「おう、ラムザよ、此度の戦い其方に一任する。頼んだぞ!」
「ははーっ」
マッシュ要塞攻略の総大将である領都の騎士団長様より、実質的な指揮を任されたのが、俺様ことラムザ様だ。
俺様の出身は平民だが、塗炭の苦しみを搔い潜り、この度は参謀にまで出世していた。
……くっくっく、末は領主どころか大臣を目指してやるぞ。
「……でだな、ラムザよ。要塞攻略の暁には何が欲しい?」
「はっ! 絶世の美女を賜りたく!」
「おう、そうか、その願い叶えてやるぞ!」
俺様は即座に褒美は美女を要求した。
……が、特に美女が欲しいわけではない。
出世したいと正直に言えば、たちまち警戒されるからだ。
この騎士団長様も、領主さまと同じく代々の世襲制。
のほほんと奇麗な椅子に座っていられるのも、今の内だぜ……。
「ライアン入ります!」
「おう、よくぞ来られたライアン殿! 頼りにしておりますぞ!」
「ありがとう、ラムザ殿。名誉ある先陣は我々にお任せあれ!」
……俺様もよく言うぜ、誰が貴様を頼りにするかってんだ。
俺様の出世レースの最大の敵は、この傭兵団長ことライアンだ。
ちなみにこいつは、領主様の御落胤らしい。
落ちぶれた連中をかき集めて、いまでは立派な傭兵団長様だ。
……しかし、こいつは王都の要人救護に向かうと思ったのだがな。
ふふふ、なかなか罠には掛かってくれないもんだな。
☆★☆★☆
――二週間後。
領主様から預かった軍勢は、無事マッシュ要塞の前面に到着。
打ち合わせの通り、ガルダ山のワイバーンたちも加勢に来た。
「城に矢を射掛けよ!」
「重歩兵隊、進撃せよ!」
適時、伝令に命令を伝える。
俺様は昔、しがない伝令兵だったのだ。
しかし、それはずいぶんと昔な気がする。
「敵、ジャイアント現れました!」
早々に敵方の切り札である10m級のジャイアントのお出ましだった。
「どうしたものか? ラムザ!」
「騎士団長様、大丈夫にございます! このラムザにお任せあれ!」
俺様はボンボンの騎士団長様を落ち着かせ、次の命令を出す。
「投石器とバリスタを出せ!」
「はっ!」
巨大な石を投げつける投石器と、巨大な矢を発射するバリスタを前面に出すように伝える。
この二つは俺様のとっておきだ。
ワイバーンだけで勝ってしまったら、俺様の手柄が無くなっちゃうぜ。
バリスタから発射された大きな矢が、ジャイアントの足に次々に刺さる。
ジャイアントは蹲ったところを、こちらの重歩兵に取り囲まれた。
「おう、ラムザ! 流石だ!」
「もったいないお言葉!」
……騎士団長様は単純だな。
というか前任の参謀はよっぽど無策だったと見える。
お貴族様も少しは頭を使えってんだ……。
「ライアン傭兵団に、今から二時間以内に要塞前面の濠を埋めるように伝えよ!」
「はっ!」
……とりあえず、無茶な命令を出しておいた。
ライアン君、せいぜい頑張ってくれたまえ。
――二時間後。
「要塞前面の濠が埋まったようですぞ!」
……まじか?
敵の弓兵や魔術師は、一体何をしていたのだ。
ライアン傭兵団は鬼神か?
事情は分からないが、やつらは多大な犠牲を払いながらも、濠を埋めるのに成功したようだったのだ。
「いまだ! 全軍に総攻撃の命令を出せ! 騎士も突撃させよ!」
「はっ!」
ここで、虎の子の騎士団を戦場に投入する。
ボンボン出の騎士様ばかりだが、その装備は一流で貴重な打撃戦力なのだ。
「ガルダ山の飛竜が、敵の飛竜を追い払ったようですぞ!」
「おお! 素晴らしい!」
騎士団長様はご機嫌だが、ガルダ山の取り込みには多大な費用が掛かっているのだ。
それこそ全滅覚悟で頑張ってくれなきゃ、収支が合わねぇ……。
マッシュ要塞は上空支援の飛竜も失い、貴重な陸上兵力であるジャイアントも喪失していた。
……が、立て籠もる城兵の抵抗は強く、なかなか城門を壊すには至らない。
騎士団の連中は、一体何をやっているのだ?
……あ、というか、便利な奴らがいたじゃないか!
「ライアン傭兵団に伝えろ! 城門を直ちに破壊せよと!」
「はっ!」
……くくく、頑張れ頑張れ、消耗しろ。
そして死んでしまえ。
俺様にライバルなど不要だ。
その後、陽が落ちても俺様は攻撃の手を緩めなかった。
要塞を落とすまで、敵にも味方にも飯は食わさぬ。
☆★☆★☆
――夜空に星がはっきりと浮かぶ頃。
「城門が破壊されましたぞ!」
「おお!」
総大将の騎士団長様は、感嘆の声を漏らす。
きっと、領都のご領主様に素晴らしい報告が出来るからだろう。
「……で、門を破壊した戦功第一はどの部隊だ?」
「そ、それが、ライアン傭兵団の模様!」
騎士団長様のみならず、本営にいた有力貴族様たちの顔色が曇る。
まさか、名誉ある一番手柄が、忌み嫌うべき罪人崩れの傭兵団だったのだ。
……しかし、俺様。
とっさに良いことを思いつく。
「騎士団長様! 実はライアン傭兵団には裏切りの兆しがございますぞ!」
「なんと? 誠か?」
騎士団長様は驚いたが、周りの貴族様たちは、この策に気づいたようだった。
……戦功第一のライアン傭兵団に、皆の為に消えてもらうって寸法だ。
「参謀殿の仰る通りです! 早くしないと手遅れになりますぞ!」
「……うぬぬ、許さぬ! ライアン傭兵団を敵兵もろとも皆殺しにしてしまえ!」
「はっ!」
一体誰が馬鹿なんだろうな?
でも、ライアン以外誰も損しないぜ。
こういう献策が出来る人間を名参謀っていうのさ……。
――その日のうちに、難攻不落のマッシュ要塞は陥落した。
しかし同時に、一番頑張ったライアン傭兵団も壊滅してしまったのだった。