――月に雲が、妖しくたなびきかかる深夜。
「いくぞぉ!」
パール伯爵の屋敷を、小高い山の上に確認した私は、ドラゴに騎乗したまま突っ込む。
「ギギギ、侵入者、貴様止マレ!」
茂みの中からは、外敵を感じた無数のワーウルフが飛び掛かってくる。
ドラゴは素早くそれを感知して、ジグザグに走り、敵の進路予想を外していく。
私は騎乗のままロングソードを振り下ろし、次々にワーウルフを肉の塊に変えていった。
さらに、地中から這い出てくるゾンビたちに、最高速で走るドラゴの上から、ロングソードを突き立てる。
騎乗速度が刺突衝撃力に加わり、不死族系のモンスターが、次々に無残な姿に変わっていったのだった。
「旦那さま、大きいのが来ましたぞ!」
「臭いぽこね!」
次に見えるのは、巨体を波打たせるフレッシュゴーレム。
以前にも見たことのある、魔物の死体でできたゴーレムだった。
しかし、奴は力が強くとも、足が遅い。
私は距離をとり、弓を引き絞り、3本矢をゴーレムに突き立てる。
今回、相手がバンパイアをはじめとした不死族ということで、矢じりは全て高価な銀製にして、愛剣のロングソードにも聖水をたっぷり振りかけていた。
「暗雲を蠢く、雷光よ! 我が指差すところへ走り給え! サンダー・ドライブ!」
突き立てた3本の銀矢を軸にして、スコットさんの雷魔法が、高熱を保ったままフレッシュゴーレムに突き刺さる。
――ギャオォオオ!
複数の怨嗟にも聞こえる叫び声をあげて、フレッシュゴーレムは焼け落ちていく。
その間にも、私は3体のワータイガーの首を刎ねていた。
ドラゴの機動力は、ワータイガーのそれよりも速い。
敵は不利を悟っても、逃げることもできずに、私の剣に倒れた。
時折、近寄る敵には、喋る盾ことデルモンドが炎を噴きつける。
敵は大軍、こちらは人手不足なので、大忙しだった。
……しかし、敵は幾らでも、地中から現れる。
消耗戦になれば、やはり負けてしまう。
☆★☆★☆
「古の勇者よ、我が意に従い再び立ち上がれ! スケルトン・ウオーリアー!」
相手の数が多いので、隙を見ては骸骨戦士や、竜牙兵を多数召喚。
これをもって雑魚敵にあたらせた。
不死属性の巨大なヒグマを6体倒した頃になると、流石に敵の数が減り始める。
あとは、骸骨剣士や竜牙兵に任せて、私はパール伯爵が待つであろう屋敷に突撃することにした。
ドラゴの手綱を引き、一気に傾斜を駆けあがる。
意外なことに、小高い丘にあったパール伯爵の屋敷の庭は美しかった。
色とりどりの美しい花が咲き誇り、不死属性の親玉の屋敷とは思えない優雅さだった。
「こういうところに住みたいですな!」
スコットさんが安穏と呟く。
「ああゆうのがお好みポコ?」
「……ま、まさか!?」
ポココが指さした先にいたのは、風情ある庭と場違いなドラゴンゾンビだった。
全長は約15m。
……お世辞なしで、でかい。
大きいだけでなく、羽も立派で、鱗の輝きも美しかった。
さぞや、生前は立派なドラゴンだったに違いなかった。
しかし、相手もこちらを見つけた様で、漆黒の高エネルギー・ブレスを吐きつけてくる。
嵐のような黒炎で、庭の木々が黒い炎で焼かれていく。
私はすかさず、背中にあった盾で防いだ。
「あちぃ、あちぃ! 助けて!」
喋る盾こと、デルモンドが熱がる。
温度だけでなく、闇のエネルギーも凄まじいことを、盾の裏側でさえ感じる。
ただの鉄の盾だと、一瞬で消し飛ばされかねないエネルギーだった。
「闇の茨よ! 魔王の庭園の如く咲き誇れ! ダーク・ローズ!」
私が魔法を唱えると、ドラゴンゾンビの足元に、漆黒の薔薇の茨が複雑に絡みつく。
とりあえず、あまり動けないようにしておくのだ。
さらに、敵のブレスを掻い潜り、三度四度と聖水が掛かった剣で切りつける。
そして段々と、ドラゴンゾンビの巨体は満身創痍になっていき、腐った匂いのする体液が迸り、見るからに俊敏性が落ちていった。
「いまだ! エンチャント・ストレングス!」
動きが落ちたところを見計らい、私は筋力三倍増の魔法を使用し、一気にドラゴンゾンビの首を跳ね飛ばした。
――ギャァァアア!
首だけになったドラゴンが、跳ねまわりながら咆哮する。
「炎王の怒りよ、我が敵を漏れなく焼き尽くし給え! ファイア・ガーデン!」
ドラゴンゾンビを中心に中規模の魔法陣を現し、炎の柱を無数に立て、首がないドラゴンゾンビの胴体を焼き払った。
後には巨大な魔石が現れる。
……これだけ大きいと、マリーがとても喜ぶだろうな。
今ここにいない、マリーの笑顔が脳裏に浮かんだ。
☆★☆★☆
ドラゴから降り、屋敷の大きくて立派な扉を押し開ける。
――ギギギ。
中へ入り、古びた階段を昇り、長い廊下を経て、その館の主の部屋であろう扉を開けた。
そこには貴公子然とした、美しい貴族の男が優雅に椅子に腰かけていた。
「ここに、呼ばれぬ来訪者が来るのは200年ぶりかな?」
男は細めながら、冷たく笑う。
しかし、すぐに眼は紅く光り、口からは鋭い牙が生えてきた。
「御客人! 久々の戦い、楽しませてもらうぞ!」
――不死族の君子。
バンパイアロードとの戦いの幕が上がったのだった。