地下通路をすすむ私たち一向。
地下通路は石造りで作られてはいるが、地下ということから、天井から水がしみだしており、足元には水たまりも目立つ。
松明を掲げて先頭を進むのは、ドワーフ族のジークルーン。
ドワーフは洞窟にも多く住む種族なので、地下通路はうってつけだった。
「ガウ隊長、何か来ますぞ!?」
「!?」
ジークルーンの言葉に、皆、身を構える。
前方から現れたのは、甲殻が1mもあろうかという蟹の化け物だった。
……が、
「ぬん!」
――ガシッ。
ジークルーンの戦斧によって、蟹の甲羅は無残に砕け散った。
ちなみにジークルーンは、ドワーフ族でも力が比較的強い方らしい。
その後、蟹の化け物に2回遭うが、全てジークルーンの戦斧のさびとなる。
「あんまり強い魔物が出ないね?」
「そうポコね」
不満そうなマリーとポココ。
魔物からでる魔石の価値は、一般的に敵の強さに比例していたのだ。
しかし、そもそも、ここは人間が作った地下通路。
強力な魔物や化け物ばかり出られても困る。
又、新しい魔王が率いた軍勢といっても、その兵隊が全て魔族という訳でもないらしい。
「……あら、行きどまりね」
錆びれた金属製の格子戸が、我々の行く手を遮る。
特に躊躇もなく、ジークルーンが戦斧で格子戸を叩き壊す。
……中へ入ると、
――ガルルルル
通路の奥から、猛獣のような低い鳴き声が響く。
よく見ると、立派な雄ライオンといった大きさだろうか。
「……あ、頭が3つもあるポコ?」
「!?」
「みんな! さがって!」
……三つの頭のある魔物。
それは地獄の番犬の通り名で有名な、強力な魔物ケルベロスだった。
ジークルーンが私の後ろに下がると同時に、ケルベロスはその三つの頭からそれぞれ、劫火を吐き掛けてくる。
「主殿! 熱いですじゃ!」
「我慢だ、我慢!」
喋る盾であるデルモンドで、燃え盛る炎を防ぐ。
「呪われし英霊たちよ、その怨恨と漆黒の念力をもってして、我が障壁となり給え! マジック・シールド!」
後ろに控えるスコットさんが、防御用の闇魔法を唱えてくれたため、若干に炎の勢いは削がれる。
――ガッ
大きな魔獣に、たまに飛び掛かられては、剣で追い払う。
避けでもしたら、後方にいるマリーやポココでは、ひとたまりもなかったのだ。
――ガルルルゥゥ
飛び掛かってくるのを盾で防ぎ、剣で追い払っていると、マリーの魔法の詠唱がようやっと終わる。
「凍てつく氷の女王よ、その神々しい息遣い、我らの敵に浴びせ給え! ストーム・ブリザード!」
広大な長さの地下通路の床一面に、無数の魔法陣が現れる。
そしてすぐさま、一寸先も見えないほどの猛吹雪になった。
「さ……、寒いポコ!!」
スコットさんの防御魔法のお陰で、寒いだけで済んでいたが、そもそもこんな狭いところで使う魔法だったのだろうか。
氷の嵐が収まると、目の前のケルベロスは氷漬けになっていた。
「この、クソ犬がぁ!」
ジークルーンさんの戦斧によって、凍ったケルベロスは粉々に砕かれた。
☆★☆★☆
――その後。
我々は、さらに地下通路を前進する。
蟹の化け物などは現れたが、ケルベロスのような大物は出てこなかった。
地下通路が終わりの様で、向こう側から篝火であろう灯が漏れて見える。
この町には将軍格は留守と聞いていたが、きっと留守番はいるだろう。
地下通路の出口も、小さな納屋だった。
ジークルーンが静かに外への扉を開ける。
目の前に見えたのは、酒盛りをしている人影が三つだった。
「危ない!」
そうスコットさんが叫ぶのと同時に、私は三体の首を剣で跳ね飛ばしていた。
彼等はレッサーデーモンだった。
実は、私も本でしか見たことがない。
彼等は下級とは言え、正真正銘の悪魔。
並の冒険者なら、終生会うことは無いほどの危険な魔物だったのだ。
不意を打てたから良かったものの、正面から戦えば、きっと強大な魔法に苦しめられたに違いない。
「ガウ、後ろ!」
今度は、主人を倒されて怒り猛る、4m級の小型のドラゴンが3体。
今の我々では、さほど怖い相手でもないが。
……しかし今回、敵地のど真ん中ということもあって、仲間を呼ばれる前に、早く倒さなければならなかった。
「ジークルーン! マリーたちを頼む!」
「OK! 任された!」
私は素早く一体目に飛び掛かり、首を跳ね飛ばす。
二体目が尻尾を叩きつけてくるが、盾で滑らすように防ぐ。
すかさず体勢を崩した二体目の胴に剣を突き立てた後に、ジークルーンと対していた三体目の首を、背後から跳ね飛ばした。
「……はぁはぁ、流石に一度にドラゴン三体はきついな」
落ち着いて自分の体を見ると、体中がドラゴンの血飛沫に覆われ、目の前には大きな魔石が3つ転がっていた。
「ガウ、ナイスよ!」
「ナイスぽこ!」
マリーとポココに褒められた後、辺りを見回すと、どうやらここは領主さまの屋敷の中庭の様だった。
「作戦開始ね!」
「ご褒美ターイム!」
早速、マリーとジークルーンは御屋敷の中へと入っていく。
私は領都の外で待つザームエル男爵の為に、スコットさんと炎の魔法で信号弾を上げた。
「早く味方が来るといいですな!」
「そうだねぇ」
今しがた通ってきた通路から、ザームエル男爵率いる騎士たちが、間もなく突入してくる手はずとなっていた。
それまで、私たちは通路の出入り口を守る必要があったのだ。
「旦那様、丁度ドラゴンの死骸がありますな! あれを試しますか?」
「いいねぇ!」
スコットさんと私は、ドラゴンの骨から【ドラゴントゥース・ウオーリアー】という強力な骸骨剣士を召喚。
そして、味方がやって来るまでの間。
彼らの力も借りて、地下通路の出入り口を敵から守ったのだった。
――数時間後。
ザームエル男爵率いるパウルス王国軍は、地下通路を用いた内部よりの奇襲攻撃に成功。
外からの攻撃も併せ、コリオの町は明け方までには奪還されたのだった。