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第42話……報酬財貨万歳!

 コリオの町はパウルス王国軍に奪回された。


 しかし、コリオの町の住人で、ズン王国軍に降伏していたものは、全て奴隷として売られることとなった。

 ……邪教に寝返った罰として。


 多くの人たちが檻に入れられ、馬にひかれていく景色を眺める。



「可哀そうポコね」


「……ああ」


 家族の安全の為にやむを得ず、敵側の支配に委ねたものも多数いたであろうが、夫婦や親子の見境なく分けられ、王都の奴隷市場へと送られることとなっていた。


 この境遇はこの世界では度々ある案件であり、家族を取り返すためには、高いお金を払って家族を買い戻す必要があった。

 よって、そのお金のあてがなく、傭兵や冒険者に身を落とす者は多く生まれた。


 魔王の子孫が治めるズン王国とはいえ、その民の7割は人間族である。

 宗旨や民族が違う相手との戦争は、ここまで人間同士を残酷にさせるのだという見本だった。


 ……多分、マリーもこうした事情による奴隷だったのかもしれなかった。




☆★☆★☆


 私はパウルス王国軍の戦勝会に呼ばれていた。

 床には豪華な赤い絨毯が敷かれ、美しい衣装を着飾った貴族たちが多数参加していた。



「ガウ殿とやら、今回の戦功第一誠にお見事!」


「はっ!」


 パウルス王国軍南方総司令官であるハドソン公爵に褒められる。



「……で、ガウ殿はどこの騎士団の所属ですかな?」


「いえ、一介の傭兵でございます。身分は流民です」


 正直に答えると、急にハドソン公爵の顔が曇る。



「貴様! 流民の分際で、よくもこのような席に顔を出せたな! 褒美の金はくれてやるから、早く失せろ! 全く……、汚らわしい」


「はっ!」


 急に怒鳴られ、退場する羽目になる。



「流民だと? 道理で臭いと思ったわ!」


「あんなのと同席するなんて、信じられませんわ!」


 列席する貴族の御婦人方からも、罵声を浴びた。



 ……まぁ、人間の正体とは、結局こんなもんだよな。

 嗚呼、この世に生まれる前から知ってるさ。


 会場を出たところで、ザームエル男爵に呼び止められる。



「……いやはや、申し訳ない」


「いえ、お気遣いなく、みんなの元へと早く戻れますからね」


 しょんぼりする男爵に別れを告げ、別室で待つマリーたちの元へと急いだ。

 マリーやジークルーンは奴隷階級なので、そもそも表向いて、貴族と話すこともご法度だったのだ。




☆★☆★☆


 久々に、懐かしい領都の宿屋の一階で、晩御飯を食べる。

 報奨金が出たので、羊肉のローストを頼んだ。


 バターで焼かれたそれは、香草と貴重品の胡椒がたっぷりかかっていた。



「美味しいポコ!」


「毎日食べたいね」


「毎日食べたら、流石にお金が無くなっちゃうけどね!」


 赤い果実酒を片手に、羊肉を切り分け、香ばしく焼かれた大麦パンにのせて頬張った。



「……てかさ、なんで領都を守っていた敵将は南方へ戻っていたのかな?」


 不思議に思っていたことを、酔っぱらっているスコットさんに聞いた。

 敵将がいたら、あんなに上手に奇襲できたかどうか、分からなかったのだ。



「それはですね、ズン王国って一種の連合国家なんですよ。魔王自体も一人だけじゃないんです」

「きっと内輪もめでもあったんじゃないですかね?」


 スコットさんの言うには、太祖の魔王ズン以外は、同時期に魔王が沢山いるのが普通らしい。

 それにもまして、多民族国家であることで、いつも政情不安が絶えないとのことだった。


 ……まぁ、そんなことも話しつつ、美味しいご飯を食べたあと、久々にゆっくりとふかふかのベッドで眠ったのであった。




☆★☆★☆


――古城への帰り道。


――グルルル。


 ドラゴの背中が凄いことになっている。

 マリーとジークルーンが凄い量のお宝を載せているのだ。


 流石の龍族のドラゴもヒィヒィ言っている。

 小川近くで休息時に、水を飲む量が半端ない。



「……ねぇ、これ、ドラゴがかわいそうじゃない?」


「え? じゃあガウが代わりに運ぶ?」


 ニコニコ顔のマリーとジークルーン。


 ……え?

 やっぱり、そうなるわけ?


 すまぬドラゴよ……。

 私は心の中で手を合わせた。




☆★☆★☆


「よいしょっと」


 古城に帰り、ドラゴから荷物を降ろす。



「凄い量ですな!」


「大漁ポコ~♪」


 今回はお留守番だったオーク族の戦士長であるバルガスが驚く。

 魔法のスクロールの中にしまった物もあるので、分量は見た目以上に莫大だった。


 領主さまの屋敷から手にしたものは、黄金で出来た燭台や、宝石が嵌め込まれた宝剣。

 絵画から香木でできた彫像、銀細工の食器などもあり、如何に庶民が苦しい生活をおくっていようとも、貴族階級には全く関係ないようだった。



「いいなぁ」


「羨ましいですね」


 膨大な戦利品に、バルガスやルカニが羨ましそうだ。

 こういう良い時があるから、危険があっても傭兵や冒険者への希望者は後を絶たない。

 ……まぁ、たまにしかいいときは無いんだろうけども。



「……でも、ワシらの分はほとんどないんだけどね」


「ですねぇ」


 スコットさんが寂しそうに私に呟く。

 何故なら、殆どの戦利品が、マリーとジークルーンのものだったのだ。

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