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第25話……魔石と魔法の武器防具

――魔石。


 魔物のコアとなる物質。

 一定量の魔力を保有する物体である。

 古来より、これをコアとするものを魔物。しないものを動物と区別する。


 遥か昔に、この地を支配した大魔王によって生み出されたのが、魔石であり魔物であると伝承されていた。

 また、魔石は前世での電池と似た使われ方をする。

 魔法のランタンや、魔法の暖炉など。

 主に貴族階級が使う高級品だった。


 しかし、そこらの低級な魔物から出る魔石ではほとんど実用にならないのも実情だった。

 低級な魔石は実用にならないが、魔物討伐の動機付けとして、王国政府が推奨して買い取っていたのだった。



「ガウ! 魔石を買ってきたわよ!」

「マリーお使い、ありがとう!」


 廉価で出回る魔石の利用法。

 それは私が魔石を食べるということだった。


 精霊のサラマンダーを丸ごと吸収してからというものの、試しに魔石を食べてみたら美味しかった。

 更には、食べた分だけ、魔力が強くなるような実感があったのだ。


 ……もちろん、人間にできることではない。

 私だけの、魔力の強化法だった。



 領都の傭兵団のアジトでの定期例会の帰り、町の装飾品市場に行く。

 マリーは日ごろ貯めたお金を、この市場で使うのが好きだった。



「お嬢さん、この腕輪安くしときますよ!」


 上流層向けの宝飾品店の親父に声を掛けられる。

 いわゆるマリーはお得意様だったのだ。



「いくらですの?」


「オマケして、金貨10枚で如何でしょう?」


「いいわ、買ったわ!」


 いつもは渋いマリーだが、こと一部の宝飾に限っては違った。

 いわゆる上級な魔石が嵌め込まれた一級品だけが、彼女の目的だったのだ。

 これらは人気商品であり、次来た時には無くなっていることが多かった。


 上級の魔石が入った装飾品は、魔法を使う際に媒介となって魔法を強化したり、施術者の代わりに魔力を提供した。

 それは魔法使いにとっては装飾だけでなく、実用的なマジックアイテムだったのだ。



「ガウはなにか買わないの?」


「う~ん」


 私は生前、装飾品に興味は無かった。

 以前の服装といえば、いわゆる〇ニクロ装備だったのだ。



「召使いの方も、何かご希望はありますか?」


「ぇ!? 私のこと?」


 マリーとポココに笑われる。

 どっちかと言うと、私が主だと思うのだが……。


 確かに私は、マリーに比べて貧相なものを着ている。

 下っ端の傭兵並みの身だしなみだった。


 シンプルに皮鎧に剣を背負ったスタイルだ。



 ……この世界でも、見た目は重要なのかもしれない。

 しかし、ファッションなんてわからないしね。

 とりあえず、服装は将来の懸案事項だった。



「これは、失礼いたしました。剣がお好きでしたら、この通りを奥に行ったお店がお勧めですよ!」


 宝飾品店の主の勧めで、その店に向かう。



「……てか、高そうだな!」


「高そうぽこ~!」


 紹介された店は、見るからに高そうなお店だった。

 入口に警備の衛士までいるのだ。



「はいるのはタダよ!」


 そう豪語するマリーの後に続いて入店しようとすると、衛士に止められた。



「召使いの方は、店外でお待ちください!」


「……」

「ぽこ?」


 確かに身分は高貴ではない。

 しかし、件の装飾品店の店主に紹介された旨を伝えると、しぶしぶ中に入れてくれた。



「奇麗な剣ポコ~!」


「凄いわね!」


 店内のショーケースには、ミスリル鋼に大きな魔石をあしらった武具が展示されていた。

 その一つは非売品と書かれていたが、確かによく切れそうな剣だった。



「お客様、お目が高いですな!」


 店員が揉み手でマリーに近づいてくる。

 身なりの悪い私とポココは完全に無視の様だった。



「これは何故に、このようにたかいのですか?」


「……それはですね」


 店員がマリーに説明するには、そもそもが魔法金属であるミスリル鋼に、高品質な魔石を結合させると、より強力な魔法武具となるということだった。


 ……しかし、ただくっつければいいというものではないらしい。

 その構造を訊くと、



「当店の熟練工による最高の技術の賜物です! 部外秘でございます!」


 ……やはり秘密のようだった。

 私の背中にも、ミスリル鋼の剣があるが、魔石はあしらわれていない。


 よって、今以上の攻撃力を持つには、購入に踏み切るのも手だった。



「おいくらですの?」


「金貨でしたら、3000枚になります」


 ……げ、高い。

 高すぎる。

 前世での価値観で3億円と言ったところだった。



「あ、又来ますね!」


 身分不相応なので、マリーの手を引き、慌てて店を出た。



「ガウ、ケチケチしてたら強くなれないわよ!」


「そうポコ!」


「う~ん」


 確かに傭兵というからには、武器に最もお金をかけなくてはならないことは判るのだが、なんだか違う気がするのだった。




☆★☆★☆


「……そんなもの、買う必要がありますかな?」


 古城に帰って、皆で晩御飯を食べているときに、そう言ったのはスコットさんだった。



「え? どういうこと?」


「旦那様には必要ないと思うのですが?」


 ほぼほぼ実体のない死霊であるスコットさんは、霧のように空中を漂いながら力説する。



「それに似たような効果が出せればいいのですよね?」


「……で、できるだけ安くお願い!」


「お任せください!」


 ケチな私の要求に、幽体であるスコットさんは、ほぼ実在しない胸を、自慢げに叩いたのだった。

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