警戒しながらも、森を駆けまわること、丸二日。
私はもうすこしで、森から出ようとしていた。
……が、森の外で気配がする。
敵だろうか?
「旦那様、あれは味方の気配ですぞ!」
「え!?」
スコットさんに言われ、森を出ると、そこにいたのはバルガスが率いるオーク族の一隊だった。
「おお、旦那様! ご無事ですか?」
「こっちのことは良い、マリーたちは無事か?」
「はい、それはもちろんです!」
どうやら、マリーたちが先に古城に逃げ帰り、バルガス達を呼んできてくれたらしかった。
「マリー様は古城にてご無事です!」
「わかった! 出迎えありがとう!」
「はっ!」
バルガスが用意してくれた軍馬に乗り、私は無事古城に引き返すことが出来たのだった。
☆★☆★☆
古城で傷の手当を一通りすると、すぐさまケンタウロスの集落めがけて出発する。
「皆のもの! 反撃だ!」
「「「おお!」」」
今度はバルガスを含むオーク族の戦士50名に、ルカニ率いる武装したゴブリン族の戦士250名を連れて行く。
相手に数がいるなら、こっちも数で対抗する予定だったのだ。
「先頭は松明掲げろ!」
「駆け足!」
部隊が部隊なので、人目を避け、夜間に脇道を行軍する。
人里や集落の近くは極力避け、回り道をしながら進んだ。
夜間強行軍開始二日目には、ケンタウロスの集落の手前まで来た。
まだ夜明けには時間があり、フクロウの鳴き声があたりに響く。
☆★☆★☆
「火矢を撃ちかけよ!」
バルガスの指示の下、オーク族の戦士たちが自慢の強弓を引き絞る。
放たれた火矢は、ケンタウロスの集落の幕舎に次々と刺さる。
「突撃!」
更には、松明を掲げたゴブリン族の戦士が、鉄製の剣と盾を手にしてケンタウロスの集落に突撃した。
「敵襲! 敵襲!」
――ガンガンガン!
ケンタウロスの集落全体に、警戒用の鳴り物が響く。
火災の喧騒を知ったケンタウロスの戦士たちは、バルガス達のいる方向へと急いだ。
「旦那様! 予想通りですぞ!」
「よし、作戦通り、傭兵団のメンバーを探せ!」
「はっ!」
バルガス達とは反対方向の茂みから、我々傭兵団救出部隊が忍び込む。
ここに彼らが囚われている確証は無かったが、他に当ても無かったのだ。
暗闇でも真昼のように見えるスコットさんを先頭に、集落中を探し回る。
「いらっしゃいましたぞ! こっちです!」
スコットさんが先導した先には、木製の檻があり、確かにジークルーンの姿があった。
「あ、小隊長!」
「……しっ! 静かに!」
こちらに気づいたジークルーンを、マリーが制する。
他にも、傷ついたライアン団長や、疲れ果てた団員たちの姿があった。
「下がって、今壊します!」
――ドカッ!
用意してきた斧で、木製の檻を次々に壊す。
「こっちです、急いで!」
マリーとポココは、明かりの魔法を使いながら、傭兵団が逃げるのを先導する。
バルガス達正面部隊が、時間を稼いでくれる間に、できるだけ遠くに逃げる必要があったのだ。
「旦那様、私も逃げたいんですが……」
「お前はだめじゃろう?」
スコットさんが、しゃべる盾であるデルモンドに嗜められる。
……なんだか、死霊と盾の奇妙な会話だった。
――ドン
照明弾のようにファイアーボールの魔法を、私は空高くに打ち上げる。
作戦成功の合図であった。
……が、それを見たであろう、ひと際大きい高さ8mもありそうなケンタウロスが近づいてくる。
「貴様が敵将か!?」
「……いかにも!」
盾であるデルモンドが答えた……。
「我こそはこの集落の族長、アルデバラン! いざ尋常に勝負!」
――ブォォォ!
いきなりデルモンドが口から炎を噴くも、ケンタウロスの族長に素早く回避される。
「魔界の英雄たちよ、我が召喚に応えたまえ!」
駆けつけてきた通常サイズののケンタウロスの前には、スコットさんが召喚した骸骨剣士が立ちふさがる。
「食らえ!」
族長ケンタウロスが、こちらを目掛けて大きな剣を叩きつけてくる。
――ガキッ
盾で受け止めると、デルモンドが可哀そうなので、こちらも剣で受けとめる。
デカい分だけ、相手の斬撃は重たかった。
……くそっ、手が痺れる。
さらに、二度三度と斬撃を受けながら、後ずさりする。
「ふはは、小童サイクロプスよ! 逃げるだけでは勝てんぞ!」
「……まだまだ!」
デルモンドが、『まだまだ』と言い放つ。
「喧しい盾共々死ね!」
さらにこちらに重たい斬撃を与えようと、族長ケンタウロスが大きく足を踏み出した瞬間。
その足元には、魔法のスクロールがおかれていた。
「今だ! 出でよ、地獄の刃歯!」
予めスクロールがおかれた地面に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
そこから巨大な漆黒の蛇頭が現れ、ケンタウロスの足に食いついた。
「迷わず地獄に還るがいい!」
私は足が止まった族長ケンタウロスの首を、愛剣をもって一撃で跳ね飛ばす。
「ア……アルデバラン様が!?」
それを見ていた普通のケンタウロス達が、一斉に動揺する。
少数魔族の部族にとっては、族長の力こそが全てだったのだ。
「まだ戦うか!? か弱きものよ!」
たちどころに、尊大な態度で吹っ掛けるスコットさん。
「出でよ、地獄の番兵たちよ! スケルトンウォーリアー!」
……さらに隙を見て、私が複数の骸骨剣士たちを召喚。
「おとなしく武器を捨てなさい! さもなくば、魔法で丸焼きにするわよ!」
さらに、戦場に戻ってきたマリーの姿に、ついにはケンタウロス達は武器を捨て、降伏の意思を示したのだった。