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第28話……非道参謀ラムザ登場!

「おう、ラムザよ、此度の戦い其方に一任する。頼んだぞ!」


「ははーっ」


 マッシュ要塞攻略の総大将である領都の騎士団長様より、実質的な指揮を任されたのが、俺様ことラムザ様だ。

 俺様の出身は平民だが、塗炭の苦しみを搔い潜り、この度は参謀にまで出世していた。


 ……くっくっく、末は領主どころか大臣を目指してやるぞ。



「……でだな、ラムザよ。要塞攻略の暁には何が欲しい?」


「はっ! 絶世の美女を賜りたく!」


「おう、そうか、その願い叶えてやるぞ!」


 俺様は即座に褒美は美女を要求した。

 ……が、特に美女が欲しいわけではない。

 出世したいと正直に言えば、たちまち警戒されるからだ。


 この騎士団長様も、領主さまと同じく代々の世襲制。

 のほほんと奇麗な椅子に座っていられるのも、今の内だぜ……。




「ライアン入ります!」


「おう、よくぞ来られたライアン殿! 頼りにしておりますぞ!」


「ありがとう、ラムザ殿。名誉ある先陣は我々にお任せあれ!」


 ……俺様もよく言うぜ、誰が貴様を頼りにするかってんだ。

 俺様の出世レースの最大の敵は、この傭兵団長ことライアンだ。


 ちなみにこいつは、領主様の御落胤らしい。

 落ちぶれた連中をかき集めて、いまでは立派な傭兵団長様だ。


 ……しかし、こいつは王都の要人救護に向かうと思ったのだがな。

 ふふふ、なかなか罠には掛かってくれないもんだな。




☆★☆★☆


――二週間後。

 領主様から預かった軍勢は、無事マッシュ要塞の前面に到着。

 打ち合わせの通り、ガルダ山のワイバーンたちも加勢に来た。



「城に矢を射掛けよ!」


「重歩兵隊、進撃せよ!」


 適時、伝令に命令を伝える。

 俺様は昔、しがない伝令兵だったのだ。

 しかし、それはずいぶんと昔な気がする。



「敵、ジャイアント現れました!」


 早々に敵方の切り札である10m級のジャイアントのお出ましだった。



「どうしたものか? ラムザ!」


「騎士団長様、大丈夫にございます! このラムザにお任せあれ!」


 俺様はボンボンの騎士団長様を落ち着かせ、次の命令を出す。



「投石器とバリスタを出せ!」


「はっ!」


 巨大な石を投げつける投石器と、巨大な矢を発射するバリスタを前面に出すように伝える。

 この二つは俺様のとっておきだ。


 ワイバーンだけで勝ってしまったら、俺様の手柄が無くなっちゃうぜ。



 バリスタから発射された大きな矢が、ジャイアントの足に次々に刺さる。

 ジャイアントは蹲ったところを、こちらの重歩兵に取り囲まれた。



「おう、ラムザ! 流石だ!」


「もったいないお言葉!」


 ……騎士団長様は単純だな。

 というか前任の参謀はよっぽど無策だったと見える。

 お貴族様も少しは頭を使えってんだ……。



「ライアン傭兵団に、今から二時間以内に要塞前面の濠を埋めるように伝えよ!」


「はっ!」


 ……とりあえず、無茶な命令を出しておいた。

 ライアン君、せいぜい頑張ってくれたまえ。




――二時間後。


「要塞前面の濠が埋まったようですぞ!」


 ……まじか?

 敵の弓兵や魔術師は、一体何をしていたのだ。

 ライアン傭兵団は鬼神か?


 事情は分からないが、やつらは多大な犠牲を払いながらも、濠を埋めるのに成功したようだったのだ。



「いまだ! 全軍に総攻撃の命令を出せ! 騎士も突撃させよ!」


「はっ!」


 ここで、虎の子の騎士団を戦場に投入する。

 ボンボン出の騎士様ばかりだが、その装備は一流で貴重な打撃戦力なのだ。




「ガルダ山の飛竜が、敵の飛竜を追い払ったようですぞ!」


「おお! 素晴らしい!」


 騎士団長様はご機嫌だが、ガルダ山の取り込みには多大な費用が掛かっているのだ。

 それこそ全滅覚悟で頑張ってくれなきゃ、収支が合わねぇ……。



 マッシュ要塞は上空支援の飛竜も失い、貴重な陸上兵力であるジャイアントも喪失していた。

 ……が、立て籠もる城兵の抵抗は強く、なかなか城門を壊すには至らない。


 騎士団の連中は、一体何をやっているのだ?



 ……あ、というか、便利な奴らがいたじゃないか!



「ライアン傭兵団に伝えろ! 城門を直ちに破壊せよと!」


「はっ!」


 ……くくく、頑張れ頑張れ、消耗しろ。

 そして死んでしまえ。

 俺様にライバルなど不要だ。



 その後、陽が落ちても俺様は攻撃の手を緩めなかった。

 要塞を落とすまで、敵にも味方にも飯は食わさぬ。




☆★☆★☆


――夜空に星がはっきりと浮かぶ頃。



「城門が破壊されましたぞ!」


「おお!」


 総大将の騎士団長様は、感嘆の声を漏らす。

 きっと、領都のご領主様に素晴らしい報告が出来るからだろう。



「……で、門を破壊した戦功第一はどの部隊だ?」


「そ、それが、ライアン傭兵団の模様!」


 騎士団長様のみならず、本営にいた有力貴族様たちの顔色が曇る。

 まさか、名誉ある一番手柄が、忌み嫌うべき罪人崩れの傭兵団だったのだ。


 ……しかし、俺様。

 とっさに良いことを思いつく。



「騎士団長様! 実はライアン傭兵団には裏切りの兆しがございますぞ!」


「なんと? 誠か?」


 騎士団長様は驚いたが、周りの貴族様たちは、この策に気づいたようだった。

 ……戦功第一のライアン傭兵団に、皆の為に消えてもらうって寸法だ。



「参謀殿の仰る通りです! 早くしないと手遅れになりますぞ!」


「……うぬぬ、許さぬ! ライアン傭兵団を敵兵もろとも皆殺しにしてしまえ!」


「はっ!」


 一体誰が馬鹿なんだろうな?

 でも、ライアン以外誰も損しないぜ。


 こういう献策が出来る人間を名参謀っていうのさ……。




――その日のうちに、難攻不落のマッシュ要塞は陥落した。

 しかし同時に、一番頑張ったライアン傭兵団も壊滅してしまったのだった。


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