「エンチャント・ウェポン!」
死霊のスコットさんに習った【付与魔法】を使うと、自分の愛剣であるミスリル鋼製のロングソードに赤い炎がまとわりついた。
それはまるで、有名ロボットアニメのビームサーベルみたいだった。
「かっこいいポコ!」
「凄いわね、ガウ!」
マリーとポココにも見た目が好評だ。
試しにそこらの岩を切ってみると、カミソリで新聞紙を切るように、サックリと裂けた。
……これはなんだか、きもちいい。
「旦那様が魔石の代わりとなって、魔力を注入している形となりますので、残念ながら旦那様の魔力が切れたらただの剣に戻りますよ」
「あらら」
スコットさんに言われ、私は少し残念な気持ちになる。
これは有限な魔法剣といったものだったのだ。
「いやいや旦那様。巨人族で魔法が使えるものなど、ほとんどおりませぬぞ、有史以来数名と聞いております。旦那様は特別なおひとなのです。自信をお持ちになってください」
スコットさんにそう言われると、嬉しくなるのも人情だ。
「ガウ、凄いね!」
「すごいポコ! 選ばれた巨人ポコ!」
マリーとポココに褒められて照れる。
私は嬉しくなって、近くの森に出かけ、おもに狼型などの魔物を斬りまくった。
力の劣る人間の状態でも、スラスラ魔物を倒すことが出来たのだ。
自分がかなり強くなったと実感できる瞬間だった。
スコットさんが言うには、いままで火の精霊サラマンダーの力をまるまる一匹分手にした魔法使いはいないそうだ。
又、人間の魔法使いより遥かに強靭な体という媒体があるため、その力の限界は計り知れないということだった。
「……ふう」
少し戦闘を休んだ私に、嫌な前世の記憶がよみがえる。
……こんな力が前世の私にあれば。
きっと無念な死に方はしなかっただろう。
世界中で、今も力ない人たちが弑逆されていることを思えば、悲しくも感じた。
「よし、毎日修練だ!」
……もう二度と弱い自分に戻りたくない。
それは私なりの小さな決意だった。
さらに出来うることなら、他の存在も守れるような存在になりたかった。
あのTRPG用に買った、立派な戦士のフィギュアのように……。
☆★☆★☆
毎日、商人護衛などの傭兵の仕事をこなしながら、副業で行っている領地経営の仕事にも励んでいた。
……ある日、転機が訪れる。
マリーたちと晩御飯のイノシシ肉のシチューを食べようかとしているとき、マリーがあることに気づいた。
「ポココ、なんでおててがキラキラしているの?」
「ぽこ?」
マリーが昼間、山に遊びに行っているポココの手を見て言ったのだ。
私も慌ててポココの手を見る。
「うあ、これは砂金かもしれないぞ!」
「すごーい!」
マリーが目を【$マーク】にして喜ぶ。
翌日、オークの鍛冶師の方に鑑定してもらうと、やはり砂金だということだった。
古城から少し山の方へいった渓流に砂金があることが判ったのだ。
すぐさま、ポココに先導してもらって、砂金が摂れる場所に出向いた。
「わぁ、本当にキラキラしてる!」
マリーはご機嫌だ。
ついてきたオークの鍛冶師たちも興奮を隠せない。
……金はこの世界でも、非常に高価な貴金属だ。
パウルス王国の貨幣も金貨がほぼ最上位だった。
「金を見つけたは、いいのですがな……」
鉱山を任せているドワーフの爺さんが口を挟む。
「これがご領主さまにバレたらどうなりますかな?」
「!?」
……そうだった。
正直に報告すれば、王国の直轄地として取り上げられる可能性があるし、そこまでいかなくとも、領都のみんなが押し寄せてきたら、アッというまに砂金が無くなるのは明白だったのだ……。
「……でもさぁ、砂金が摂れるということは?」
「そうです、この辺りに有望な金鉱が存在するということです!」
ドワーフのじいさんはニッと笑った。
「これは、傭兵なんてしている場合じゃないぞ!」
ドワーフの女戦士ジークルーンにいたっては、金を掘る気満々だ。
……後日、金の話には緘口令を敷いた。
そして、関係者以外立ち入り禁止にした。
さらに、警備責任者兼採鉱責任者として、ジークルーンをあてがう。
……というか、彼女は自分で誇り高き戦士だとか言ってなかったっけ?
まぁいい、こういうところを任せるには戦闘力も必要だったのだ。
☆★☆★☆
金山の採掘用の人員は、いままで銅と鉄の鉱山で働いていたベテランゴブリンを投入。
老ドワーフさんが仕切る銅と鉄の鉱山には、新しいゴブリンの奴隷を雇った。
そのせいで、銅や鉄の鉱山の収益は一時的に下がる見通しだった。
……しかし、アッという間にまばゆいばかりの金が掘り出される。
一般的な金鉱石は精錬が必要だったが、掘り始めたばかりということで、まさに山吹色に輝く金そのものが採掘されたのだ。
「やったわ! 金よ!」
「ぴかぴかポコ~♪」
無邪気に喜ぶマリーとポココ。
私も思わず顔がほころんだ。
……しかし、難題がある。
これをどうやって権力者の眼をかいくぐって富と交換するかだ。
そのまま市場に流せば、バレるのは必然だったのだ。