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第22話……勢力拡大と闇の傭兵家業

「ゴブリンの女王ってどういうことですか? あなたはどう見てもハーフエルフじゃないですか?」


 私はルカニというハーフエルフの女性に、素直に疑問をぶつけてみる。



「ゴブリンの皆さんは、私の親でも子でもあるのだ。いわれなき差別はやめよ!」


「!?」


 確かにゴブリンの女王を誰がやろうと勝手だった。

 種族が違えば王になれないというのは、私の偏見かもしれなかったのだ。



「しかし、私の城に火を放ったのは、あなたの差し金ですか?」


「そうだ! 先にやらねば、そちらが先にやっていなかったとでもいうのか!?」


「……」


 この世界では、彼女が言うことにも理がある。

 個人的に考えると先制攻撃はいけないのだろうが、自分を信じる者たちの為に、どうするのが良いかはまた別の問題だった。



「とりあえず、御同行願いましょうか?」


「やむを得ぬ!」


 我々は勝気な女王様であるルカニを護送。

 古城の地下牢に軟禁した。


 ……とりあえず、彼女の世話はマリーに任せることにした。




☆★☆★☆


――数日後。


「怪しい奴を引っ立てました!」


「うん?」


 古城の執務室で、オークの族長たちと会議をしていたところに、報告が入った。



「連れて来て!」


「はっ!」


 オークの見張りに連行されてきたのは、件の集落のゴブリンだった。



「あのぉ……、我々の女王様をお返し願えませんでしょうか?」


「!?」


 意外なことに、ルカニという女性はゴブリン達に慕われていたのだった。

 こちらの集落への焼き討ちの補償などと引き換えに、女王を返して欲しいとのことだった。



「貴様! 図々しいことを言うな!」


「ひぃ」


 オークの戦士長であるバルガスは怒るが、終わらない交戦状態を維持するのは、こちらにとっても大きな負担となる要素だった。


 ……どうしたものか?


 とりあえず、ゴブリンはそのままで、地下牢のルカニに会うことにした。




☆★☆★☆


「……ということで、助命要請がきている。どうする?」


 私は牢に入り、ルカニに問う。



「先に条件をいっては、こちらが不利になるわ!」


「うっ!」


 ……これは、なかなかの交渉上手かもしれない。

 逆に言えば、話が通じる相手ということだった。



「……では、あなたは今日から、私の配下になるというのはどうだろうか?」


「ゴブリン共々か!?」


「もちろん!」


 それを聞いた彼女は少し俯く。

 思案しているようだった。



「いま訪ねてきている者と、相談させてほしい」


「わかった!」


 やってきたゴブリンを引き合わせ、二人きりで30分ほど相談させた。

 ……どういう返事が来るかと気をもんだのだが、



「そちらに納める租税と労役について話をしたい」


「わかった」


 つまるところ、こちら側に収める労働力や税次第では、傘下に入るということだった。

 よって、基本的に、控えめな負担を提示した。



――2時間の折衝の後。


「お館様に忠誠をお誓いいたします」


 その後、条件は折り合い、ルカニ率いるゴブリン達は私の傘下に入った。

 【お館様】というのは、魔族の貴族への敬称らしい。


 ……こうして、私は支配地域を広げることになった。




☆★☆★☆


――二週間後。


「これはイノシシの肉にございます! どうぞお納めください!」


「ありがとう、ご厚意痛み入る……」


 今日は低位龍族のリザードマンと会っていた。


 先日配下になったルカニが、この周辺の魔物たちの顔役だったらしいのだ。


 ゴブリンの部族長として、武力は小さかったが、それゆえ調停役としては重宝されていたようで……。

 そのルカニが私の勢力下にはいったことで、周囲の魔族たちがとりあえずは私に、ご機嫌伺いに来ているという構図だった。


 モノを貰うというのは気分が悪いことではないが、それだけ気を遣う相手が増えるということだった。

 前世でも友人知人が少なかった私が、このような外交案件が得意なわけは無かったのだが……。




☆★☆★☆


「次の任務は何だっけ?」


「次は、ルノー商会からの案件よ!」


 傭兵団の仕事は、忘れっぽい私の代わりに、マリーが管理してくれていた。

 ……まぁ実は、マリーも忘れっぽいのだが。


 古城の周りの開発案件は副業である。

 私の正規のお仕事は傭兵家業だったのだ。



「よし、その案件は、バルガスに任せよう!」


「お任せあれ!」


 オークの戦士であるバルガスに頼むと、彼は喜び勇んで出ていった。


 最近、私が受ける仕事は、いわゆる裏家業的なものだった。

 このルノー商会からの要請は、ライバル商会の商隊を襲ってくれとの案件だった。

 実はこのところ、ライアン傭兵団に来るこういう案件の多く引き受けている。


 何故かと言えば、人間が人間を襲えばややこしい話になるが、魔物が人間を襲うことは自然で、役人が出てくることがほぼなかったのだ。


 ……よって私は、オークやゴブリン達を使って、仕事をこなしていた。


 逆に、商隊護衛の任務は、魔物をつかえないので、私やマリーが直接出向くしかなかったので、配下の魔物を使える【襲撃】の方が、効率的に多くの利益を上げることが出来たのだ。


 ……まあしかし、やっていることは、盗賊である。


 人間が行うと、縛り首になるかもしれない案件だった。

 まぁ、今は人間ではないのだが……。



「お金がたくさんポコ~♪」


「金貨がたくさんだね~♪」


 闇の依頼を数こなし、累積の報酬金がかなり入る。

 なにはともあれ、マリーやポココはご機嫌だった。


 ……今の私には、それだけでよかったのだ。


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