コリオの町はパウルス王国軍に奪回された。
しかし、コリオの町の住人で、ズン王国軍に降伏していたものは、全て奴隷として売られることとなった。
……邪教に寝返った罰として。
多くの人たちが檻に入れられ、馬にひかれていく景色を眺める。
「可哀そうポコね」
「……ああ」
家族の安全の為にやむを得ず、敵側の支配に委ねたものも多数いたであろうが、夫婦や親子の見境なく分けられ、王都の奴隷市場へと送られることとなっていた。
この境遇はこの世界では度々ある案件であり、家族を取り返すためには、高いお金を払って家族を買い戻す必要があった。
よって、そのお金のあてがなく、傭兵や冒険者に身を落とす者は多く生まれた。
魔王の子孫が治めるズン王国とはいえ、その民の7割は人間族である。
宗旨や民族が違う相手との戦争は、ここまで人間同士を残酷にさせるのだという見本だった。
……多分、マリーもこうした事情による奴隷だったのかもしれなかった。
☆★☆★☆
私はパウルス王国軍の戦勝会に呼ばれていた。
床には豪華な赤い絨毯が敷かれ、美しい衣装を着飾った貴族たちが多数参加していた。
「ガウ殿とやら、今回の戦功第一誠にお見事!」
「はっ!」
パウルス王国軍南方総司令官であるハドソン公爵に褒められる。
「……で、ガウ殿はどこの騎士団の所属ですかな?」
「いえ、一介の傭兵でございます。身分は流民です」
正直に答えると、急にハドソン公爵の顔が曇る。
「貴様! 流民の分際で、よくもこのような席に顔を出せたな! 褒美の金はくれてやるから、早く失せろ! 全く……、汚らわしい」
「はっ!」
急に怒鳴られ、退場する羽目になる。
「流民だと? 道理で臭いと思ったわ!」
「あんなのと同席するなんて、信じられませんわ!」
列席する貴族の御婦人方からも、罵声を浴びた。
……まぁ、人間の正体とは、結局こんなもんだよな。
嗚呼、この世に生まれる前から知ってるさ。
会場を出たところで、ザームエル男爵に呼び止められる。
「……いやはや、申し訳ない」
「いえ、お気遣いなく、みんなの元へと早く戻れますからね」
しょんぼりする男爵に別れを告げ、別室で待つマリーたちの元へと急いだ。
マリーやジークルーンは奴隷階級なので、そもそも表向いて、貴族と話すこともご法度だったのだ。
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久々に、懐かしい領都の宿屋の一階で、晩御飯を食べる。
報奨金が出たので、羊肉のローストを頼んだ。
バターで焼かれたそれは、香草と貴重品の胡椒がたっぷりかかっていた。
「美味しいポコ!」
「毎日食べたいね」
「毎日食べたら、流石にお金が無くなっちゃうけどね!」
赤い果実酒を片手に、羊肉を切り分け、香ばしく焼かれた大麦パンにのせて頬張った。
「……てかさ、なんで領都を守っていた敵将は南方へ戻っていたのかな?」
不思議に思っていたことを、酔っぱらっているスコットさんに聞いた。
敵将がいたら、あんなに上手に奇襲できたかどうか、分からなかったのだ。
「それはですね、ズン王国って一種の連合国家なんですよ。魔王自体も一人だけじゃないんです」
「きっと内輪もめでもあったんじゃないですかね?」
スコットさんの言うには、太祖の魔王ズン以外は、同時期に魔王が沢山いるのが普通らしい。
それにもまして、多民族国家であることで、いつも政情不安が絶えないとのことだった。
……まぁ、そんなことも話しつつ、美味しいご飯を食べたあと、久々にゆっくりとふかふかのベッドで眠ったのであった。
☆★☆★☆
――古城への帰り道。
――グルルル。
ドラゴの背中が凄いことになっている。
マリーとジークルーンが凄い量のお宝を載せているのだ。
流石の龍族のドラゴもヒィヒィ言っている。
小川近くで休息時に、水を飲む量が半端ない。
「……ねぇ、これ、ドラゴがかわいそうじゃない?」
「え? じゃあガウが代わりに運ぶ?」
ニコニコ顔のマリーとジークルーン。
……え?
やっぱり、そうなるわけ?
すまぬドラゴよ……。
私は心の中で手を合わせた。
☆★☆★☆
「よいしょっと」
古城に帰り、ドラゴから荷物を降ろす。
「凄い量ですな!」
「大漁ポコ~♪」
今回はお留守番だったオーク族の戦士長であるバルガスが驚く。
魔法のスクロールの中にしまった物もあるので、分量は見た目以上に莫大だった。
領主さまの屋敷から手にしたものは、黄金で出来た燭台や、宝石が嵌め込まれた宝剣。
絵画から香木でできた彫像、銀細工の食器などもあり、如何に庶民が苦しい生活をおくっていようとも、貴族階級には全く関係ないようだった。
「いいなぁ」
「羨ましいですね」
膨大な戦利品に、バルガスやルカニが羨ましそうだ。
こういう良い時があるから、危険があっても傭兵や冒険者への希望者は後を絶たない。
……まぁ、たまにしかいいときは無いんだろうけども。
「……でも、ワシらの分はほとんどないんだけどね」
「ですねぇ」
スコットさんが寂しそうに私に呟く。
何故なら、殆どの戦利品が、マリーとジークルーンのものだったのだ。