「この金貨、検査してもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
私とポココは領都で一番大きい両替商の大店を訪ねていた。
ちなみに、両替商とは現代で言えば銀行のような存在である。
ここへ何しに来ていたかと言うと、金貨を預けに来ているのだ。
しかも、まっかな偽物を……。
「えーっと、重さもOKっと!」
両替商の親父が、秤に金貨を載せている。
どうやら、重さはセーフの様だった。
「次に、成分はと……」
簡易な魔法器具で成分解析される。
ここで小心な私は、心臓が飛び出そうになる。
実は本物の金貨を調べ、それに似せて、沢山の混ぜ物をしていたのだ。
前世の記憶に拠れば、贋金とは品質が良くてもバレるのだ。
「……はい、確かに金貨100枚お預かりしますね。手数料で金貨2枚頂きます」
両替商から、羊皮紙に魔法細工をされた預かり証を受け取る。
前世の銀行は利子をくれるが、今の世界は預けると手数料をとられた。
……まぁ、これも偽造貨幣なんだけどね。
「そんなに心配しなくていいポコ」
両替商を出た後に、ポココに揶揄われる。
私がバレるのが怖くて、ビクビクしていたからだ。
……しかし、古城で作った金貨が通用したことは、大きな成果だった。
☆★☆★☆
――奴隷。
忌み嫌われる存在であり、この世界においてもあまり良い制度との認識はない。
……が、それも同じ神を信じている者たちの間だけだった。
パウルス王家は長年、南部にある異教徒であるズン王家と戦争している。
この戦争での捕虜が、奴隷とされたのだ。
異教徒であるなら、奴隷にすることに何の抵抗もない。
最近知ったことだが、マリーも以前、ズン王領の住民だったらしい。
主に戦争で捕虜になったものは、この前線に近いいつもの領都の奴隷市場で競りにかけられていた。
「次の出品はドワーフ、しかも宝飾細工の技術者だよ!」
「買った! 金貨50枚!」
これを私は待っていたのだ。
この世界でも、技術者の価値は高い。
……が、自領で産金できる私より、この価値が重要な者はいなかったのだ。
他にもこの日、数人のドワーフの各種技術者を雇用。
……後日、武具や馬具の生産が出来る様、古城の周りに工房も建てたのだった。
☆★☆★☆
「……でだな、遂に我々に汚名をそそぐ機会が来た!」
傭兵団のアジトで熱弁をふるうのは、傷が癒えたライアン団長。
ちなみに、副団長のアーデルハイトさんは、横の椅子ですやすやと居眠りをしている。
「我々は再び、マッシュ要塞を攻める日がついに来たのだ!」
「「「お~!」」」
ガルダ山のワイバーンを味方につけたのは、皆も知っている。
皆は今度こそ戦で手柄をたて、あこがれの騎士になる夢を叶える機会だったのだ。
「……でだな、ガウだけあとで団長室に来い!」
「は、はい」
マッシュ要塞攻略に盛り上がる傭兵団のアジトにおいて、私だけ団長の部屋によばれた。
私は一人、あとで団長室に入る。
「実は、お前の部隊だけは、別件を頼まれてもらう」
「えっ? それは困ります!」
「大丈夫だ、お前とマリー以外は要塞攻略戦に参加させる!」
「……あ、それなら大丈夫です」
ドワーフの女戦士であるジークルーンは、戦で手柄を立て、騎士になる夢があったのだ。
それを潰されるわけにはいかない。
しかし、そこの点だけは、考慮してもらえたようだった。
「……で、私にはなにを?」
「要人救出をやってもらう」
「え? マッシュ要塞に誰か捕まっているんです?」
「いやいや、全然別の場所だ。北にある王都からの依頼だ」
ライアン団長が言うには、北にあるパウルス王の住む王都で、やんごとない人がさらわれたようなのだ。
ざっくり言えば、その要人を救出して来いということだった。
「いやいや、王都には王都で騎士団とかいるんじゃないですか?」
王都には、この領都以上に精強な騎士団がいると聞いていた。
なんで、彼らがその任に当たらないというのだろう。
「……実はな、その王都の騎士団からの要請なんだ。何か事情があるのだろう。詳しくは向こうに行って聞いてみてくれ」
「はぁ、わかりました」
こうして、傭兵団の皆がマッシュ要塞攻略に燃える雰囲気の中。
私だけは、逆方向の方角の王都へと向かうことになった。
「ガウ様、王都でわらわへのお土産を、買ってきてくださいね!」
「ああ、何か良いものがあったら買ってくるね」
ジークルーンはニコニコ顔だ。
彼女は雅な王都より戦場の方が良いらしいのだが……。
「お買い物ポコ~♪」
「王都でのお買い物、楽しみだね」
マリーとポココは、王都に行くのが楽しみの様だ。
これはこれで、幸せな任務の方向性なのかもしれない。
☆★☆★☆
――三日後。
「出発!」
領都の騎士や正規兵に続き、ライアン傭兵団が進発する。
マッシュ要塞を目指す彼らは、街の人々に見送られ、華々しい出陣となった。
「私達もいきましょう!」
「ああ、そうだね」
ジークルーンを見送ったあと、私達も別方向である王都へ出発することになる。
いつものように、ドラゴの背中に水や食料を載せ、カバンの中にはスコットさんを詰め込んだ。
「王都に向けて、出発ポコ~♪」
勢いよく走るポココの背中を、マリーと一緒に追いかけたのだった。