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第20話……ガルダ山のワイバーン

「銅のインゴットを20本ですね?」


「はい、よろしくお願いします」


 パウルス王領で売りさばいて足が付くのを恐れた私は、ズン王領への行商人に金属製品の売却をお願いした。

 いつかは自分でも商隊を編成してみたいが、今は既存の行商人に任せた方が、効率がいいと判断している。

 彼等が戻ってきたときには、銅の代金も楽しみだが、ズン王領の珍しい品が持ち込まれることも楽しみだった。



「この出来上がりで如何でしょう?」


「いいね、この調子で作ってよ!」


「了解でさぁ!」


 現在オークの鍛冶師に頼んで作ってもらうのは鉄の盾。

 本当は剣も作ってみたいが、先ずはより簡単な盾の生産を開始していた。

 今は品質が安定しないけど、いつかはこれも商品にしたかったのだ。



 オーク族との共栄とは別に、本業の傭兵家業も忘れてはいない。

 明日は傭兵団のアジトでの定例集会の日だった。




☆★☆★☆


「……領主さまから依頼が入った。次の目標はガルダ山の攻略である!」


「!?」


 アジトでの傭兵団長代行の発言に、皆が若干ざわつく。

 ガルダ山とはワイバーンなどの危険な飛竜の巣窟だったのだ。



「なぜそのような危険なところを?」


 若い団員が額の汗をぬぐい質問する。

 みんなの共通の疑問だった。



「……それはだな」


 団長代行のアーデルハイトさんの説明はこうだった。


 ……パウルス王国は、ズン王国側のマッシュ要塞の攻略に手を焼いている。

 かの要塞が難攻不落な堅固造りなのも要因であるが、その要塞には有力な飛竜部隊が駐屯していたのだ。

 その飛竜部隊に対抗すべく、領主さまはガルダ山の飛竜たちを勢力下に置きたいとのことだった。



「……し、しかし、そのためには我々の被害も尋常ではすまないのでは?」


「そういうこともあり、今回活躍が目覚ましいものは、金品の褒賞だけでなく、騎士としてお取立て頂けるそうだ! 我と思わん者は是非参加して欲しい!」


「「「おお!」」」


 皆の眼が色めきだつ。

 この世界で騎士とは、皆のあこがれの職業だ。

 軍馬で颯爽と走る支配階級の勇姿を、夢見ぬものは少なかったのだ。



「俺がやるぞ!」

「俺も参加だ!」


「いやワシだ!」


 ……この仕事はその魅力的な報酬により争奪戦となった。

 私は特に騎士になりたいわけではないので、今回は見送ることにする。

 何も同僚の夢を邪魔する気は無かったのだ。



「小隊長! わらわは参加するぞ!」


「どうぞ、どうぞ! 頑張ってきてください!」


 ジークルーンは一時的に我が隊を抜けて参加するそうだ。

 彼女も騎士になりたいのかな?



「マリーはどうするの?」


「ガウがいかないなら参加しないかな?」

「ぽこ~」


 マリーとポココ、そしてスコットさんは不参加を決めた。

 あまりに参加者が多いと、分け前も減るのも理由だったのだ。



――その10日後。

 領主さまはガルダ山の飛竜たちに、降伏するよう勧告。

 飛竜の年長者は知恵もあり、人間の言葉を理解するものも多かったのだ。


 ……が、ガルダ山の飛竜たちは人間の風下に立つことを良しとせず、降伏を拒絶。

 これにより領主さまは出陣を決断。

 その前衛部隊はライアン傭兵団が務めることになった。




☆★☆★☆


――ガルダ山。

 領都から遥か南西に森林を抜けたところにある、切り立った山岳地である。

 その斜面は、もはや崖と表現するに等しい。

 そのため、今まで人間が近寄ることは無かった飛竜たちの楽園であった。



「弓を構え!」


 ガルダ山の麓まで来た領主さまの軍勢は、弓兵で警戒させながら切り立った崖を登る。

 その登る姿には、ライアン傭兵団の他にも、下馬した騎士たちも多数混じっていた。



「一番槍は戦功第一ぞ!」


「「「おう!」」」


 一番最初に敵と刃を交えたものには、その戦いでの最高の名誉とされた。

 よって騎士たちは、傭兵団に後れを取るわけにはいかなかったのだ。



「ガオォオオ!」


 下からの弓矢の支援が届かない山の中腹部に差し掛かったところで、突如ワイバーン数匹が現れる。

 さしもの騎士たちや傭兵たちも、崖を登っている最中に襲われてはひとたまりもなかった。

 攻撃隊の多くが滑落し、夥しい数の負傷兵を生んだ。



「第二陣用意!」


 翌日の攻撃は、投石器部隊や魔法使いなどによる遠距離攻撃を企図。

 しかし、案の定、山の上まで距離がありすぎて効果が無かった。



「……うぬぬ」


 攻撃の決め手を欠く領主さまの軍勢は、ガルダ山の近くに布陣。

 砦を築いて長期戦の様相を見せていた。




☆★☆★☆


 そんな話を行商人たちに聞きながら、私は古城の周りの整備に奔走していた。


 古城の近くを流れる小川に小さな橋を架け、水車小屋も建てた。

 オーク達と協力して、森の木を切り倒し、切り株を掘り起こして周囲を開拓した。


 ……木の伐採に精を出していると、



「旦那様! 近くにゴブリンの集落を見つけましたぞ!」


「え!?」


 スコットさんからの報告だった。

 人里から離れているので、人間たちとの縄張り争いの恐れは無かったが、魔族同士のいさかいが発生する可能性が浮上してきたのだ。



 ……困ったな。

 どうしようかな?


 新たな問題の対応に迫られていたのだった。


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