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第41話……コリオの町を奪還せよ! ~三つの頭~

 地下通路をすすむ私たち一向。


 地下通路は石造りで作られてはいるが、地下ということから、天井から水がしみだしており、足元には水たまりも目立つ。


 松明を掲げて先頭を進むのは、ドワーフ族のジークルーン。

 ドワーフは洞窟にも多く住む種族なので、地下通路はうってつけだった。



「ガウ隊長、何か来ますぞ!?」


「!?」


 ジークルーンの言葉に、皆、身を構える。

 前方から現れたのは、甲殻が1mもあろうかという蟹の化け物だった。


 ……が、


「ぬん!」


――ガシッ。


 ジークルーンの戦斧によって、蟹の甲羅は無残に砕け散った。

 ちなみにジークルーンは、ドワーフ族でも力が比較的強い方らしい。


 その後、蟹の化け物に2回遭うが、全てジークルーンの戦斧のさびとなる。



「あんまり強い魔物が出ないね?」


「そうポコね」


 不満そうなマリーとポココ。

 魔物からでる魔石の価値は、一般的に敵の強さに比例していたのだ。


 しかし、そもそも、ここは人間が作った地下通路。

 強力な魔物や化け物ばかり出られても困る。


 又、新しい魔王が率いた軍勢といっても、その兵隊が全て魔族という訳でもないらしい。



「……あら、行きどまりね」


 錆びれた金属製の格子戸が、我々の行く手を遮る。

 特に躊躇もなく、ジークルーンが戦斧で格子戸を叩き壊す。


 ……中へ入ると、



――ガルルルル


 通路の奥から、猛獣のような低い鳴き声が響く。

 よく見ると、立派な雄ライオンといった大きさだろうか。



「……あ、頭が3つもあるポコ?」


「!?」

「みんな! さがって!」


 ……三つの頭のある魔物。

 それは地獄の番犬の通り名で有名な、強力な魔物ケルベロスだった。


 ジークルーンが私の後ろに下がると同時に、ケルベロスはその三つの頭からそれぞれ、劫火を吐き掛けてくる。



「主殿! 熱いですじゃ!」


「我慢だ、我慢!」


 喋る盾であるデルモンドで、燃え盛る炎を防ぐ。



「呪われし英霊たちよ、その怨恨と漆黒の念力をもってして、我が障壁となり給え! マジック・シールド!」


 後ろに控えるスコットさんが、防御用の闇魔法を唱えてくれたため、若干に炎の勢いは削がれる。



――ガッ


 大きな魔獣に、たまに飛び掛かられては、剣で追い払う。

 避けでもしたら、後方にいるマリーやポココでは、ひとたまりもなかったのだ。



――ガルルルゥゥ


 飛び掛かってくるのを盾で防ぎ、剣で追い払っていると、マリーの魔法の詠唱がようやっと終わる。



「凍てつく氷の女王よ、その神々しい息遣い、我らの敵に浴びせ給え! ストーム・ブリザード!」


 広大な長さの地下通路の床一面に、無数の魔法陣が現れる。

 そしてすぐさま、一寸先も見えないほどの猛吹雪になった。



「さ……、寒いポコ!!」


 スコットさんの防御魔法のお陰で、寒いだけで済んでいたが、そもそもこんな狭いところで使う魔法だったのだろうか。


 氷の嵐が収まると、目の前のケルベロスは氷漬けになっていた。



「この、クソ犬がぁ!」


 ジークルーンさんの戦斧によって、凍ったケルベロスは粉々に砕かれた。




☆★☆★☆


――その後。


 我々は、さらに地下通路を前進する。

 蟹の化け物などは現れたが、ケルベロスのような大物は出てこなかった。


 地下通路が終わりの様で、向こう側から篝火であろう灯が漏れて見える。

 この町には将軍格は留守と聞いていたが、きっと留守番はいるだろう。


 地下通路の出口も、小さな納屋だった。

 ジークルーンが静かに外への扉を開ける。


 目の前に見えたのは、酒盛りをしている人影が三つだった。



「危ない!」


 そうスコットさんが叫ぶのと同時に、私は三体の首を剣で跳ね飛ばしていた。


 彼等はレッサーデーモンだった。

 実は、私も本でしか見たことがない。


 彼等は下級とは言え、正真正銘の悪魔。

 並の冒険者なら、終生会うことは無いほどの危険な魔物だったのだ。


 不意を打てたから良かったものの、正面から戦えば、きっと強大な魔法に苦しめられたに違いない。



「ガウ、後ろ!」


 今度は、主人を倒されて怒り猛る、4m級の小型のドラゴンが3体。

 今の我々では、さほど怖い相手でもないが。


 ……しかし今回、敵地のど真ん中ということもあって、仲間を呼ばれる前に、早く倒さなければならなかった。



「ジークルーン! マリーたちを頼む!」


「OK! 任された!」


 私は素早く一体目に飛び掛かり、首を跳ね飛ばす。

 二体目が尻尾を叩きつけてくるが、盾で滑らすように防ぐ。


 すかさず体勢を崩した二体目の胴に剣を突き立てた後に、ジークルーンと対していた三体目の首を、背後から跳ね飛ばした。



「……はぁはぁ、流石に一度にドラゴン三体はきついな」


 落ち着いて自分の体を見ると、体中がドラゴンの血飛沫に覆われ、目の前には大きな魔石が3つ転がっていた。



「ガウ、ナイスよ!」


「ナイスぽこ!」


 マリーとポココに褒められた後、辺りを見回すと、どうやらここは領主さまの屋敷の中庭の様だった。



「作戦開始ね!」


「ご褒美ターイム!」


 早速、マリーとジークルーンは御屋敷の中へと入っていく。


 私は領都の外で待つザームエル男爵の為に、スコットさんと炎の魔法で信号弾を上げた。



「早く味方が来るといいですな!」


「そうだねぇ」


 今しがた通ってきた通路から、ザームエル男爵率いる騎士たちが、間もなく突入してくる手はずとなっていた。

 それまで、私たちは通路の出入り口を守る必要があったのだ。



「旦那様、丁度ドラゴンの死骸がありますな! あれを試しますか?」


「いいねぇ!」


 スコットさんと私は、ドラゴンの骨から【ドラゴントゥース・ウオーリアー】という強力な骸骨剣士を召喚。


 そして、味方がやって来るまでの間。

 彼らの力も借りて、地下通路の出入り口を敵から守ったのだった。




 ――数時間後。


 ザームエル男爵率いるパウルス王国軍は、地下通路を用いた内部よりの奇襲攻撃に成功。

 外からの攻撃も併せ、コリオの町は明け方までには奪還されたのだった。


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