目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第19話……古城への引っ越しと溶鉱炉

「ソノ御旗ハ、魔界ノ貴公子ベルンシュタイン伯爵ノモノ!」

「皆ニ伝エナクテハ!」


 オーク達は口々にそう言う。


「!?」


 ……ベルンシュタイン伯爵って誰だ?

 うしろを見るとスコットさんがクスクス笑っている。

 くそう、奴は知っていたな……。


 しかし、私はなんとか伯爵じゃない。

 バレたらどうするんだろう?


 オークの斥候達は集落に戻って、族長を連れてきた。

 族長も服従の姿勢である。



「……伯爵様、是非我々ニ、オ導キヲ!」


 ……困ったな。

 もう、どうにでもなれだ。



「ああ、降伏を受け入れるぞ!」


「有難キ幸セ!」


 こうして、戦うことなく100匹を超えるオークの群れを降伏させた。

 きっかけは、以前トロールの集落で手に入れた、この不思議な旗のお陰だった。




☆★☆★☆


――二時間後。

 私が伯爵でないことはバレたが、話はそう簡単では無かった。



「あの旗の持ち主こそが、魔界の貴公子の証。貴方様が誰かは関係ございませぬ!」


「え、そうなの?」


 どうやら、この旗は魔族における力の象徴らしい。

 私に降伏したのではなくて、この旗の持ち主に降伏したという論理らしい。

 ……が、当然反発はあった。



「貴様になど屈さぬ!」


「これ、やめぬか!」


 族長の降伏の判断に反発してきたのは、その族長の長男だった。

 ……というか、当然の反応である。



「隊長のお手をわずらわすまでもあるまい! わらわが相手してやる!」


 族長の長男の相手は、ドワーフの戦士ジークルーンが請け負った。

 皆が見守る中、一騎打ちが行われる。



「いくぞ!」


「来い! 若造!」


 オークの族長の息子は、大きな戦槌を両手にもって、ジークルーンに襲い掛かる。



――ガシィイイ!


 ジークルーンの戦斧は、一撃でオークの戦槌を叩き切り、戦斧がオークの喉元に付きつけられる。

 勝負は一瞬で決まったのだった。



「……ま、参った!」


 オークの子息は降伏。

 一騎打ちはジークルーンの完勝だった。

 ……てか、普通に強いんだね。


 改めて、降伏したオークの処分を考えなくてはならない。

 意外な難題だった。

 事情を聴けば、彼等は早かれ遅かれ人間との激突は避けられないと見ていたらしい。

 それもあっての今回の降伏劇だった。




☆★☆★☆


「……え? あのお化けが出ると噂の古城の敷地を買い取りたいって?」


「ええ、お譲り願えませんか?」


 領都に帰った私は、大きな商家に、とある荒れ地の購入を打診する。

 予算は傭兵団からの成功報酬を全て費やした。



「わかりました、その金額ならお売りいたしますよ! というかあのような辺鄙な荒れ地を、何にお使いになるんで?」


「それは内緒でよろしくお願いします!」


 交渉は成功した。

 金貨の枚数がモノを言ったのだった。

 ちなみに、ジークルーンとマリーに支払う今回の分け前は、彼女らにお願いしてツケにして貰った。


 領都を北西に森を抜けた先にあるこの荒れ地を、オーク達の住み家の代替地にする計画だった。



「しずかにお願いしますね!」


「ブヒブヒ」


 その日の夜のうちに、オークの群れに荒れ地に引っ越して貰う。

 荒れ地の真ん中には、魔物が出るという噂の古城がそびえていた。



「ギギギ!」


「でやっ!」

「ファイアーボール!」


 確かに数匹の低級の魔物が出現。

 すぐさま戦闘を行い、2時間後には掃討を完了した。



「ねぇ、ガウ! 私達もこのお城に引っ越さない?」

「……え!?」


「ぽここ~♪」


 マリーの意外な提案だった。

 確かにこの古城を奇麗にしたら、今の借家より住み心地が良いかもしれない。

 ポココも乗り気だった。



「じゃあ、引っ越してみますか!」


「了解!」


 古城の周りにオーク達が家を建て、近くの小川から水路を引く。

 私達も古城の中の部屋を掃除して、僅かな家具を運び込んだ。



「旦那様、私にも部屋を頂けるんで?」


「うん、部屋が沢山あるからね!」


 死霊のスコットさんには、窓のない部屋をあてがった。

 陽の光が苦手だからである。



「わらわも、部屋をもらうぞえ!」


「どうぞ! どうぞ!」


 ジークルーンも部屋を持つことになった。

 ちなみに、ジークルーンには領都に戻ってもらい、傭兵団のアジトと連絡係をしてもらうので、古城の部屋は別荘という感じとなった。




☆★☆★☆


――二週間後。


「ご領主様! どうぞこちらです!」


 オーク達には、すっかり領主扱いされる私。

 確かに、ボロボロな古城だが、立派な城持ちだった。

 案内されたのは、新しく作った溶鉱炉だった。



「これで鉄が溶かせますぞ!」


「へぇ!」


 案内された石組の溶鉱炉の中には、灼熱石という魔石が核となり、周りの木炭とともに鉱石を熱で溶かす仕組みだった。

 この灼熱石はとても高価なのだが、オークの族長が保有していたモノだった。



「鉄でも銅でも溶かして見せますぜ!」


「おお!」


 頼もしい話だ。

 ここは領都からかなり離れた土地であり、人もほとんど近寄らない。

 秘密の加工所としてはうってつけだった。


 すぐに所有していた鉱山の皆に連絡。

 こちらにもいくらかの鉱石を運ぶようお願いした。


 ……実は、金属製品の製作は、パウルス王家の認可制。

 もちろん、無許可の加工所として運営するつもりだった。



「バレたらやばいなぁ……」


「絶対バレないって! お金持ちになるわよ!」

「ぽここ~♪」


 ポココやマリーの方が、わたしより絶対に肝が据わっているようだった。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?