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第40話……領都に備わる地下通路を確保せよ!

グルルルル……。


 出発に際し、私は馬とドラゴを用意する。

 ドラゴは馬より頑強で、荷物運びにとても適していた。



「旦那様、お気をつけて!」


「ああ、いってくる」


 古城の留守番を、今回もバルガスとルカニに任せる。

 今回のパーティーの編成は、私とマリー、ポココにスコットさん、さらにジークルーンの5名だった。


 ちなみに今回の任務にあわせ、私は新しいマントを羽織っている。

 古代魔法が掛かった端切れを、マリーがなれない針仕事で繋ぎ合わせてくれた逸品である。


 でも、見た目はボロボロなんだけどね……。

 大きく朱塗りでベルンシュタイン家の紋章も入っていた。



「出発!」


 我々はまずは領都を目指した。




☆★☆★☆


「ガウ、領都が変じゃない?」


「隊長、私も変だと思います……」


 領都近くまでたどり着くと、我々は見慣れた景色に違和感を覚えた。



「どれどれ?」


 遠眼鏡で領都の城壁を見る。


 ……げ!?

 城門に掲げられていたのは、ズン王国軍のものだったのだ。


 その後、仕方なく周囲を警戒しつつ探索していると、茂みの中にパウルス王国軍の陣地を発見する。

 入り口を守る衛兵に、ジークルーンが割符を見せると、中へ通してくれた。



「君がライアン傭兵団の人かね?」


「はい、ガウと申します」


 人化の術を施した私の様相は、前世で言えば高校生くらい。

 多分中身の巨人が、未だ成長の途中だったのだ。


 ……そのため、軽んじられることも多い。が、



「よく来てくれた! 味方は一人でも欲しいんだ!」


 この陣地の司令官であるザムエール男爵は、快活で人の良さそうな中年の小男だった。

 ジークルーンの説明にも、うんうんと素直にうなずいてくれる。


 我々傭兵に対して、こういう丁寧な対応ができる貴族様は少なかったのだ。



「だいたい事情は分かったよ。しかしね、任務は変更してもらう!」


「え!?」


 マリーが気色ばむ。


「ここに来るまでに気づいただろうが、コリオの町が既にズン王国軍によって占領されたんだ。これを放置することは出来ない」


 コリオの町とは、領都のことだ。

 ザムエール男爵によると、ラムザの素性より、領都の奪回が優先事項らしい。



「しかしながら、報酬は用意できない……」


「「え!?」」


 これにはマリーのみならず、ジークルーンもビックリする。


 傭兵は王などの主君に忠義だてをしているわけではない。

 その労働の対価は、常に金貨や銀貨だったのだ。



「いやいや、我々が払えないだけであって、コリオの領主のお屋敷にはお宝がたくさんあるだろう? ……まあ、そういうことだ」


 つまり、領都の領主さまのお屋敷の宝を、勝手に獲っていいという話らしい。

 しかし、領主さまのお屋敷は、今は敵の手にあるのだが……。



「……で、我々に何をしろと?」


「実はだね、コリオの町には秘密の地下通路があってだね……」


 話を聞くにどうやら、領都には領主さまが外に逃げるための秘密の地下通路があるらしい。

 今回、それを逆手に使われて、領都は陥落したらしいのだが。



「……君たちには是非とも、この通路を確保して欲しい。確保でき次第、我々の部隊が突入する!」


 ちなみに、領都はそこそこ大きな町であり、立派な城壁を備えていた。

 普通に攻めては被害も甚大。

 再奪取作戦には秘密通路の確保が焦点だった。



「幸い、敵の将らしきものは、飛竜に乗って南方へ飛び去ったとの目撃情報がある。今だけがチャンスなんだ!」


 ザムエール男爵に熱をもって力説される。

 しかたなく、私はマリーの方をちらっとみる。



「領都のお宝は全て我々が貰ってもいいと?」


「パウルスの貴族に二言はない!」


 ここに条件成立。

 マリーとザムエール男爵は固い握手を交わした。




☆★☆★☆


 パウルス王国軍の幕舎で一泊したあと、翌日の夜半に領都に再び近づく。



「この辺なんですがね?」


 ジークルーンは男爵に貰った地図に、用心深くランタンを近づけていた。

 地図に従い捜索を続けると、城壁の外に怪しい納屋を見つける。



「隊長、ゴブリンが6匹いますね」


「……ああ、見張りかな?」


 納屋の周りには、松明を掲げたゴブリン達がいた。

 多分見張りだろう。

 逆を言えば、この納屋が秘密の地下通路の入り口である可能性を示唆していた。




「……甘く沈み込む吐息、彼らを深き眠りに誘い給え! ラウンド・スリープ!」


 距離をとって、マリーが睡眠の魔法をゴブリン達に掛ける。

 すると、次々にゴブリン達が崩れ落ち、眠りこけていった。



――ザシュ。


 その後、素早くジークルーンがゴブリン達を短剣で止めを刺していく。


 周囲を確認し、用心深く納屋の扉を開けると、そこにあったのは石造りの地下通路だった。

 しかも、幅も高さも4mもある立派なものだ。



「……しかし、なんでこんなに大きい通路なんだろう?」


 私が疑問をもらすと、



「馬に乗ったまま通れる道なんじゃないですかね?」


 カバンの中から這い出てきたスコットさんが答えた。



「皆のもの! 準備はいいか!?」


「!?」


 誰の声かとビックリしたら、盾のデルモンドだった。



「こらこら、私がこのパーティーのリーダーよ!」


 マリーに盾がプンプンと怒られる。

 ……盾は二秒で降伏し、我々は気をとりなおして、地下通路に入っていった。

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