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第6話 おばあちゃん、もう一人の幼馴染と再会する

「なあ、済まない。ひとつ聞いて良いだろうか?」


 そう勇者様に声をかけられた私だったが、今だにアニメの世界に浸っていた私は上の空だった。何を考えていたのかといえば――。


 一番最初に見た魔法少女アニメは、魔法使いシフトだったわね。白黒アニメが途中から色がついてびっくりした覚えがあるわ。シフトちゃんは物を動かしていた記憶があるわね。

 その後はひみつのリョウコちゃん……あら、私はリョウコちゃんみたいに変身はできるのかしら。そこからアニメは見ていないのよねぇ……次に覚えているのは、美少女戦士サンシャインだし、そこから娘の影響で漫画も読むようになったのよね。


「……おーい、聞こえているか?」


 そもそも今回サンシャインの決めゼリフを借りたけれど、これは毎回同じじゃないといけないのかしら? もしかして他のブルーやイエローちゃんの決めゼリフを使っても良いんじゃないかしら……。

 そう思ってハルちゃんへと尋ねようと声を出そうとして、はたと思う。全部聞いたら面白くないじゃない。


「あ、そうだ。魔法の検証は自分でやってみたいから、答えは言わないでね」

『うん、分かった! 確かに全部教えてたら、つまらないよねぇ。あ、私は一旦業務に戻るから、ミヤちゃんも頑張って! また来るね!』

「助かるわ、ハルちゃん」


 何となくハルちゃんとの接続が切れたような気がする。再度歴代のアニメを振り返ろうと思った私の目の前に、にゅっと手が現れた。驚いて手を出した人物を見ると、そこにいたのは勇者と思われる彼だ。彼は眉間に皺を寄せて、こちらを見ていた。

 そうだ、私はこの方に助けられたのだったわ。まずはお礼を言わなければ!


「助けていただきありがとうございました。私、クリスティナ――と申します」


 やっぱり苗字が思い出せない私。貴族らしくワンピースの裾を軽く持ち上げて膝を折ると、目の前の男性はこほんと咳払いをして話し始めた。


「俺はヘンリクだ。女神様から勇者に指名されたのだが……君はもしかして賢者、か?」

「はい。先程マルクスさんに賢者だと指名された話をお聞きして、こちらに」


 令嬢っぽく振る舞ってみたけれど……こんな感じで良いのかしら? そんな事を考えていた私は、次の言葉で考えていた事が吹っ飛んだ。


「そうか……気になる事がある。単刀直入聞くが、何故君は美少女戦士サンシャインを知っている?」

「え?」


 うまく彼の言葉が理解できずに首をかしげていたら、ヘンリク様が話し出した。


「......先程、美少女戦士サンシャインって言っていただろう?」

「あ……!」


 ああ、さっきハルちゃんと話した時に、サンシャインの話をしていたわね……きっとヘンリク様はそれを聞いていたのでしょう。

 ん、ちょっと待ってほしいわ。ヘンリク様はこの世界の方でしょう? サンシャインを知っているって事は、この世界にも美少女戦士サンシャインの物語があるのかしら?!


「え、この世界にも美少女戦士サンシャインがいるのでしょうか……? もしかして私、著作権を侵害してしまったかしら……?」


 この世界の人が美少女戦士サンシャインを知っているとしたら、ちょっと恥ずかしいかもしれないわね。

 まあ恥ずかしいくらいなら、問題はないかもしれないけれど……いえ、問題はあるわ! 著作権侵害よ! もしかして著作権侵害で罰則……懲役や罰金? を払わないといけないのかしら……申し訳ない事をしてしまったわ……。

 ヘマをやらかしたのでは、と思った私の顔から血の気が引いていく。思わず頭を抱えると、ヘンリク様が声を上げた。


「この世界に美少女戦士サンシャインはいない……いや、そうじゃなくて! ……君は日本からの転生者ではないか? ちなみにこの国に著作権侵害という言葉もないぞ」


 この世界に暮らしているヘンリク様が「ない」というならないのだろう。ひとまず、著作権の侵害はなさそうだ。罰金、懲役もないらしく良かった、と胸を撫で下ろす。

 それと同時に新たな疑問が生まれた。あら、なぜヘンリク様が「転生」という言葉を知っているのかしら? でも、まずはヘンリク様の疑問に答えなくてはならないわね。あら……そう言えば、ハルちゃんは最初に「転生」って言葉を使っていたわね。じゃあ私は転生者で良いと思うのだけれど……。

 少々不安だった私は、首をかしげながら答えた。


「多分、そうかと、思います……?」

「……何故そんなに曖昧な返事なんだ……?」

「いえ、何と言うか……初めて転生をしたものですから、これが転生なのかが分からなくて……」

「転生が初めて……まあ、そんなもんなのか……いや、そりゃそうだろう!」


 ヘンリク様は最初ぶつぶつと何かを考え込んでいたが、いきなり大声を上げたので驚いた私の肩が跳ねる。彼は私に視線を合わせると両肩に手を置き、私に穴が開くのではないかと思うほど、見つめてきた。


「前世の記憶が残っているということは、君は転生者だ! 俺も転生者だからな。それよりも! さっきから聞こえる名前……ハルちゃんは、もしかして……神田遥の事か?!」

「ええ! 何でハルちゃんの名前を知っているの?!」


 思わず目を見開いた私は、ヘンリク様の顔を見つめる。すると、ぼんやりと幼い頃よく遊んだ彼の事を思い出した。


「もしかして……あなた、ユウくん?」

「……! その名前! もしかして君はミヤ……藤原みやびか?! そうだ、俺は写田はまだ 悠だよ!」

「わあ、懐かしい! ユウくんなのね!」


 私の肩に置かれた手が離れたのと同時に、ユウくんの右手を両手で包み込む。右手はとても温かくて、まるで彼がここにいる事を証明してくれているようだった。


「ユウくんもこの世界に来ていたの? 嬉しいわぁー!」


 私だけじゃなかった事を喜ぶ。ユウくんもいれば、百人力よね! 満面の笑みで喜んでいると、ユウくんは困惑したような表情で私を見ていた。


「いや、そこは何で俺がここにいるのかを突っ込むところじゃないのか……?」

「え、ユウくんも……ハルちゃんにお手伝いをお願いされたのではなくて?」

「えっ、お願い? 何だそれ」

「ええ?」


 二人で狼狽えていると、困り果てている私たちの空気を感じ取ったのか、頭の中でハルちゃんの声が聞こえた。


『あれぇ〜? ユウくんがいるの? 私はユウくんを転生させた記憶はないんだけどな〜? もしかして、輪廻転生した後に前世を思い出しちゃったやつかなぁ? わー! ユウくん凄いねぇ。無量大数分の一の確率だよぉ〜!』

「え、そんな凄い確率なのねぇ。ユウくん凄いわねぇ!」

「いや、何が凄いのか全く分からないのだが……」


 当惑するユウくんに、「あ」と私は声を上げる。


「そっかぁ。ハルちゃんの声は私しか聞こえなかったのよね。ごめんねぇ〜ユウくんが前世の記憶を思い出したのは、無量大数分の一の確率なんだって!」


 凄いじゃない! なんて話していたのだけれど、ユウくんは額に手を当てていた。


「ミヤ……小学生の時ものんびりしていたけど、輪をかけてのんびりしてないか?」

「えー、そんな事ないと思うわ。今も昔もこんな感じだったわよ〜」


 頬に手を当てて答えれば、ユウくんははあ、と盛大なため息をついた。


「いや、絶対前よりもマイペースになってるだろう.....そもそも、どこにハルがいるんだ? 俺に聞こえないってどういうことだ?」


 そう尋ねられて私は困った。ハルちゃんが神様だって事は伝えて良いのかしら? そう思っていたら、遠くから『別に良いよー』という声が聞こえた。ハルちゃんがユウくんに言っても問題ない、というのならきっと大丈夫なのよね。

 だから私はユウくんに話したわ。「ハルちゃんは、神様なの」って。私からハルちゃんの話を聞いたユウくんは、頭を抱えてうずくまった。


「大丈夫? ユウくん」

「いや、ちょっと待って、だいじょばない……」


 ユウくんは頭を抱えてうずくまった。しばらくすると、頭の整理ができたのか立ち上がり、私に尋ねてくる。


「ハルが神様? つまり女神ジェフティ様はハルと同一人物いう事か? そしてミヤはハルの頼みで、亡くなったクリスティナ嬢の代わりに賢者としてこの世界にいる……? つまりミヤはハルの眷属という事か?」

「そうなのかな? 詳しい事は分からないかなぁ……」

「ミヤ……その性格でよく騙されなかったな?! 日本で一度くらいは詐欺に引っかかっててもおかしくないぞ?!」

「えー、大丈夫だったわよ?」


 そんな言い合いをしていた私たちだったが、ふと後ろから「あの……」という言葉で振り返る。そこにいたのは、困惑した表情のマルクスと男の子、そして血の気の引いた顔でこちらを見ているクリスティナの侍女が佇んでいたのだった。

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