



「いまだ! エンチャント・ストレングス!」


 動きが落ちたところを見計らい、私は筋力三倍増の魔法を使用し、一気にドラゴンゾンビの首を跳ね飛ばした。



――ギャァァアア!

 首だけになったドラゴンが、跳ねまわりながら咆哮する。



「炎王の怒りよ、我が敵を漏れなく焼き尽くし給え! ファイア・ガーデン!」


 ドラゴンゾンビを中心に中規模の魔法陣を現し、炎の柱を無数に立て、首がないドラゴンゾンビの胴体を焼き払った。

 後には巨大な魔石が現れる。


 ……これだけ大きいと、マリーがとても喜ぶだろうな。

 今ここにいない、マリーの笑顔が脳裏に浮かんだ。




☆★☆★☆


 ドラゴから降り、屋敷の大きくて立派な扉を押し開ける。


――ギギギ。


 中へ入り、古びた階段を昇り、長い廊下を経て、その館の主の部屋であろう扉を開けた。

 そこには貴公子然とした、美しい貴族の男が優雅に椅子に腰かけていた。



「ここに、呼ばれぬ来訪者が来るのは200年ぶりかな?」


 男は細めながら、冷たく笑う。

 しかし、すぐに眼は紅く光り、口からは鋭い牙が生えてきた。



「御客人! 久々の戦い、楽しませてもらうぞ!」


――不死族の君子。

 バンパイアロードとの戦いの幕が上がったのだった。



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