和巳は大学を数年前に卒業してすぐから、大学で取った資格を生かした専門職として縁もゆかりもない過疎の進む雪国で働いていました。
残念ながら私とは非常に相性が悪く、大学時代からずっと会っていませんでした。
嫌いではないんです。好きかと訊かれたらノーコメントとしか返せませんが、決して嫌いではない。
彼が遠方に就職を決めたのも、私とは会わない方がいい関係を築けると考えた結果でしょうね。
大学は近かったんですが(自宅から徒歩でも数十分、自転車で十五分程度。三人の中で最も近い)、私が一緒に暮らすのが無理で出て行ってもらいました。
もちろん学費も家賃も最初の家具や電化製品も、すべて私持ちです。
和巳は頭も性格もいい、よくできた子だと思っています。ただ徹底的に合わない。
きっと私の問題なんでしょう。
弟妹とは仲がよく、連絡は取っているらしいので特に変わりはなかったようです。久留美の誕生日には、毎年リクエストのプレゼントを送って来ていますから。
雅巳は地元の大学四年生で就職も決まっており、久留美は隣県の大学に入学して二年生がもう終わります。
二人とも自宅通学です。
実は和巳は、この作品時点の一年近く前に転職して地元に戻って来ていたらしく、弟妹とは連絡を取り合っていたようです。
半年以上経った秋に「家に行きたい」と私に連絡が来て、まあ十年近く経っているし「いいよ」と返して、それ以来年に何度か顔を合わせています。
自宅に来て夕食を一緒にして行きましたが、毎回余裕があれば準備の手伝いに早めに来て、終わったら必ず食器や鍋を洗って帰って行きました。
年齢だけではなく「大人になった」息子とは、良い関係が築けています。
私もいくら「攻撃的」だと自覚はしていても無駄に揉め事を好むわけではないので、上手く行くならそれに越したことはありません。
今はまた、もともと行きたがっていた職場に転職が決まって、引っ越すのと同時に結婚を考えている彼女と一緒に暮らしています。
「結婚するなら、自分が改姓してもいいと思っている」
まだ私が交際を知らなかった、自宅に来るようになった始めの頃だったでしょうか。
和巳が言うのを聴いて「私を見ていたからだな」と同時に、「私を見ていてよく結婚したいと思えるな」と驚きました。
久留美はもう早い時点で「結婚しない」と決めていたらしいので。そしてそれが