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【8:名付け】

 私のこの忌々しい名をつけたのは父方の祖父だといいます。

 明治だか大正生まれの老人が思いつきそうな名前なんでしょうかね。

 早くに(私がまだ保育園児のころ、おそらくは六十過ぎくらいで)亡くなっているので、祖父に思い入れなどはありません

 敢えて捻り出すなら恨みだけです。


 名前は一生背負っていくものです。改名も簡単にはできません。

 だからこそ私は名づけは親の責任だと考えています。

 たとえ決めたのが祖父であろうと、それを通したのは両親です。反対できなかった事情があったかどうかは私には何の関係もないんですよ。


 私が名前についての恨み言を口にするたびに、「おじいちゃんがつけたから」と死人のせいにする。

 言い訳なんてみっともないとしか感じませんでした。潔く己の罪を認めればもう少し早く赦してやったかもしれないのに。

 ですから私は両親には、「子どもに対する義務と責任を放棄した」連中だと憎悪と侮蔑しかありません。


 現実には、「両親は開業している」と言いましたが、初代は祖父です。父はその後継者として、結婚後は当然二人で祖父の後を継いでいくのが既定路線としてありました。

 そのため祖父の意向は絶対だったのだろうことくらい私も理解しています。だからこそ「祖父に逆らえずに申し訳なかった」と一言口にしていれば、私の怒りも少しは治まったかもしれないと思っています。


 私が子どもの名づけで最優先したのは「読める」こと。次いで「漢字を言葉で説明しやすいこと」。

 加えて漢字の意味はどうでもいいとも考えていなかったため、名付けは大変な労力を使いました。

 実際の名は画数が多くて大変だと申し訳なく思っていますが、子どもたちはとても気に入っているようでそれだけは幸いです。

 私個人は「良い名前をつけてやれた・私の持てる時間と力を精一杯費して考えた」と信じていますが、子どもを私と同一視する気はないからです。


 下の息子の雅巳に至っては、自分の名前が大好きで小学校の進級や中学入学時の自己紹介で、必ず「『雅巳』と呼んでください」と書いていたそうですが、残念ながら呼ばれたことはないと。


 姓が「淺尾」でしかも旧字で珍しいため(本名も旧字が入ります。ここは同じようになるように仮名をつけました)、まず『あーさ』『あさちゃん』等になるそうです。

 保育園と小学校入学してすぐの友人のみ、家族と同じ『まーくん』。上の息子の和巳は『かーくん』でした。娘は『くーちゃん』です。


「ママは三人とも良い名前だと思ってつけたけど、もし不満があるならいくらでも謝るよ。それが親の責任だと思ってるから」

「私はすごく好きだよ。気に入ってる。お兄ちゃんとまーくんもそうだよ」

 娘の久留美が大学に入ってからの会話の中で名前の話になったので告げると、彼女は平然と笑って答えました。


「『久留美』って可愛すぎるかなとも思うけど大丈夫? いや、ママは本当に好きなんだけど」

「全然。『子どもっぽい』って意味なら、高校で平気ならもう大人になっても平気だって! それに誰になんて言われても、私も好きだから気にならない」

 もともと小さなころから自分の名前は好きだと言っていましたし、気に入ってくれているのならそれは何よりです。

 そして「私が好きだから」に、改めて彼女と私の相似を感じました。


 我が子は皆、「読み間違いがない」だけでも嬉しいと言います。

 今は私とはまた別方向に、読めない名前が珍しくないですからね。苦労しているお友達も少なからず居たようです。

 決して「キラキラ」とは評されない、むしろ表現は良くないかもしれませんが「きちんとした名前」でも、特に人名漢字は普段使わないものも多く、説明するのに四苦八苦していた子もいたそうです。


 久留美は非常に個性が強いです。

 そのため、家族内でまともな会話が成り立つのは私だけなので、彼女は話したくなったら私の部屋に来ます。

 きょうだいで一人だけ私に似ているので、それも大きいですね。


 私も大変強烈な個性の持ち主で、久留美の個性は確実に私由来です。




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