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第32話……フレッシュゴーレムと邪教徒扱い

「地獄の業火よ! 堅牢なる壁となり、塔を育み城と成れ! ファイアウォ―ル!」


 周囲に撒いたスクロールから一斉に炎の柱が上がる。

 それを順次繋げて、炎の防壁とした。



――グルォォォオオオ!


 炎の壁を前にして、フレッシュゴーレムは、腹の底に響くような、気味の悪い低い声を発する。

 しかし、此方に近づく気配がない。



「出でよ、紅蓮の炎! ファイアボール!」


 マリーやスコットさんが生み出す魔法でできた炎の塊が、フレッシュゴーレムを次々に襲う。

 腐った肉が焼け、熱で表皮が弾ける。


 ……が、こちらへ反撃する気配はない。



「旦那様、奴は目が見えてないのでは?」


「全然近づいてこないポコ」


 ただただ、焼かれるだけのフレッシュゴーレム。

 高度な魔法で作られた巨体の為、焼き尽くすことは出来ないが、かといって、こちらが負ける要素は見当たらなかった。



 ……しかし、


「怪しい儀式を行う邪教徒め! 武器を捨て、おとなしく降伏せよ!」


「え!?」


 後ろから突如、武装した神官たちがなだれ込んでくる。


 ――ビシッ

 神官が放つ矢が、私の左腕に二本刺さる。



「もたらされた情報の通りだ、怪しい魔法使いと、巨人どもを射殺してしまえ!」


「……いや、待ってくれ!」


「うるさい邪教徒どもめ! 死ね!」


 弁明しようとするも、聞き入れてくれる気配がない。

 ひょっとして、私達がこの巨大なフレッシュゴーレムを召喚したように見えているのだろうか?



「マリー様、旦那様! これはおかしゅうございますぞ!」

「我々は誰かに嵌められたのでは?」


「……え?」


 ……嵌められたかは分からないが、確かに骸骨剣士に死霊が仲間では、神官たちに異教徒ではないと信じてもらうのも難しそうだった。



「よし! みんな、逃げるよ!」


「はい!」


「神速を紡ぐ風の聖霊よ、我々を過去の地へ連れ戻し給え!」


 瞬間移動を施した、魔法羊皮紙のスクロールを発動。

 我々はその場から瞬時に消え去った。


 ……その後、巨大なフレッシュゴーレムがどうなったかが、気になりはしたが。




☆★☆★☆


「……ふう、助かった!」


 スクロールに記憶させていたマーズ村近くの森の木陰に、我々は揃って瞬間移動していた。



「グルゥゥゥ」


 ドラゴが瞬間移動の魔法酔いした以外に、損害はなさそうだった。

 ……しかし皆、モンスターの返り血や汗などで、真っ黒に汚れていた。



「なんだか、疲れたポコ!」


「本当よ、なんだか腹立たしいわ!」


 大魔法使いのマリー様と使い魔のポココ様は、大変にご立腹の模様だ。

 確かに、要人救出の任務は失敗だ。

 成功報酬である金貨500枚が水の泡である。

 費用だけが掛かってしまった形となった。


 ……手柄はきっと、あの武装した神官たちのものになるだろう。



「いやいやマリー様、すべての任務に成功するのは不可能ですぞ! たまにはこういうこともあるでしょう!」


「うるさいわね、この死霊モドキ!」


「そうだ、そうだ、うるさい死霊ポコ!」



 ……なんだか、スコットさんが悪者扱い。

 しかし、悪いが見殺しにさせてもらう、うん。



「……だ、旦那様! 助けてくださいよ!」


「……」


 不機嫌なマリーとポココに詰められるスコットさん。

 君子危うきに近寄らず。

 私は聞こえないふりをして、今晩寝るためのテントを立てる作業をしていた。


 ……その晩、皆で仲良く干し肉を食べ、明日の為に早く休んだのだった。




☆★☆★☆


「領都についたポコ!」


「……全く、くたびれ損よ!」


 領都に戻った我々。

 大魔法使いマリー様の機嫌は未だ悪い。



「傭兵団のアジトに報告してくるから、みんな宿屋に戻っていて!」


「はーい!」

「早く帰って来るポコよ!」


 皆と別れ、領都の外れにある傭兵団のアジトに向かう。


 そして、アジトの近くの路地まで来たところ。

 カバンの中のスコットさんが呟く。



「旦那様、何か妙な気配ですぞ!」


「……ああ、それは私も感じた」


 密かに小声で透視の魔法を唱えると、領都の兵士たちによって、アジトが占領されている情景が映った。

 ……これは不味い展開だぞ。



「これは我々も、早くここを離れた方が良いですな!」


「……そうだね、急いでマリーたちの所に戻ろう!」


 すぐに踵を返し、マリーたちが待つ宿に急いで戻る。

 裏手に繋いでいたドラゴの手綱も引く。



「マリー! すぐに古城へ向かうよ、急いで!」


「ええー!」

「宿屋のご飯が食べたかったポコ!」


 ぶうぶういう二人を、嫌々連れ出す。

 そして、古城に向かう途中に事情を話した。



「ええ? みんないなかったの?」


「……うん、アジトは領都の兵隊たちに占拠されていたよ」


 傭兵団自体がアウトローな存在で、領都の支配層に歓迎されていなかった可能性は高い。

 メンバーには前科者も多かったので、きっと何か、もめごとでもあったのだろう。




「誰だ!」


 新しく作った古城の集落外周の門で、門番のオークに呼び止められる。



「大魔法使いのマリー様よ!」

「ぽこ~!」


「……え? マリー様で?」


 我々は任務先の洞窟から直帰で、ドラゴンの返り血やらなんやらでボロボロになっていたのだ。

 バルガスの部下に、誰だか怪しまれたらしかった。


 ……まぁ、そんな笑い話もあったが、とりあえず我々は、安全なところまで帰ることに成功したのだった。


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