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第27話……贋金と団長からの依頼

「この金貨、検査してもよろしいですか?」


「ええ、どうぞ」


 私とポココは領都で一番大きい両替商の大店を訪ねていた。

 ちなみに、両替商とは現代で言えば銀行のような存在である。


 ここへ何しに来ていたかと言うと、金貨を預けに来ているのだ。

 しかも、まっかな偽物を……。



「えーっと、重さもOKっと!」


 両替商の親父が、秤に金貨を載せている。

 どうやら、重さはセーフの様だった。



「次に、成分はと……」


 簡易な魔法器具で成分解析される。

 ここで小心な私は、心臓が飛び出そうになる。


 実は本物の金貨を調べ、それに似せて、沢山の混ぜ物をしていたのだ。

 前世の記憶に拠れば、贋金とは品質が良くてもバレるのだ。



「……はい、確かに金貨100枚お預かりしますね。手数料で金貨2枚頂きます」


 両替商から、羊皮紙に魔法細工をされた預かり証を受け取る。


 前世の銀行は利子をくれるが、今の世界は預けると手数料をとられた。

 ……まぁ、これも偽造貨幣なんだけどね。




「そんなに心配しなくていいポコ」


 両替商を出た後に、ポココに揶揄われる。

 私がバレるのが怖くて、ビクビクしていたからだ。


 ……しかし、古城で作った金貨が通用したことは、大きな成果だった。




☆★☆★☆


――奴隷。

 忌み嫌われる存在であり、この世界においてもあまり良い制度との認識はない。

 ……が、それも同じ神を信じている者たちの間だけだった。


 パウルス王家は長年、南部にある異教徒であるズン王家と戦争している。

 この戦争での捕虜が、奴隷とされたのだ。

 異教徒であるなら、奴隷にすることに何の抵抗もない。


 最近知ったことだが、マリーも以前、ズン王領の住民だったらしい。

 主に戦争で捕虜になったものは、この前線に近いいつもの領都の奴隷市場で競りにかけられていた。



「次の出品はドワーフ、しかも宝飾細工の技術者だよ!」


「買った! 金貨50枚!」


 これを私は待っていたのだ。

 この世界でも、技術者の価値は高い。

 ……が、自領で産金できる私より、この価値が重要な者はいなかったのだ。


 他にもこの日、数人のドワーフの各種技術者を雇用。


 ……後日、武具や馬具の生産が出来る様、古城の周りに工房も建てたのだった。




☆★☆★☆


「……でだな、遂に我々に汚名をそそぐ機会が来た!」


 傭兵団のアジトで熱弁をふるうのは、傷が癒えたライアン団長。

 ちなみに、副団長のアーデルハイトさんは、横の椅子ですやすやと居眠りをしている。



「我々は再び、マッシュ要塞を攻める日がついに来たのだ!」


「「「お~!」」」


 ガルダ山のワイバーンを味方につけたのは、皆も知っている。

 皆は今度こそ戦で手柄をたて、あこがれの騎士になる夢を叶える機会だったのだ。



「……でだな、ガウだけあとで団長室に来い!」


「は、はい」


 マッシュ要塞攻略に盛り上がる傭兵団のアジトにおいて、私だけ団長の部屋によばれた。

 私は一人、あとで団長室に入る。



「実は、お前の部隊だけは、別件を頼まれてもらう」


「えっ? それは困ります!」


「大丈夫だ、お前とマリー以外は要塞攻略戦に参加させる!」


「……あ、それなら大丈夫です」


 ドワーフの女戦士であるジークルーンは、戦で手柄を立て、騎士になる夢があったのだ。

 それを潰されるわけにはいかない。

 しかし、そこの点だけは、考慮してもらえたようだった。



「……で、私にはなにを?」


「要人救出をやってもらう」


「え? マッシュ要塞に誰か捕まっているんです?」


「いやいや、全然別の場所だ。北にある王都からの依頼だ」


 ライアン団長が言うには、北にあるパウルス王の住む王都で、やんごとない人がさらわれたようなのだ。

 ざっくり言えば、その要人を救出して来いということだった。



「いやいや、王都には王都で騎士団とかいるんじゃないですか?」


 王都には、この領都以上に精強な騎士団がいると聞いていた。

 なんで、彼らがその任に当たらないというのだろう。



「……実はな、その王都の騎士団からの要請なんだ。何か事情があるのだろう。詳しくは向こうに行って聞いてみてくれ」


「はぁ、わかりました」


 こうして、傭兵団の皆がマッシュ要塞攻略に燃える雰囲気の中。

 私だけは、逆方向の方角の王都へと向かうことになった。



「ガウ様、王都でわらわへのお土産を、買ってきてくださいね!」


「ああ、何か良いものがあったら買ってくるね」


 ジークルーンはニコニコ顔だ。

 彼女は雅な王都より戦場の方が良いらしいのだが……。



「お買い物ポコ~♪」


「王都でのお買い物、楽しみだね」


 マリーとポココは、王都に行くのが楽しみの様だ。

 これはこれで、幸せな任務の方向性なのかもしれない。




☆★☆★☆


――三日後。



「出発!」


 領都の騎士や正規兵に続き、ライアン傭兵団が進発する。

 マッシュ要塞を目指す彼らは、街の人々に見送られ、華々しい出陣となった。



「私達もいきましょう!」


「ああ、そうだね」


 ジークルーンを見送ったあと、私達も別方向である王都へ出発することになる。


 いつものように、ドラゴの背中に水や食料を載せ、カバンの中にはスコットさんを詰め込んだ。



「王都に向けて、出発ポコ~♪」


 勢いよく走るポココの背中を、マリーと一緒に追いかけたのだった。

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