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【4:住処】

 すでに述べましたが、「結婚予定(婚約)」ということで世帯用の職員住宅に申し込み入居が叶ったのは想定外の成り行きでした。

 本来は結婚してから、あるいは直前が良かったものの、募集の時期が決まっていた(当時は確か年に二回)んですよ。

 そして希望者が多ければ抽選になります。

 場所によって人気度に差があって、私が希望したのは「地方都市郊外の新築」でした。


 もともと入居者がいる他の物件とは違い、新築で一斉に入るため半年やそこらで退去する人がそう出るとは考えられません。

 つまりその時点で申し込まなければ、ほぼ可能性がなくなります。

 新築目当てではなく、場所と広さが魅力だったんです。式を上げる予定の教会から近かったのもあります。

 別に「教会に近いこと」が重要なわけでは全然なくて、下見でそのあたりを訪れていいところだと思っていたんですよ。

 駅もバス停も近くて、買い物する場所も徒歩圏内にあって便利そうだったからです。

 それでいて、大通りからは少し離れているので静か。

 ただこれは車社会の田舎出身の私の便利基準ですから、都会の方からはまた違うかもしれません。


 職員住宅は近隣の他の賃貸マンションと比べれば格安でしたから、新築の希望者は尋常ではなく多かったです。

 かなりの高倍率でしたが(結果も申込者は閲覧できました。紙ベースで回覧の時代です)、当選して結婚式予定の半年前に入居しました。


 まったく縁のなかった土地でしたが、なかなか街の住み心地もよかったので今もその近くに家を買って暮らしています。

 子どもたちにとっては、ここが生まれ育った故郷になりますし、「余所者」の私とは根本的に感覚が違います。地元への愛着が半端ではないんです。これは自分の出身地が嫌いな私とはまったく別次元で理解はできませんが、逆に良かったとは思います。「自信」はいろいろな肯定感からだと考えていますので。

 最初のうちは、新居から実家の方の職場に車で通っていました。一年後に市内で勤務できることになるまでは結構大変でしたね。

 ちょうど異動の時期だったのもあり、希望が通って幸運でした。当然「職員住宅に入っている」点からも、通いやすい部署になったとも考えています。


 職員住宅そのものは五年ほどで退去しました。

 上の息子が生まれて保育園に入ったものの、小学校の学区が極めて狭く、入学後ならその中で転居先を見つけられなければ転校させることになってしまう。

 入居期限もあったため、「上の息子の小学校卒業」までは居られないのが決定的だったのもあります。それなら早いうちに、と探し始めて、結局は同じ学区どころか職員住宅から一キロもない一戸建てを購入しました。


 職員住宅の入居者(契約者)はすべて、具体的な勤務先は違っても広義の同僚です。

 私のように妻側が自分で申し込んで入っている者はもちろん、夫婦共働きなら問題もなかったんです。

 ただ、全体の半分ほどを占めていた「夫側が職員で妻が専業主婦」の家庭が厄介でした。

 こちらは何も思っていない(はっきり言ってまったく興味なんてないし、忙しくて他人を気にする余裕など一切なかった)にもかかわらず、何かと目の敵にして張り合って来たらしいです。

 あ、私にという意味ではなく「専業主婦ではない人に」ですね。


 同じ職場の別部署の他業種の人の奥さんが私に難癖をつけてきたことがありました。

 こちらは取るに足りない相手だと気にしてもいなかったんですが(私はその女を、最初から所詮「その程度」としか見做していなかった)、妻の所業を知ったご主人の方が真っ青になって我が家に謝罪に来られました。

 向こうの心情はよくわかります。「あの部署の〇〇さん(私の職種)に喧嘩を売った奥さんを放置している」と万が一表沙汰・噂になったら、私の意思など無関係にお相手の立場上(心情的に。針のむしろと言えば伝わるでょうか)職場にいられない事態になりかねません。

 もしそうなったら、私も「飯が不味い」ですから。

 大人しくさせて私の邪魔さえしなかったら、別にその人の奥さんが何をほざこうがどうでもいいんです。

 とりあえず「家畜」には首輪と鎖つけとけよ、としか言うことはありません。


 私は変則勤務が多かったのでよく知らなかったんですが、同じ住宅に住んでいた人とたまたま買い物中に会って詳しい事情を教えてもらいました。

 夕方仕事が終わって帰って来たら、住宅(形式的にはマンション)前で井戸端会議をしていたそうです。

 似たようなメンバーで毎日。


 その時間って夕飯作らないの、というか食べないの? 子どもと一緒に居ないの?

 話を聞いたときは本当に理解できませんでした。

 まさか働いている奥様方に対する嫌がらせだったとまでは思いませんが、毎日何をやっていたのかは今も私の想定の範囲外ですね。

 話してくれたその人も、数年で家を買って(あるいは建てて)出て行きました。

 私が入っていた職員住宅の主婦連中(の一部だか多数だか)の頭か性格が悪かったというだけの話です。

 ちなみに、若い頃他の職員住宅に入っていたという職場の女性に「自分も苦労しました。最速で家買って出ましたよ……」と労われました。

 単純に私の職場特有の話ではなく、一般的に「社宅」ではよくあるらしいですね。



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