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第2話 おばあちゃん、賢者の過去を知る

 そもそも何故私がクリスちゃんの中に入らなくてはならなかったのか、それが気になる。


『クリスティナちゃんはねぇ、魔力量が少ないと虐げられていたんだよ……』

「魔力? あ、この世界は魔法騎士マジックナイトスカイみたいに、魔法が使える、って事なのかしら?」

『うん、そんな感じだけど……ミヤちゃん、魔法少女系のアニメよく覚えてるね?』

「子ども達が読んでいたから、結構ハマっちゃってねぇ」


 何となくだけれど、あの漫画の世界観を思い出す。あのロボットみたいなものも出てくるのかしら? 少し期待してしまう。そんな私の考えはハルちゃんにお見通しだったらしい。


『期待しているところ悪いけど〜。この世界はどちらかと言うとワイバーンクエストの方が似てるかなぁ。ロボットは出てこないよ〜』

「あら、残念ねぇ。ワイバーンクエスト? なあにそれ?」

『え、ワイクエって呼ばれてすっごい有名なゲームだよ? 沢山シリーズも出てたし。ワイクエはシリーズ11くらいまで出てたはずだよ?』

「ああ、それならなんか聞いた事があるわねぇ。確か息子や孫がそんなゲームをしていた気がするけれど……確か敵を倒すゲームだったかしら?」


 漫画やアニメは見ていたけれど、ゲームはサッパリだ。ゲーム系は夫の方が詳しかったから、任せていたし。


『まあ、そんな感じかな?』

「じゃあ、この国でも敵? みたいなものも出てくるの?」

『うーん、魔物が敵みたいなものだけど……「二人はキラキュン」のオマエフザケルナーみたいなイメージって言ったら分かる?』


 そう言われて思い出す。あれは何かに乗り移って主人公達に襲いかかってくる化け物だったかしら。


「分かるわ。確か敵の幹部が生み出した化け物だったわよね?」

『そう。ただキラキュンと違って、ここでは魔物が生まれるのは厄災を閉じ込めた箱の影響なんだ! この世界には厄災を閉じ込めた箱が存在してて、ある場所に封印されてるんだよ〜。その箱から漏れ出した厄災が魔物を生み出しているんだ。普通であれば箱は封印されているから問題ないんだけど、数百年から数千年に一度、封印が緩んじゃうの! 再度その封印を施すのが、私に指名された勇者達なんだよねぇ』

「あらまぁ、勇者も大変ねぇ」

『その一人がクリスティナちゃん、つまりミヤちゃんなんだよ?』

「あら、そうなの? つまり私も封印のお手伝いをすれば良いのかしら?」

『そゆことー!』


 何となくこの世界の事が分かってきたけれど、ひとつ疑問がある。何で魔力がないからと、クリスちゃんは虐げられたのだろうか。それで首を傾げていたところ、ハルちゃんの話はまだ続きがあったらしく、話してくれた。


『この世界の王侯貴族たちはねぇ。魔力量で序列が決まるんだよ〜。なんでかって言うと、王侯貴族達が魔法で魔物を倒すからね!』


 ハルちゃんが言うには、この世界には魔族と人族というふたつの種族がいるらしい。その種族の間には魔物の森と呼ばれる、強い魔物がウヨウヨしている森があるんだって。

 その森に住んでいる魔物が時々、人里に降りてくるらしく……その時に貴族達が魔物を討伐しに行くのだそう。


「だから魔力量の多い人が優遇されるのね!」

『そうなの! クリスティナちゃんの両親は、国でもトップレベルの魔力量を持っていてね。クリスティナちゃんのお兄ちゃんも両親に匹敵するくらいの魔力量があるんだよ。だけど、私がクリスティナちゃんの魔力を封印した関係で、彼女の魔力は貴族の平均よりちょっと上ぐらいだったから……両親から出来損ないと呼ばれて過ごしていたんだ』


 これまで元気だったハルちゃんの声が、急に暗くなった。そして懺悔するように彼女は話し始める。


 魔力量を判定されるのは五歳の頃。

 それまで優しかった両親が急に冷たくなり、クリスちゃんは泣き続けたらしい。そんな彼女を煩わしく思った両親は、クリスちゃんを屋敷の庭の隅にある小屋へと押し込めて、使用人に出てこないように命じたのだとか。使用人からも醒めた目で見られ、食事も一日二回あれば良い方。時には一日中食事抜き、なんて事もあったと言う。

 確かにカーテンから窓の外を見てみると、遠くに立派な屋敷がある。あれがクリスちゃんの家族がいる屋敷なのだろう。


『それでも、クリスティナちゃんは両親に振り向いてもらおうと頑張ってたよ。一人、彼女を大切に思ってくれていた侍女がいて、その子が昔使っていた魔法の本を読んで……毎日魔力を増やすよう努力してたんだ。それで身体も魔力が馴染んで、魔力量も増えていったんだけど……両親は見向きもしなくてね。出来損ないのレッテルを貼られたままだったんだ……』

「この世界の貴族達は、魔力量が少ない子を虐げるの?」

『ううん。魔力量は頑張れば増やせるから、魔力が少ない子は訓練させるけど、虐げられる事はあまりなかったよ。勿論、元々の魔力量が多い人は重宝されるけど……この国の貴族の中には、頑張って魔力量を増やして力をつけた人もいたしね』


 なるほど。それであればクリスちゃんの両親が、子どもを駒としてしか見ていなかったのだろう。自分のお腹を痛めて産んだ子を放置するなんて驚きだわ……。生まれ持った魔力量だけで判断して彼女を切り捨てたのは……何か理由があったのかしら。


「あら? それはそうとして……ハルちゃんはクリスちゃんの魔力を封印した、って言ってなかったかしら?」

『そうなの。クリスティナちゃんの魔力量が元々多すぎて、子どもの身体では魔力を保てなかったんだよ〜。だから私の権限で幼い頃は魔力を封印していたんだけど、それが裏目に出てしまった形になっちゃって……私が世界に干渉するのも条件があるから、クリスティナちゃんを助けてあげられなかったの』

「ちょっと待って、助けてって事は……クリスちゃんは亡くなっている、という事……?」


 ハルちゃん曰く何とかして彼女を助けようと奮闘していたのだが、ある日クリスちゃんは流行病に罹って亡くなってしまったのだと言う。食事が抜かれていた事もあり、身体がもたなかったのだとか。

 だから私が彼女の身体に入って、転生したのね……クリスちゃんの冥福を祈っていた私の目から涙がこぼれる。


『クリスティナちゃんをもう一度世界に戻す事も出来なくはないんだけど……もう彼女自身が「クリスティナとして生きたくない」って感情が強かったから。無理強いする事ができなくて……でも、クリスティナちゃんが亡くなってしまったら、厄災の箱の封印ができなくなっちゃうの。世界の崩壊は管理者として望むところではないから……だから、ハルちゃんに転生をお願いしたんだ。私の尻拭いみたいな形になっちゃってごめんなさい』

「それは良いのよ。クリスちゃんに代わって私が頑張るから」


 何が起きたのかは分からないけれど……クリスちゃんは人生に絶望してしまったのかもしれない。私としてはそれでも「生きていれば」良い事が起こると思うのだけれど……それは単なる考えの押し付けになってしまうわ。私ができるのは、彼女が今後幸せになるようになるように、と祈る事。両手を握り、膝をついて再度祈る。あとは――。


「それよりもクリスちゃんの魂はこの後どうなるのかしら?」

『今、クリスティナちゃんの魂は神界にあるんだけど、次の生では幸せに暮らせるよう準備しているところ!』

「それなら良かったわ!」


 輪廻転生、というものがあるのなら……と思っていたけれど、ハルちゃんはクリスちゃんの先の事も考えてくれていたらしい。きっとハルちゃんなら大丈夫だろう。ほっと胸を撫で下ろしながらも、私はハルちゃんに尋ねた。


「そういえば、神様は予知能力とか無いのね?」

『予知能力はないんだ。基本は世界の流れるまま、干渉しないように決められてるからね。それに管理者の権限を使う条件が結構厳しくて……神様でもできない事があるんだなと思い知ったよ……』


 シュンとするハルちゃんの姿が頭の中に思い浮かぶ。私はそんなハルちゃんを助けたい、という気持ちは変わらない。後は私がクリスちゃんの代わりに頑張るだけだ。


「で、ハルちゃん。私はこの後どうしたら良いのかしら?」

『うん、そうだねぇ。さっき、私がこの世界に神託を下ろしたから、もう少ししたら迎えがくると思うよ』

「迎え?」

『うん。日本でも教会があったでしょ? あれと同じで、この世界も神を祀っている教会があってね。そこの人にきちんと伝えたから、もう少ししたら来ると思うよ〜』

「あら、さすがハルちゃん!」

『でしょでしょ!』


 そう私が彼女を褒めると同時に、小屋の外で怒声が響き渡った。

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