エリゼは、やっぱり剣の才能がある。最小限の動きで避け、攻撃を仕掛けるので疲れること無く山頂まで討伐を続けられた。
「わぁ〜い♪ 山頂まで、わたし一人で討伐できたぁー!」ぴょんぴょん飛び跳ねる元気も残っているみたいだ。
俺は、なんの力も貸さずに後ろから見守っていただけだし、すごいなー。せっかく山頂まで辿り着いたんだし、周りの探索でもしてみようかなっ。
「ねぇ、ねぇ……エリゼ、この辺りを探索してみない?」いたずらっ子の笑顔をし、こそこそと小声で言った。
「いいねー……あ、ダメダメ。ダメだよぅ! お父さんが、道から外れたらダメだって……」にぱぁと目を輝かせたが、父親の言いつけを思い出し慌てた表情をして注意してきた。
だがエリゼが周りをキョロキョロして、ニコッと笑った。「……お兄ちゃんが、どうしてもって言うなら……仕方ないよ、ねぇ〜……?」エリゼとの付き合いも長くなり、俺の影響を受け出しているのか……自分に正直になってきている? 適応力か応用力が高まってきているのかな? いや、悪知恵が付き出したのかも!
「そうそう、エリゼは止めたんだけど、俺が勝手に探索をしに出掛けちゃったんだよ! で、エリゼは俺を追ってきて、仕方なく付き合った感じかな。」俺がそう言うと、彼女はニコニコしてうなづいていた。
「……仕方ない、お兄ちゃんだよねぇ〜えへへっ」と言って、近寄ってくると俺の袖を掴んできた。
「でもさ〜気持ちが良いなー♪」山頂で、辺りを見回し深呼吸をして改めて空を眺めた。
眼前には広がる大空が一面に広がっている。澄んだ青空はどこまでも続き、雲ひとつない晴天が心を洗い流してくれる。
爽やかな風が頬を撫で、髪をやさしく揺らす。その風には、草や花の香りが混じり、自然の息吹が感じられる。
足元には緑の草や小さな花が咲き誇り、その彩りが青空とのコントラストを一層鮮やかに見せている。
自然を満喫していると、『……なんだか違和感があります』黙っていたあーちゃんが急に口を開いた。俺も、山頂に着いてから違和感に気づいた。
『あぁ……なんかありそうだね〜』薄っすらと別の魔物のような存在が、低級の魔物に混ざってるような感じがする。
山の反対側を散策していると、崖があり、回り道をして下りると大きな岩が割れていて、中に入ることができた。その岩の割れ方は、まるで誰かが強大な力で割ったようだった。こんなパワーを持つ人間を見たことも聞いたこともない。もし、そんな人間がいたら軍が見逃さずにスカウトしているだろうし。それか、冒険者の中にいるのかもしれない。
「ここから入れそうだよ?」と、エリゼがニコッと言ってきた。さすが、冒険者志望だね。しかも責任回避をして俺に行かせようとしているしぃー。俺なら何でも許されると思っているのか? 今のところは許されているけどさ〜♪
まあ、こんな面白そうな所を見つけたら、誘われなくても行くでしょ。
「一緒に行く?」と、エリゼならついてくると分かってて笑顔で聞いた。
「……うぅ……こんな所で、わたしを一人にするの?」エリゼが俺の服をそっと掴み、不安そうに見つめてきた。
「エリゼなら大丈夫じゃない?」と、エリゼの反応が可愛くて……ついついイジワルなことを言ってしまう。
「いやぁ。大丈夫じゃなーい。一緒に行くぅー!」可愛い頬を膨らませたエリゼが言ってきた。
「だよねぇ〜」
「うん♪」
二人で顔を見合わせて頷き、ニコッと笑った。このパーティでは、エリゼが止める役だったが、俺と一緒にいることで影響を受けてしまっていて、今では止める人がいないので危ないかもしれないな。
洞窟に足を踏み入れると、まず湿った空気が肌にまとわりついてくる。冷たく湿った石の壁には、所々に苔が生え、ゆっくりと滴り落ちる水滴が音が洞窟内に響き渡る。洞窟内は薄暗く、アイテムボックスから取り出した松明の明かりがぼんやりと前方を照らす。壁に空いた亀裂や足元の不規則な石の配列が、ここが自然の力でできたものであることを物語っていた。
「ねぇ、こういうのって冒険者っぽいよね……」とエリゼが、ワクワクとした声でつぶやいた。
「だね〜こういうのをエリゼは求めてた感じじゃないの?」冒険者ごっこをしたいのなら、こういうのが好きなんじゃないのかな。
「うぅーん、ちょっと違うけど……こういうのも好きかも〜」と言いつつ俺の腕にしがみついてくる。
足を進めるごとに、コウモリの羽音が頭上から聞こえ、影が壁に踊る。遠くからかすかに聞こえる風の音が、未知の深淵を感じさせる。
「この辺は、滑りすくなってるから気を付けてねっ」
「うん、お兄ちゃんも気を付けて……」と、お互いに心配をしあい進んでいく。
床には湿った苔や滑りやすい岩が散らばり、一歩一歩慎重に進まなければならなかった。時折、ゴブリンの唸り声や小さな生き物の足音が聞こえてきた。
「今のって魔物の声だよね?」エリゼが、何者かの唸り声のような音に反応し、怯えた声で聞いてきた。
「山の魔物とは、強さが違うと思うよ……ここは、俺の番で良いかなぁ?」怯えたエリゼには、戦闘は難しいよなぁ。
「うん、うん……お兄ちゃんの番だね。わたしじゃムリだと思う……」ちゃんと自分の実力を理解して、素直に交代を了承してくれた。
そんな話をしていると、洞窟の横穴から魔物が襲い掛かってきた。といっても低級と中級の間の魔獣といわれる猛獣の魔物だった。
ネコほどの大きさで素早いが、敵意と殺気を放っていたのでバレバレで野球のボールを打つ感じで、襲い掛かってくる魔物に剣を振った。セリオスがいたら怒れると思う、「それは、剣術じゃないですよ! ただ剣を振り回しているだけですよ!」と。
知ってる……これは、野球のバットのスイングだし。斬るというより魔物を剣で殴り飛ばす感じだった。
剣が魔物の腹に当たり、洞窟の壁に飛ばされて動かなくなった。
「……お兄ちゃん、すごいけどさ……それ、剣術じゃないよ」まさかのエリゼからのダメ出しを受けた。しかも、エリゼの父親のセリオスの言ってきそうな事を想像してた、同じ事を言われるとは……
「あ、うん。咄嗟だったし……」
「だよね、すごい早かったし……反応が出来たのがすごい!」ダメ出しをして、誉めてくるあたりもセリオスと似てる。
エリゼに褒められた方が嬉しいかも、可愛い子に誉められるのが嬉しいね。
気を良くして洞窟の奥に足を進めていくと、数匹のゴブリンに遭遇した。前方に現れると横穴からも現れて完全に囲まれた。まあ、知ってたけど……
ゴブリンもこん棒を手に持ち、襲い掛かってくる。まるで軍に入りたての少年兵の様な大振りで、隙だらけで簡単に避けられるし、倒せる。初めての剣術を使いゴブリンの首を斬り落とした。
エリゼが実戦を見て、血や首を切り落としたところを見て引いてると思いきや……
「うん。今度は、キレイな剣術だったよ♪ さすが、お父さんが認めるだけあるねっ」と、ニコニコの笑顔で誉められた。人型の魔物でも抵抗がなさそうだね? 俺は少し抵抗があるんだけどなぁ……