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第15話 悪魔と従者契約

 昼食を食べ終えたレイニーが宝物庫に戻ってきた。ディアブロは逃げることを諦めたが、抵抗する意志はまだ捨てていなかった。こっそりと魔法を教えるフリをして、なんとかこの状況を打開しようと考えていた。


「さぁ、続きを教えてよ!」とレイニーは目を輝かせ楽しげに言った。


「わかった、まずは基礎からだ。精神支配の魔法について教えよう」と悪魔は冷静を装いながら言った。内心では、どうにかしてこの子供を操る方法を模索していた。


 ディアブロは精神支配の魔法の基本を説明し始めたが、その説明の中に微細な魔力を送り込み、レイニーの意識を揺さぶろうと試みた。しかし、レイニーは全く気づかない様子で、ただ嬉しそうに頷いていた。


「それで、それで?」とレイニーは興味津々に聞き返した。


 ディアブロの心中には焦りと恐怖が募るばかりだった。こんな状況では自分の力が通じないことを理解し始めていたが、それでも何とかしてこの子供を制御しなければならないと思っていた。


「次に、より高度な精神支配の術を教えよう。これを使えば、対象の意識を完全に支配することができる」とディアブロは続けた。彼の声には微かな震えが混じっていたが、必死に冷静を装っていた。


「へぇ〜、面白そうだね!もっと教えて!」とレイニーは目を輝かせて言った。その無邪気な笑顔に、ディアブロの心は一層冷たくなっていった。彼の内心では、この子供が一体何者なのかという疑問が渦巻いていたが、それを解明する手がかりはまだ見つかっていなかった。


 ディアブロは、内心の焦りと恐怖を押し隠しながら、さらに高度な精神支配の術を説明し続けた。彼の手は微かに震えていたが、何とかしてこの状況を打開しようと必死だった。


 レイニーが油断をしたのか、ディアブロを信用したのか、精神支配を教える流れで、レイニーの体に自然な流れで触れられるチャンスが訪れた。


 当然、間接的に目を見つめ魔力を使い相手を支配できるが、より確実により強力に支配できる相手に直接触れ、直接相手にオーラを流し込めれば支配できたも同然だ。


 ディアブロは、レイニーの体に直接触れ、悪魔のオーラを流し込もうとした。しかし、魔力が全く入っていかない。通常、体に触れ直接的に魔力を流し込み侵食し精神支配をすれば、多少力の差があっても可能で失敗することはなかった。  


 レイニーの魔力の性質や魔力量を覗こうとすると、その溢れ出す闇属性特有の負のオーラにレイニーは覆われていて、負のオーラをまともに喰らってしまった。ディアブロは、魔力の強大さや魔力量を調べるどころではなくなり気分が悪くなった。


「なんだ!? この負のオーラの密度、オーラの量……。こんな存在はありえん!? この密度と量の負のオーラを纏う者の存在は……古代の最強の魔王と恐れられていた者だが、それを遥かに越えているぞ……いや、それ以上の者の存在を超えているかもしれん」


 ディアブロは驚愕し、絶望感が押し寄せてきた。侵食や支配など到底無理だと悟った。次元が違いすぎる。まるで赤子が格闘家に戦いを挑むようなものだ。


「最上位の悪魔に、これほどの絶望を与えるやつが存在するとはな……完敗だ……」


 ディアブロの心中には、これまで感じたことのない恐怖と無力感が広がっていた。彼は自分の力が全く通じないことを理解し、レイニーという存在の異常さに圧倒されていた。


「ね。ねぇ〜。他には?」レイニーの無邪気な問いかけに、ディアブロは焦りを感じながら答えた。


「すまない。我には……」ディアブロは視線をそらし、苦渋の表情を浮かべた。


「そうなの?」レイニーの返答に、ディアブロは心の中で策を練り始めた。何とかしてこの状況を打開しなければ。


「ちょ、ちょっと待て、我と契約をしないか?」ディアブロは、焦りを隠しながら言葉を続けた。契約さえしてしまえば…異次元空間に閉じ込められはしないだろうと考えていた。


 もしかしたら対等な関係になれるかもしれん。我も、これでも悪魔の最上位だからなと、僅かな望みにすがりついた。


「えぇ? 契約って何の契約なの? 変なことを企んでるんでしょ?」レイニーは疑わしげに問いかけた。


「同盟のような契約だ。裏切れないといったところだ」ディアブロは冷静を装いながら答えたが、内心では焦りが募っていた。


「え? なんで? 必要ないでしょ。俺に何の得もないしさぁ〜。それに実験できなくなっちゃうじゃん!?」レイニーの言葉に、ディアブロは絶望感を覚えた。


「契約をしてもらえれば、役に立つぞ」ディアブロは、必死に説得しようと試みた。


 レイニーが嫌そうな顔をしてきた。


「えぇ〜役に立つって、何をしてくれるの? 悪魔との契約は、好きじゃないんだけど……」レイニーの問いかけに、ディアブロは一瞬言葉に詰まった。


「いろいろとだな……役に立つぞ。契約と言ってもだな……対価は必要ないぞ! 対価なしで、最上位の悪魔を仲間にできるのだぞ!?」ディアブロは、自信なさげに必死に答えた。


「……それ、役に立つって言ってるけどさ、ただ言ってるだけで……何も考えてないよね? その程度の強さの悪魔を仲間にしてもなぁ……」レイニーの指摘に、ディアブロはさらに焦りを感じた。


「側で守ってやるぞ。それに、話し相手にもなるぞ」ディアブロは、最後の手段として提案した。


「……そんな怖そうなヤツが側にいたら大騒ぎだし、必要ありませんっ」レイニーの断固とした態度に、ディアブロは完全に追い詰められた。


 シュワァァーとディアブロから紫の煙のようなものが立ち込めると、悪魔が可愛いマスコットキャラクターというか、ぬいぐるみのようなモノに擬態した。


 小さな体にふわふわの白い毛が覆われ、大きな丸い目はキラキラと輝き、ピンと立った耳とふさふさのしっぽが特徴的だった。


「わぁ……なにそれーかわいいっ♪」レイニーの反応に、ディアブロは一瞬の安堵を覚えた。


「だろ? これで側にいるぞ。どうだ?」ディアブロは、必死に微笑みを浮かべて言った。


 これが……命乞いというやつか。こんな心境だったのか……。最上位の悪魔である自分がここまで追い詰められ、必死に命を乞うことになるとは……。ディアブロの心中には、かつての威厳と誇りが完全に崩れ去る音が響いていた。


「わかったっ♪ 契約するぅ〜」レイニーの無邪気な返答に、ディアブロの心は一瞬揺らいだ。


 やっぱりガキだな、チョロいな。ディアブロは内心でほくそ笑んだ。


「お互いに契約の意思があるということだな。我に手を翳して魔力を合わせるぞ」ディアブロは心の中でニヤッと笑い、ホッとした。少しずつ自信を取り戻し始めた。


 レイニーが手を翳すと、ぬいぐるみの姿の悪魔も手を翳し、魔力を合わせ詠唱を始めた。輝かしい紋章と古代の文字が刻まれた魔法陣がお互いの足元に浮かび上がる。その瞬間、ディアブロの目に冷たい光が宿った。魔法陣は青白い光を放ち、まるでアニメのシーンのようにゆっくりと回転し始めた。幾何学的な模様が一つ一つ浮かび上がり、中心から淡い光のラインが広がっていく様は美しくも不気味だった。契約が成立すると、魔法陣はその光を強く瞬かせ、一瞬にして消え去った。


 ……結果は、10対0の主従関係となった。意見も言えぬ関係だ。この最上位の悪魔だった我が、使用人に成り下がるとは……こんな事があって良いのか。ディアブロの心中には屈辱と絶望が広がっていた。彼の誇りは粉々に砕かれ、もはや抵抗する術もないと悟った。肩を落とし、目を伏せた。


「終わったの?」


「は、はい。我との契約は無事に終えました……」ディアブロは震える声で答えた。


「ねぇ〜。その我って、かわいくない! せめてさぁ、ボクとか……私にしてよ」


「かしこまりました。では、私で」ディアブロは、自分の言葉に虚しさを感じながらも従った。


「役に立ってよねっ! えっと……名前は、あーちゃんね♪」


「……その、お名前を頂戴致しました」ディアブロの声には屈辱が滲んでいたが、反論する勇気はなかった。


「うん。あーちゃん、よろしくね」


「こちらこそ、宜しくお願いします」ディアブロは深々と頭を下げ、心の中で新たな決意を固めた。


 ディアブロの心中には新たな恐怖とともに一抹の希望が芽生えていた。レイニーという異常で、強大な存在に忠誠を誓うことで、彼の力を借りれば恐れるものなど何もないと気付いたのだ。怒らせては誰にも止められない存在であることを悟ったディアブロは、レイニーに従い、彼の力と共に未知の世界を探索する決意を固め主であるレイニー様へ忠誠を誓った。


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