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第23話……赤い巨竜、ガルダ山の山頂

「おう、ガウ元気か?」


「はい、お陰様で」


 傭兵団のアジトで、団長代行のアーデルハイトさんに部屋に呼ばれる私。

 お茶を頂きながら用件を聞く。

 用件は驚愕の内容だった。



「え? あの恐ろしいワイバーンの巣へ行けと?」


「ああ、誰も行きたがらなくてな……」


 以前、ガルダ山へ攻撃の要請があった件。

 未だに解決していないようだった。

 ワイバーンが住むガルダ山を、領主さまの軍隊が遠巻きに包囲しているという状況らしい。



「……で、ガルダ山にのぼって何をしたらいいんです?」


「この手紙を渡して欲しい」


「はぁ、わかりました」


 気のない返事をする私。

 領主さまはワイバーンと交渉を持ちたいらしかった。

 全然やりたくない仕事だが、お世話になっているアーデルハイトさんの頼みで断れなかった。




☆★☆★☆


――翌日。

 古城に戻る。



「あんな危険なところに、お行きなさるので?」


 オークの戦士長であるバルガスが心配してくれる。

 マリーだけでなく、ルカニまでが心配な顔をしてくれた。



「危険ですが、警戒されるので、少数で行った方が良いでしょうな……」


 死霊のスコットさんの助言だ。

 確かに、大勢で行っても危険度は減らないような相手ではあった。


 結局、私は道案内にポココを選ぶ。

 そして、カバンの中に食料と、参謀役のスコットさんを詰め込んでいくことにした。



「ええ? 旦那様、私は行きたくないのですが……」


「一緒に行くポコ!」


 嫌がるスコットさんを、ポココが道中宥めていた。

 というか、私も行きたくないんだ。

 我慢してくれ……。




☆★☆★☆


 領都で借りたロバの背に揺られ、領主さまの陣地に出向く。

 高貴な方用と思われる幕舎に通されると、部下の方から書簡を渡された。



「ガウとやら、頼みましたぞ!」


「はい、最善をつくします!」


 恭しく一礼し、退室。

 一路ガルダ山へと向かう。

 途中に領主さまの軍の兵士たちが目に入るが、皆一様に疲れた様子だった。


 ……兵士たちも疲れたから、休戦交渉といったところだろうか?

 しかし、領主さまも、ただ負けて帰るわけにはいかないのだろうと思った。



「げ!?」


 ガルダ山の麓に着いてビックリする。

 山道くらいあると思ったのだが、完全なる崖だった。

 斜度60度くらいはあるだろうか。



「エンチャント・ストレングス!」


 人気が無いのを確認して、巨人の体になり、身体強化の魔法を掛けて崖をよじ登った。



「このまま、真っすぐポコ!」


 ポココが勇ましく鼻をクンクンさせて、ワイバーンの匂いを探る。



「旦那様、早く帰りましょうね……」


 翻って、死霊のスコットさんは逃げ腰だ。

 怯える死霊って一体何なのだろう。



――しばらく登ると、巨大な影が近づいてきた。

 崖を見張っていた飛竜だった。



「貴様何しに来た?」


 飛竜であるワイバーンが、空中をホバリングしながら問いかけて来る。

 私の肩に乗っているポココが怯えている。


 ……ただの登山と言い訳したいところだが、



「実は人間に用事を頼まれてきた。通行を許可して欲しい」


「……わかった」


 少しワイバーンは考えた様だったが、こちらも魔物ということで、登ることを許可してくれた。


 ……その後、巨人の体ということもあって、意外と早く2時間で頂上に着いた。


 崖を登りきると、そこには一面飛竜たちがわんさか居た。


 むき出しの岩肌に、ギャアギャアと飛竜の子供の喧しい声が耳を劈く。

 ここは飛竜たちの大集落だったのだ。



「……は、早く帰りましょう、旦那様!」


「わ、わかってるよ、私も早く帰りたいんだからね」


 ワイバーンを始めとした飛竜は、おもに肉食である。

 子供でも鋭い爪と、残忍なまでの牙を持ち合わせている。

 人間どころか、巨大な熊も平気で食い殺す連中だった。



「こ、怖いポコ」


 一歩間違えれば、私達は食い殺されかねない。

 怯える私達はびくびくしながら、飛竜たちの集落をそろそろと通り抜けた。


 集落の外れに、目指すべき大きな洞窟があった。

 多分、ココが飛竜たちの族長の住まいなのだろうと思い、中に入った。



「貴様何者だ!?」


 落雷かと思うような、低い声が洞窟内に響く。

 中には、ひと際大きいワイバーンがいて、私を睨んできた。

 翼を畳み、座った状態でも、高さ6mはありそうな赤い鱗を持つ巨竜だった。



「……あの、これをお届けに参りました」


 怯えながら、領主さまから預かった書簡を渡す。

 飛竜の族長であろうと思われる赤いワイバーンは、爪先で器用に受けとると、その場で開いて読み始めた。



「……あ、では、失礼します」


「まぁ、待て!」


 返事を受けとるのは仕事ではないので、逃げ帰ろうとしたら呼び止められた。


 ……嗚呼、帰りたい。

 なんだか、不良に絡まれて困る前世の記憶がよみがえる。



「……ふむぅ、お前はこの書簡の中身を知っているか?」


「ぜ、全然知りません」


 ポココが怖さで、隣でおしっこしてしまった。

 私も漏らしそうだ。



「返事を書いてやってもいい。但し、条件がある」


「え? 条件とは?」


 恐る恐る尋ねる。

 正直、返書などいらないのだが……。



「人間どもとの戦争が長引いていてな、子供たちの食べ物が少ないのだ!」

「……でだな、ワシらの好物は魚の干物なのだよ、わかるな?」


「魚の干物を持って来いと?」


「その通りだ! 出来るだけ沢山な!」


 話では人間との戦争で、しばらく食料採取がまともに行えてないとの事。

 書簡の中身は分からないが、とりあえず飛竜の好物を持ってこいとのことだった。



「わかりました、お伝えいたします」


「おう!」


 飛竜の族長の洞窟を逃げるように退出し、大急ぎでガルダ山を降りた。

 もうこんな命の縮むような仕事はこりごりだった。


 麓に戻ったところで人間の姿に戻り、領主さまの陣営に無事に報告する。

 結果として、結構な額の報奨金を貰えたのが、せめてもの救いだった。


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