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第39話……捕縛命令 ~前門の虎、後門の狼!?~

――約1800年前。


 シャルンホルスト大盆地は、一人の魔族の王によって統べられていた。

 その名は魔王ズン。

 その魔王ズンの統治する時代の世界は、人間は常に魔族に怯えるという過酷な環境だった。


 そんな時、超常の域の魔法を操る人間が現れる。

 その名はパウルス。

 彼は絶大な力をもってして、人間たちのリーダーとなり、魔王ズン率いる魔族に戦いを挑んだ。


 ズン率いる魔族と、パウルス率いる人間たちの戦いは、長年において激烈を極め、空が鳴き大地が裂けるが如くであったと言われる。

 双方の被害は凄惨を極め、どちら側ということもなく、矛を収めることになる。


 この二派の巨大勢力は何時という訳でもなく、シャルンホルスト大盆地を南北に分け、北を人間が治めるパウルスの土地、南を魔王が治めるズンの土地として定めた。


 その後、千年以上の時が経ち、パウルス王家とズン王家という形となって現在に至ると言われている。

 お互いを邪教徒と罵りながら……。


 ……が、長い時を経た代替わりの為、超常の力は極めて薄くなり、又、魔王の力もほぼなくなっていった。

 最近になっては、二つの王家の当主と言えども、名前だけのただの凡人となっていたのだ。




「ガウ、そろそろご飯よ!」


「ご飯ポコ~!」


「は~い」


 私はスコットさんから借りた本を置き、夕飯の為、一階に降りることにした。

 ……今日のご飯は何だろうね。


 その時の私にとって、その本の内容はまさしく他人事だった。




☆★☆★☆


――王都パウルス。

 王家の名を冠する城郭都市であり、パウルス王国の首都でもある。

 堅固な城門の内側には、放射線状に商業地が拡がっていた。



「ガウ隊長、お元気そうでなによりです!」


「ジークルーンも怪我が治ったみたいだね!」


「お陰様で……」


 王都の一角、とある宿屋の一階でジークルーンと落ち合う。

 今の傭兵団のアジトはここの近くにあった。



「ところで、ライアン団長にお会いになりますか?」


「いや、いいよ。団長もお忙しいだろうからね……」


 ……正直、嘘を言った。


 先日の救出劇で、私が巨人だというのがバレたことが、未だに怖いのだ。

 マーズ村の苦い記憶がよぎる。



「じゃあ、早速任務の説明に入りますね!」


「ああ、頼むよ」


 宿屋の主人が運んでくれた果実酒を飲みながら、ジークルーンの話に聞き入った。



「……え? マッシュ要塞は落ちちゃったの?」


「ええ、陥落いたしました」


 人里離れた古城の開発に勤しんでいた為、私は世情に疎くなっていた。


 アトラスという魔王が、ズン王朝を乗っ取り、その勢いのままパウルス王領にまで攻め入ってきているのだそうだ。

 しかも、パウルス王国の形勢は悪いらしく、南東部の穀倉地帯の内、4割をも既に失陥したらしい。


 ……正直、私はどっちが勝ってもいい。

 私はこの世界では人間ではないし、どのみち人間が好きじゃない。

 逆に言えば魔物の中の方が生きやすいかもしれなかったのだ。



「……で、ですね、魔王アトラスの快進撃の裏側には、ある魔将の存在が噂されているんです」

「しかも、投石器やバリスタなどの攻城兵器に通じた人物らしいのです」


 人間の最大の武器こそ、城壁などの建造物であり、文明であり道具でもある。

 ましてや、城壁を壊す兵器に通じる魔族など、人間の天敵といっても過言では無かった。



「……で、その危険人物の存在を確認するのが、今回の傭兵団としての仕事です」


「えー、出来れば出会いたくないのに……」


 ジークルーン相手に駄々をこねる、酔った私。

 傍目から見たら、きっと情けない姿だろう。



「しかも……」


「え? まだ何かあるの?」


「……できれば、生きたまま捕縛して来い、だそうです」


「やり手のま……、魔将を捕縛??」


「……はい」


 失笑するしかない。

 せっかくのお酒が醒める。


 どうも、王都の偉い貴族様からの依頼らしい。

 ものは試しって感じなのだろうか?

 まぁ傭兵の命なんて、貴族様からすれば、鴻毛の如しということだ。


 ちなみに、生きて捕まえてきた場合の報酬は、金貨6000枚だそうだが、できるわけがない。

 それが無理なら、魔将を視認したあとに、魔法の羊皮紙にその姿を念写できた場合の成功報酬が金貨1000枚だそうだ。


 金貨1000枚は前世の世界で言えば、ざっと一億円といったところだった。

 やばいお仕事なだけはある。



「……で、今回の随行員が、わたくしとなっております……」


 ……え?

 わたくし?

 そんな言葉遣いじゃなかったよね……。


 ジークルーンも王都が長いらしく、都会のドワーフとなっていたのだ。

 言葉遣いが変わっているのが新鮮で、なんだか微笑ましかった。




☆★☆★☆


――翌日。


「はいよぉ!」


 私とジークルーンは、訓練された軍馬に鞭うって、古城目指して駆けた。

 王都からは訓練された馬で急いでも、辺境にある古城までは6日はかかる距離だったのだ。



「ただいま!」


「お帰り!」

「あ、ジークルーンお久しぶり、元気してた?」


「元気だったポコ?」


「ええ、お陰様で!」


 マリーもポココも上機嫌だ。

 ……但し、任務を聞くまでの間だけだったが。




「……ガウ、やっぱり金貨6000枚よ! 気合よ!」


「頑張るポコ!」


 ……え?

 それって、魔将を生きて捕縛した場合のお値段なんですけど……。


 しかし、マリーの眼は本気だった。


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