エリゼが父親のセリオスと俺を交互に見て、がっかりした寂しそうな表情をしていた。実際に父親のセリオスの顔を見るとおじけづき、諦めた様子になった。
はぁ……ダメ元で聞いてみるか。俺から誘ったことにすれば、次回も来るなとは言われないだろうし。
一応、俺は……第三王子なので護衛兵が付いている。といっても、俺がキケンな事をしないかの見張りだけどね。観覧席の外で待機している護衛兵に声を掛けた。
「あのさぁ〜騎士団長を呼んできてくれるかなぁ?」ニコッと笑顔で話し掛けた。
すると護衛兵の顔色が変わり、怯えた表情になった。
「え?……騎士団長様ですか? え? 私が? 騎士団長様にお声を?」怯えた表情と声で聞き返してきた。
嫌なら俺が直接声を掛けるけど? 訓練場に勝手に入ったら迷惑かと思って……気を使って声を掛けたのにぃ……
「ん……じゃあ、俺が行ってくるからさぁ、エリゼを任せたよ」
「え? わ、私は……レイニー様の護衛でして……」
だから何? 護衛兵だって兵士でしょ? 訓練場に普通に入れるでしょ。護衛兵だから見守ることしか出来ないっていうの? あぁ……そっか、勝手に自己判断をするなってやつね。はいはい、これはあまり好きじゃないんだけど……
訓練場に向かって俺が手を上げた。騎士団長のお付きが気づき、騎士団長に声を掛けると、騎士団長が慌てて俺の元へやってきた。
「なにか、ございましたでしょうか?」騎士団長が緊張をした様子で俺に聞いてきた。だから……嫌だったんだよね……。訓練中に呼び出すのってさぁ……常識が分かってない子供かお貴族様みたいでさぁ。
「あ、あのね、訓練中に悪いね。エリゼと街で買い物をしたいんだけど……ダメかなっ?」うん。知ってる、ダメって言うのはさぁっ。
跪いていたセリオスさんが顔を上げてエリゼを睨んだので、エリゼが怯えて俺の腕にしがみついた。
「あっ、俺が誘ったんだよっ。俺さぁ……城から出た経験が無いからさ。エリゼに案内を頼んだんだぁ~。そしたら、エリゼがお父さんに聞いてみないとって言うから、その確認をしたかったんだぁ~」
「……エリゼ、お前は街を案内できるのか?」セリオスさんが不安そうな表情をして、エリゼを見つめて聞いた。
「うん。お母さんと行くお店なら案内は出来るよっ♪」エリゼが自信ありげな表情をして答えると、セリオスさんが考え始めた。あれ?これって、チャンスがあるかも??期待の眼差しで二人でセリオスさんを見つめた。
「そうか。まあ、その周辺なら……警備兵もいるから安心か」悩んでいたセリオスが、不安も残るが何とかするつもりみたい。
安心なのか? 大丈夫……なの? 逆に俺が心配になってきたんですけど?? さっきは、自信無さそうな返事だったのに……今度は、セリオスさんが自信がある感じで返事を返しているし。
「行ってもいいかなぁ……? お父さん♪」エリゼが、甘えた声を出して聞いた。
「そうだな、二人の社会勉強にもなるか……分からない道を通るんじゃないぞ」
「はいっ!」エリゼがニコッと、元気に返事を返した。
まさかの許可が出たんですけどぉ〜? これは、あれか……俺が、エリゼの護衛をしろってことか?? 魔術師団長、騎士団長のお墨付きを貰ったからか? あの……俺、一応……王子なんですけど?
「レイニー様、娘をよろしくお願いします」あれ? やっぱり、娘を頼まれた。普通、逆でしょ! と、思うけど、王城の外に出られるならば文句はないっ♪ それに、エリゼの事は頼まれなくても守るしさ。
「あ、うん……わかったぁ♪」外に出られるなら、どっちにしろエリゼを守るつもりだしね!
「娘が珍しく懐いているようですし」セリオスが、真面目な顔をして言ってきた。
あ、それは……騎士団長が近寄るなオーラを出してるからと、外で遊ばせないようにしているからでしょ……
セリオスの言葉を聞いて、二人で顔を見合わせてニコッと笑いあった。話が済んだので、騎士団長が頷き頭を下げると訓練に戻っていった。心配だろうなぁ……と思いつつ、エリゼと手を繋ぎ、広い敷地内を歩いて、俺に付いている護衛兵が事情を説明してくれ、王城の外に無事に出れた。
良いのか? と思っていると複数の気配が、あちらこちらで俺たちを監視しているのが分かった。
ぬいぐるみのバッグに見えるあーちゃんに話し掛けた。あーちゃんが器用に背負うタイプのバッグに擬態をしていた。
『ねぇ〜、視線を感じるんだけどさぁ、この視線って護衛だよね~?』
『ですね。敵意も害意も感じられないですね。安心して大丈夫かなぁ……。というか……レイニー様を、どうこうできる存在は、いないと思いますけどねー』あーちゃんが、呆れたように言ってきた。
『あーちゃん、ひどーい……俺の従者だよねぇ?』
『……はい、失礼しましたぁ』
「あっちだよ。行こ♪」エリゼに手を引かれて、後をついていく。平和だね〜? これって……この通りって、明らかに規制をされてるよね?? すれ違う人の仕草が軍人ぽいんですけど??
「エリゼ、これって……普段と同じ感じなの?」普段の王都を知らないで、エリゼに聞いてみた。
「うぅ〜ん……少し人通りが少ない気がするぅー。歩きやすいかなぁ」ニコニコした表情をしてエリゼが答えた。
大通りを歩き、しばらく進むと商店が並ぶ通りに入った。
……わぁ……♪ 武器屋だぁ……入りたい! 武器だよ、武器! 王城では、武器といえば剣くらいしか見てないんだよね〜
「ねぇ、ねぇ……武器が見たいんだけど……だめ?」
「んぅ……お兄ちゃん、見たいのぉ?」エリゼが、少し困った表情をして聞いてきた。
「うん。見たい!」
「ちょっとだけだよ? わかったぁ?」
「うん。ちょっと……だけね」
と言っていたけど、エリゼも騎士団長の娘で剣術を習い、武器にも興味があるらしく二人で目を輝かせてはしゃいで店内を見ていた。
「ねぇ〜これ、これ〜双剣って格好良いよね〜♪」俺が目を輝かせて言うと、エリゼが微妙という表情をした。
「これ、これの方が格好良いよぉ〜」エリゼが短剣を指さした。
うぅ〜ん……短剣も良いねぇ♪ どっちも好きだなぁ。
そんな時に悪そうな警備兵が現れた。
「貴様たち……武器屋で何をしているのだ? 冒険者ごっこか? 買えもしない物を見て盗みでもする気か?」ニヤッと笑い、言ってきた。上司っぽいやつは見回りなのか、部下を6人ほど連れていて、その部下も悪そうな悪人面だった。
「あぁ〜商売の邪魔だったかなぁ、ごめん。買えないけどさぁ〜ちょっと見てたんだー」俺が正直に言うが、納得してくれそうなヤツらじゃない。
「怪しい……少女だな……取り調べの必要がありそうだ……」悪そうな警備兵たちがニヤニヤしながら近づいてきた。