――ズオォォォオ!
灼熱のブレスを受け止める盾の表面が、熱でジンワリ赤く光る。
盾を持っている手も熱い。
「我が姿、その強固な影の中に隠したまえ! シャドウ・シェル!」
マリーの魔法により、ポココとマリーは私の影の中へ逃げ込む。
これで防御一辺倒の体勢から脱出できた。
「でやぁ!」
私は隙を見て、盾を投げ捨てると、ドラゴンへ向かって飛び掛かり、その首に剣を突き刺す。
――ガキッ
しかし、鱗が硬く、歯が十分には通らない。
「出でよ! 我が地獄の勇者たち!」
ドラゴンが私の方へ注意を引いている間に、スコットさんが地中より骸骨剣士を4体召喚した。
――ズオォォォオ!
すぐさまドラゴンが、スコットさんの方向へ向き直り、灼熱のブレスで骸骨剣士を焼き払う。
「ああ……、ジムにパールが……」
……てか、スコットさん。
骸骨剣士に名前つけていたのか。
「炎の精霊サラマンダーよ、我が剣にその力授け給え! エンチャント・フレイムウェポン!」
スコットさんの骸骨剣士がやられている間に、私は攻撃力強化に成功。
愛剣に炎の魔法を付与した。
「でやぁ!」
二度目に飛び掛かり、一度目の亀裂めがけて、剣を突き立てる。
手ごたえがある。
……すぐさま、二度、三度と全力で斬りかかった。
――ギャォオオ!
10mほどある中型のドラゴンは、各所から鮮血を迸らせ、自らの炎に焼かれながら断末魔の咆哮を轟かせた。
「これで、旦那様もドラゴンスレイヤーですな!」
「……ええ? そうなるの?」
確かに、用意した大型の盾は熱でベコベコになっている。
この盾がなければ、相当にヤバかった相手だっただろう。
「あ~、大きな魔石GET!」
「大きいポコ!」
ドラゴンから出た魔石は、紫色の光を出す特大品だった。
魔石の他にも、焼け残った鱗や、牙などを袋に詰め込んだ。
「旦那様! こういう時の魔法羊皮紙ですぞ!」
「え?」
スコットさんが魔法羊皮紙を拡げ、魔法を詠唱する。
「この姿、その強固な影に隠し給え! シャドウ・シェル!」
詠唱すると、沢山の物品が、魔法の羊皮紙の中に吸い込まれた。
……どうやら、マリーが使う影の魔法の応用版の様だ。
「凄いね、スコットさん!」
「……ですがね、重さはそのままなんです」
たしかに、魔法羊皮紙を巻いたスクロールがズッシリと重い。
……でも、嵩張らないだけ大変にありがたかった。
荷物をいれた魔法のスクロールは、ドラゴの背中に括り付けて運ぶことにする。
我々はドラゴンの亡骸の後ろにあった通路を、さらに奥へと進むことにした。
☆★☆★☆
――その後。
同じようなドラゴンに二回遭遇。
魔法の羊皮紙も駆使しながら、討伐に成功し、さらに洞窟を奥地に進んだ。
「ここは大きな部屋ポコね!」
長い通路を突きあたった扉を、静かに慎重に開けると、そこは高さが30mもありそうな、立派な石造りの空間があった。
「……し、静かに! 旦那様、何か気配がしますぞ!」
スコットさんに言われて、警戒して前進していくと、目の間には大きな祭壇があり、複数の司祭のような人々がいた。
彼等は儀式に忙しい様で、こちらに気づいていないようだ。
……しかし、彼らが伯爵の令嬢を浚ったとみて、間違いはなさそうだ。
確証はないが、そんな気がした。
――ズッ!
「何奴!?」
弓矢で二人ほど倒した辺りで気づかれる。
こいつらも例の文字の描かれたフードを被っていた。
「そこの女、名を名乗れ!」
「!?」
松明をマリーに持ってもらっていたので、逆光の都合上、相手にはマリーだけしか見えていないようだった。
「古の業火よ! 今甦れ! ファイアウォール!」
「地獄の勇者ども、我が戦士として集え!」
スコットさんが、火炎魔法を詠唱する間に、私は骸骨剣士を8体召喚。
数的優位も作り出すべく奔走する。
「火炎魔法だけでなく、死霊召喚だと!? 貴様は何者だ!?」
……相手は焦っているようだ。
しかし、相変わらずマリーの方向しか見ていない。
「ふふふ……、私は大魔法使いマリー様よ!」
「ポ、ポコ!?」
こちらの優勢を確認するや否や、マリーが名乗りをあげてしまった。
……まぁ、名乗ったところで、デメリットも特にないが。
「伯爵様のご令嬢をおとなしく返しなさい! さもなくば我が下僕たちが貴方達を焼き尽くすわよ!」
……えっ、下僕!?
どうやら今回のマリー劇場は、私も下僕の設定らしい。
「大魔法使いマリーだと!? 我々の儀式を邪魔したからには生きては返さんぞ!」
「風の聖霊よ、我々を地上に返し給え! イクジット!」
……しかし、謎の司祭たちは、地上への瞬間移動魔法を唱え、どこかへ逃げ去ってしまう。
「……ふっふっふ、他愛もない!」
マリーが調子に乗っていると、謎の司祭たちが崇めていた石像が、突然に崩れ出す。
「……あれは何ポコ!?」
「き、気持ち悪い!」
崩れた石像の中から現れたのは、沢山の種類の魔物の死体で構成された、巨大なフレッシュゴーレムだった。
……で、デカい。
高さも25mはありそうな巨体だった。
「旦那様! き、気持ち悪い相手ですな!」
……まぁ、スコットさん自体、死霊なんだけどね。
かつ、こちらの前衛は骸骨剣士たちだ。
この場の人間はマリーしかいない。
……多分、傍目から見れば、悪役VS悪役の戦いだった。