目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第20話 非常事態宣言

 まぁ……王子の拉致だから、非常事態になったのかな? というか、セリオス騎士団長の責任問題になったらマズイな……。かなり良くしてもらっているし、エリゼとも今後も仲良くしたいしなぁ。俺が怒られるのは仕方ないけどさぁ。


「なぁ、エリゼ。今回は俺が勝手にエリゼを連れて武器が見たいって連れ出したことにしようねっ」


「え……? だ、ダメだよ。嘘ついたらダメなんだよ」エリゼが慌てた様子で真剣に拒否をしてきた。


「え? ウソじゃないしぃー。俺が武器屋に入りたいって言ったし、買い物に行きたいって言い出したのも俺だよっ。お父さんに、わがまま言ったのも俺だしさ」この作戦は、エリゼの協力が必要だし、口裏を合わせないと。


「うぅ〜ん……それだと、お兄ちゃんが怒られちゃうよぅ……」エリゼが心配そうな顔をして抱きしめてきた。今度は両手が拘束されていなかったので、頭を撫でられた。サラサラの金髪の触り心地が良い。それにいい香りがして落ち着く。ひどい嘘でもないし、誰かを傷つけるウソでもない。


 赤色の信号弾を見た悪人面をした警備兵が青ざめて座り込んでいたが、我に返り、騒ぎ出した。


「お、おい……なんで信号弾を撃ったんだ!! 俺たちは抵抗もしていなかっただろ! 騒ぎをデカくする必要はなかったはずだぞ! 貴様……俺に恨みでもあるのか!?」悪人面のリーダーが、すごい剣幕で怒り出した。


「……だから言っただろ、普通の子供じゃないと」門兵は、呆れた顔をして呟いた。


「貴族の子供だとしても、やり過ぎだろ! ふんっ。こんなに大騒ぎを起こして貴様も、ただじゃすまんぞ!! 赤色の信号弾の意味を分かっているのか? 王国軍の出動要請でもあるのだぞ? 軍を動かしておいて……『お貴族様の子供を発見しました!』だけで済むと思うなよ……」


 言い合いをしていると、単騎の騎馬に乗った者が勢い良く剣を振りかざしてこちらに向かってくると、セリオスが剣を振り下ろし、悪人面のリーダーの警備兵の首が宙に舞った。


「貴様ら……!! レイニー様に何をしたぁー!?」周りにいた一般人の服装に着替えていた男たちに、セリオスの見たこともないすごい形相で問い詰めた。明らかな殺気を放ち、周りにいる者はその恐怖で動けずにいた。


 え? 溺愛している娘の心配じゃないの??


「俺もエリゼも大丈夫っ!! 落ち着いて。セリオスさん! こいつらから仲間を聞き出さないとだよっ!」男たち全員この場で斬り殺しそうな迫力と殺気を感じた。


「……そうだったな。貴様ら……今は、まだ殺さずにおくが……覚悟しておけ!」


 セリオスが怒りの形相で睨むと、セリオスの迫力で関係のない側にいた兵士も、その場に腰を抜かし座り込んでしまった。


『ん……美味い感情だな……久しぶりのご馳走だぁ〜』あーちゃんが呑気なことを考えていたのが伝わってきた。


『あーちゃんの……ばかぁ』


『私、これでも悪魔なので仕方ないじゃないですかぁ……たまには良いじゃないですか』


『まぁ……そっかぁ。あーちゃんが動いたわけじゃないしね』


 非常事態宣言で、発信元の現場に続々王国軍の兵士が集まってきた。集まってきた兵士はみな武装をしまるで、戦場のような光景が広がっていた。滅多に起こるようなことではないので皆緊張をし、武功を上げようとする者もいた。


 王都へ入る門はすべて封鎖された。聞く分には「へぇ〜」で済むかもしれないが、王都全域が完全に封鎖されたのだ。主要な門だけではなく、農民が畑へ向かい帰ってくるような中規模な出入り口も門兵が付き閉鎖されていた。非常事態宣言のみ知らされているので、これから魔物の大群や敵勢が攻め込んでくるかもしれない、もしくは王都で謀反を起こし逃亡する者がいるかもしれない。なので、内側と外側に門兵を配置し、見張りも厳重にしなければならなかった。ようするに……超オオゴトになったわけだ。


 多少落ち着いたセリオスの腕を掴み、馬から降ろした。小声でエリゼに話したことと同じことを伝えた。始めは拒否したが、エリゼが納得した内容でセリオスも納得してくれた。それに、これからも俺の協力者として一緒にいて欲しいと言うと、跪き頭を下げられた。


「こいつらさぁ……子供を拐ってる街の警備兵だから、普通の処刑じゃダメだからね〜許せないっ」俺が、ぷくーと頬を膨らませて文句を言った。


「……それは……ホントですか? こんな奴らが警備兵とは……ラクには死なせませんよ。この様なことが二度と起こらないように見せしめに致しますので、お任せ下さい!」怒りが収まっていたセリオスに再び怒りの灯がともった表情になった。


 さて……これからの問題はっと……両親への言い訳を考えないとなぁ。あ、エリゼは……? 見渡すと警備兵ではなく、騎士団の兵士に保護されていた。知り合いらしく、事情を話していた。


 俺と目が合うと駆け寄ってきて、抱きつかれたので再び頭を撫でていると、ギュッとエリゼの腕に力が入ってきた。


「怖かったよね〜。もう、大丈夫だよ」エリゼに俺も癒やされるなぁ〜


「ううん。ぎゅぅってしたかっただけ……♪ えへへっ」俺の胸に顔を押し付けていた顔を上げて可愛く言ってきた。溺愛している父親が側にいるのを思い出し、振り返ってみると怒っている表情かと思えば微笑んでいた。


 あれ? 俺には良いのか? と疑問に思いつつ、用意された馬車に乗り込んだ。


 帰りの馬車の中で、セリオス、エリゼと口裏を合わせることにした。


 セリオスが嫌がっていたが、事実を話すと全てセリオスの責任問題になってしまう。それは避けないと俺の心が痛むし、エリゼとも会えなくなってしまうのは嫌だと話すとセリオスに謝罪をされると、エリゼも真似をして謝罪をしてきた。


「エリゼが友達から『友達が拐われた』と聞いたって俺に話をして……それに興味を持った俺が、エリゼとこっそりと抜け出したことにしよ! セリオスは知らなかったことにしといてねっ」


「えぇ、分かりました」


「でも……お城の警備兵には、お父さんの許可を得たって話したよぉ?」エリゼが首を傾げて言ってきた。


「それは、俺が勝手に言ったことにすれば問題ないって。俺の護衛兵は……新人っぽいし」新人でもベテランでも関係ないよなぁ〜あーちゃんに協力してもらうしぃ〜♪


『え? 私も協力するのですか?』


『……イヤなの? 主が困ってるのにぃ〜。へぇ……あーちゃんって、そんなやつなんだ……?』


『当然、協力いたしますってばぁ〜何をすれば??』


『護衛兵の記憶の操作をお願いねっ♪ セリオスは相談を受けてない、見てないってさっ』


『あぁ、それくらいなら問題ないです』


 セリオスと俺の二人で、国王陛下に事情の説明をした。当然怒られ……言い訳をせずに怒られて、罰を受ける話になった。


「レイニーよ、お前は……しばらく外出禁止だ。城から出ることは許さんぞ」


「まさか、お父さまの王国の治安が、ここまで悪いとは信じられなくて……直接、確認に行ったのです。実際に王都の治安を守る警備兵に拐われましたし。コワイので部屋から、もう出ません……」珍しく反抗をせず、暗い表情をしていた。


 怖くもなんともなかったが、演技で目をうるうるさせて部屋に引き篭もる宣言をして、口をとがらせてそっぽを向いた。


 俺は、お父さまが統治する王都を信じて確認をしに行ったら、拐われて怖い目にあったから引き篭もると言ったのだ。街を守る警備兵が今回は悪いのだから、全て責任と国王の怒りの矛先を向けさせてもらう。街の警備は警備隊長の責任なので、セリオスは関係ないので被害は出ない。


 国王が俺の思わぬ反応を見て、慌てた様子で困った顔をしていた。


「レイニー……そうか、悪かった。余を信じてくれていたのだな……外出禁止は取り消そう。だが、城の外に出る時はセリオスに相談をせよ。機嫌を直せ……レイニーよ」


ん? なぜか、城外へ出ることも許されたぞ? ラッキー♪


「むぅ……。はぁい……」演技で仕方なさそうに返事をした。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?