ちょっとしたオオゴトになり他の詰め所からも応援が駆けつけてきた。バッグに見せかけたあーちゃんから取り出すフリをして俺の公式な便箋にカリカリと文字を書き俺の印を押し隊長に渡した。
「この件の指揮権は、隊長さんにお任せします。王都の警備兵も指示に従うようにっ! それでさぁ〜剣を2本貸してくれない? それとさぁ……この辺に魔物が現れる場所を知らないかな?」
「それでしたら……城門を出てすぐの森に魔物は出ますよ」
「……これを、お使い下さい」副所長が剣を2本用意してくれて、跪き渡してきた。
「あー助かるよ。借りてくね〜♪ あ、でも……借りた剣は、返しにこれないから……セリオスに渡しておくから取りに来てくれる?」借りた剣を受取、城に帰ったらエリゼを送り届けた時に、剣も渡しておけば返してくれるでしょ。
「……へ? いやいや……セリオス様って……騎士団長のですよね?」副所長が、顔色を悪くしていた。今更って感じだと思うよ、その娘のエリゼの扱いも雑だったし〜
「そうそう」
「レイニー様、普通の一般兵がセリオス様とお話をするのは厳しいかと……」副所長が俯き呟いた。そうかな……今は、一般兵の練習を見てるけど? まあ……周りは凍りついた様子になってたけど。
「じゃあ、王城の警備部隊に預けておくよ〜」
「はい、それなら問題ないです」副所長がホッとした顔で返事をした。
「それと……女性の事務作業員も解雇ね。仕事もせずに楽しいお話で給金を不正に得ていたんだから……あ、それもお父さまに任せるから良いか。俺より厳しい罰を与えると思うけど……じゃあね〜」
それを聞いた女性職員が、青褪めた顔をして座り込んだ。
自業自得でしょ……所長の権力で従わされていたとしても給金は税金で支払われてるんだしさぁ。
「エリゼを呼んできてくれる? 出掛けるからぁ〜♪」
兵士たちが慌ただしく動き出し、相手はセリオスの娘だと知ると丁重に連れてこられた。そりゃそうだ、自分たちの遥か上の上官の娘だ。
「エリゼ様、こちらです。足下にご注意を……」
緊張をして、おどおどしているエリゼを見ていると笑っちゃいそうだった。それにしても、様付けになってるし……
「エリゼ……緊張してる?」笑いをこらえて、からかうように聞いてみた。
「お兄ちゃん……うるさいっ。もお……ばかぁ〜。早く移動しよ! ここいやぁ〜。居心地悪ーい!」
二人で道を歩いてしばらくすると、デカい壁が見えてきた。王都を覆い敵の侵入を防ぐ役割を果たしているらしい。
検問があり、もちろん引っかかった……何故なら街の警備兵の剣を所持していたから、当然引っかかる。
「その剣をどういう経緯で手に入れたのだ?」
「副所長に借りたんですけど〜?」
「そんな馬鹿げた話を信用しろと? あっははは」
「ふぅ〜ん……そんな対応をしてて良いのかねぇ〜この子誰だと思ってるの? セリオス騎士団長の娘さんだよ? しーらないっ♪ ここの隊長さんとも仲良さそうだったけど? にっしし……」いたずらっ子っぽい感じで呟いた。
後ろの列から割り込んできた兵士が慌てた様子で検問をしていた兵士に小声で話をすると態度が一転した。
「……すみませんでした。お通り下さい……」
「お兄ちゃんの、ばかぁ……恥ずかしいよぉ〜。もお!」と言いつつ俺の腕を掴んできた。
隊長さんが俺達だけじゃ検問を通過できないと気を使ってくれたのか。放置されてたら捕まってたかもなぁ……
「そうそう、隊長さんから聞いたんだけどさ〜。この近くに魔物が現れる場所があるって……どこなのかなぁ?」
「それは、この細道を道なりに進むと森にたどり着きます。そこが魔物が多数現れる場所で……キケンですのでお避け下さい」
気配の探索をして進みますか〜
「ありがと〜♪」
門を抜けて道なりに進むと、怪しい雰囲気の森が見えてきた。
「うぅ……ここに入るの?」冒険者ごっこをしたいと言っていたエリゼが震えて俺の脇腹に手を回して聞いてきた。
「冒険者ごっこをするんじゃないの?」
「ここじゃないよっ。山だよ? ここキケンすぎるってばっ」エリゼが、使命感に燃えてる顔をして注意をしてきた。
「そうかな? 魔物がよく現れるらしいよ」冒険者ごっこなら……魔物と戦えればいいと思うけど? 近いし……。山に行くのは明日でいいじゃん。
「うん。そんな感じがする……不気味だし、入ったらダメな気がするぅ……」エリゼが怯えた表情で言ってきた。
せっかく苦労して辿り着いたのに〜勿体ないじゃん。
「少し進んでみよう? ヤバそうだったら引き返そー♪」
「えぇ……うん。わかったぁ」俺の、押しに押されて仕方なさそうに返事をした。
普通の森とは違い、不気味で薄っすらと靄がかかっている。魔物の住む不気味な森は、昼間でも薄暗く、どこか現実離れした雰囲気を漂わせている。森の中に一歩足を踏み入れると、魔物のテリトリーに入った感覚を感じた。すでに、あちらこちらに小物の魔物が彷徨いているのが見える。
湿った土の匂いと腐葉土が混ざり合った独特の香りが鼻をつく。木々は異様な形をしており、曲がりくねった幹やねじれた枝があたりを覆い、まるで生きているかのように感じられる。
風が吹くたびに葉がざわめき、不気味な囁き声のように聞こえる。苔むした石や木の根元には、奇怪なキノコや見たこともない植物が生えており、その中には毒々しい色をしたものもある。地面には生き物の足跡が点々と残っており、その形がどれも一様ではなく、何か恐ろしいものが潜んでいることを示唆している。
魔物の存在は確実だったので、結界を自分とエリゼに張り歩みを進める。念のために害意を感じると自動で反撃するように魔法を複数発動準備をさせておいた。頭上には複数の小さめの魔法陣が展開され、見るとワクワクとした感情が高まってくる。
前方で唸り声が聞こえると、害意を感じた魔法がバシュ! と自動で放たれた。唸り声が消え去りドサッと倒れる音がした。
「わ、わぁ……なに? 何の音?? 魔物が唸ってる声が聞こえたっ!」怯えた表情と声で訴えてきた。魔法の音をサイレントモードにしてあるので、魔法の音は聞こえずに魔物が倒れる音だけが聞こえて驚いたみたい。