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第43話……黒騎士エドワードとパール伯爵

――お天気が良い昼下がり。



「じゃあ、ガウ、お留守番頼むね~♪」


「はーい!」


 マリーとジークルーンは、王都に前回の戦利品を売りに行く。

 今回、ドラゴはお休みで、荷物運びは借りてきたロバが3頭だ。



 お昼、マリーがいないので、食事当番は私。

 適当に野菜を鍋に放り込み、猪の肉をシチューにして煮込む。



「カエルの肉もいれてポコ!」


「いや、それは勘弁して……」


――その後。

 久々に、弓の鍛錬を兼ねて、イノシシ狩りに興じた。



「ぽこここ!」


「旦那様、イノシシが出てきましたぞ!」


 ポココが追い立てた猪を、私が弓で仕留める。

 実は、ポココが咆えても、あまりイノシシがビックリしなかったというのは内緒である。




☆★☆★☆


――2週間後の夕方。



「マリー様のお帰りが遅いですな」


「そうだね」


「遅いポコ!」


 今日はマリーたちが、王都より帰って来る予定の日だった。

 ポココは美味しいお土産を目当てに、落ち着かない。


 ……が、代わりに現れたのは、全身漆黒の鎧に包まれた人物だった。



「ここがベルンシュタイン卿のお屋敷でよろしいですかな?」


「……ええ。で、貴方は?」


 古城周りの集落の入り口で、オーク族のバルガスが応じる。



「拙者、魔将ラムザ様の騎士長、エドワードと申す!」


「……ラ、ラムザ! ラムザ殿の?? ……ま、まぁ、お入りください!」


 慌てて、バルガスが古城に案内する。

 私達は、遠目の水晶玉でそれを眺めていた。



「凄そうなのが来たポコね!」


「旦那様! 相手は何用でしょうか?」


「……さあ?」


 こっちが探しているのは確かだが、先方様がコチラに用があるとは思えなかった。




☆★☆★☆


「ベルンシュタイン伯爵、はじめてお目にかかります! 魔将ラムザが名代、エドワードにございます!」


「遠いところからようこそ! ……で、ご用件は?」


「実はですな、ベルンシュタイン殿が傭兵をやっているとお聞きいたしまして……」


 騎士長エドワードは、羊皮紙でできた地図を広げる。

 遥か南方、ズン王国内の地図だった。



「この険しい山の山頂の屋敷にいる、パール伯爵を討ち取ってほしいのです!」

「報奨金の前金は、ミスリル黒銀貨で50枚。成功後にもう50枚ということで……」


 黒光りする、ミスリル銀の銀貨が机に置かれる。

 ……正直、初めて見る。

 金貨の100倍の値打ちがあると言われるミスリル貨幣だった。



「うーん、パール伯爵って何者なの?」


「我が魔王アトラス様に立てつく、バンパイアロードです!」


「!?」


「バンパイアロードですと!?」


 お茶を運んできたスコットさんも驚く。

 無理もない、バンパイアロードとは、沢山の吸血鬼たちを束ねる最上級位クラスの魔族だったのだ。

 人間界の感覚では、半ば伝説に近い存在だ。



「……いや、そんな強い相手は厳しいかな?」


「いやいや、貴公ベルンシュタイン伯爵も、近接戦ではもはや魔族でも随一との噂にございますぞ!」


 やたらと褒めてはくれるが、エドワードは鉄仮面の兜をかぶったままなので、表情は見えない。



「悪いけど、仲間を危険に晒したくない……、また今度で……」


「それは困りますな!」


 急にエドワードの声が低くなる。

 そして、黒騎士は小さな水晶玉を取り出した。



「これをご覧ください!」


「!?」


 小さな水晶玉を覗き込むと、中にはマリーとジークルーンがいた。

 魔法でこの水晶に閉じ込められているのだ。


 ……くそっ、謀られた!



「貴様! 何がしたい?」


 こちらも声が低くならざるを得ない。


「コリオの町の戦いでは、こちらがお世話になり申した! 是非今回は、我らにお味方願いたい!」

「宿敵パール伯爵を討ち取って頂けたら、必ずこのお二人は無事にお返しいたす!」


 ……ああ、コリオの町の奪還は、結果的に、この黒騎士に迷惑をかけたのだろう。

 この黒騎士を今ここで倒したとしても、マリーやジークルーンが無事に帰って来る保証はなかった。



「やむをえぬ! その依頼を受けてやる! しかし、約束を違えたら、貴様を八つ裂きにするぞ!」


「ご協力感謝いたしまする!」


 黒騎士は、床に跪いて謝意を表してくる。


 きっとこいつは約束を違えないだろう。

 この鎧の中身は魔族だろうが、信用に値する風格と、誇り高い雰囲気があった。


 ……まぁ、人質をとられたのだ。

 やるしかあるまい。

 例え相手が、伝説の魔王であろうともな。




☆★☆★☆


「バルガス、ルカニ。留守を頼む!」


「「はっ! ご武運を!」」



――クゥン


「……ドラゴよ、そう心配するな! 必ずマリーを助けてやる!」


 ドラゴは今回、初めてその背中に私を乗せてくれるらしい。

 マリーの鞍を外し、巨人の姿でも使える丈夫な鞍に交換する。


 マリーが作ってくれた、襤褸のつなぎのマントを羽織り、喋る盾を背中に担ぐ。

 いつもの愛用のかばんには、スコットさんを詰め込んだ。



「ぽここ~!」


 ポココが飛び乗って来る。

 いつものメンバーに少し足りないのが寂しい。


 ……が、行くしかあるまい。



「はいやぁ!」


 ドラゴに走れと合図する。

 と共に、ドラゴが今まで見たことのない速度で駆ける。


 巨人の体だったので、如何に龍族のドラゴが激しく疾駆しようとも大丈夫だった。

 ドラゴは私を乗せ、山も川も森も、まるで平坦な草原を駆け抜けるように走った。


 ……その甲斐もあり、僅か3日で国境を越え、さらに2日でパール伯爵が住む山の麓までくることが出来たのだった。


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