レイニーが手ひらを上に向けると、スッと手のひらの上に黒い球体のような穴が空間に現れた。
異次元魔法の黒い球体は、まるで空間の裂け目のように、周囲の光を吸い込む不気味な存在だった。その表面は漆黒の闇で覆われ、見つめるだけで心に深い恐怖が広がる。球体の中には、無数の小さな渦が巻き起こり、時折、異次元の生物や謎めいた影がちらつく様子が垣間見えた。
球体が発する冷たい波動は、肌を刺すような寒気を感じさせ、近づく者の魂まで凍らせるかのよう。その中心からは、低く唸るような音が響き渡り、まるで異次元の獣が遠吠えするかのように感じられる。
この黒い球体が放つ邪悪なエネルギーは、空間自体を歪ませ、周囲の物体をゆっくりと引き寄せる強力な引力を持っている。まるで存在そのものを呑み込もうとするかのように、黒い球体はすべてを無に帰す力を秘めて心の底から恐怖が溢れ出してくる。
「あれは……異空間魔法ではないじゃないか。あれは、まさしく異次元空間だぞ……。しかも、我が知っている異空間魔法とは次元が違うぞ!? 異空間魔法ならば……世界は存在しているはずだが……。その上位の異次元魔法は漆黒が広がる世界ではなく、完全に無の空間……閉じ込められれば永遠と存在するのみではないか……」心の中で呟いた。
あの子供が言うように、もしあそこへ閉じ込められたら、アイツが解放してくれるまで二度と出てこれなくなる。これは危険な存在だ。封印は劣化するが、異次元空間は劣化しない。しかも不死の存在である我が閉じ込められたならば、文字通りに異次元空間の無の空間で永遠に……想像するだけでゾッとする。
「ね? 大人しくしてなよ〜」レイニーが、異次元空間を消しながら笑顔で言った。
「そ、それで……どうすれば良いんだ?」ディアブロは苛立ちと恐怖を押し隠しながら尋ねた。心臓が早鐘を打つ。
「大人しくしててね。俺、お腹すいちゃってさぁ〜。ちょっとご飯食べてくるよっ」レイニーがお腹に手を当てて気まずそうに言ってきた。
「そうか、大人しくしてれば良いんだな」ディアブロはラストチャンスだと思い、焦りを抑えながら冷静を装った。
「あ、逃げ出そうとしても無駄だからねっ♪」レイニーの無邪気な言葉に、ディアブロの背中に冷たい汗が流れた。
「分かっている。この部屋には封印が施されているしな」ディアブロは、絶望感を感じながらも一縷の希望を見出そうとした。
「はい。ざんねーん。封印なんて破って逃げるつもりでしょ? 封印は劣化してたし、キミなら強引に破れるだろうから……俺がバリアを張っておいた!さらに〜結界を頑丈に張り直したから♪」レイニーの言葉に、ディアブロの心はさらに沈んだ。
「俺の爪でも切り裂けないバリアか。ならば魔法なら…?」ディアブロは心の中で、もう一つの手段を模索し始めた。
「魔法も物理攻撃でも破れないと思うよ?」レイニーが、ニコッと笑顔で言ってきた。
「なぜ我の考えが?」ディアブロは、レイニーの洞察力に驚愕した。
「だってさぁ〜考えるでしょ。物理攻撃がダメなら魔法を試すかってさ。ほら」
レイニーが手を翳し、ディアブロが放ったものの5倍の威力がありそうな魔法を宝物庫の壁に放った。轟音とともに辺りが黒炎に包まれ、ディアブロの心臓は早鐘を打ち、冷や汗が背中を伝う。
「なんだと!? 黒炎だと!? 我にさえ紫色の黒炎が限度なんだぞ。こんな子供が黒炎を、あっさりと……しかも威力も格段に違うぞ。我が体調が万全でもあの威力は……出せん。人間のガキに……劣るだと!?」ディアブロの声は震え、目には明らかな恐怖が浮かんでいた。
恐怖が押し寄せ、ディアブロは逃げるのを諦めた。彼の肩は落ち、膝が震え始めた。
ディアブロの心中には、何が起きているのか理解できないまま、怯えと困惑が渦巻いていた。最上位の悪魔である自分が、こんな子供に追い詰められるとは想像すらしていなかった。彼は一瞬、かつての威厳と力を取り戻すために策を巡らすが、レイニーの前では全てが無力であることを悟った。
「我は、これからどうなるんだ?」ディアブロは、心の底から不安を感じながら問いかけた。まさか最上位である悪魔の自分が、このような状況に追い込まれるとは思ってもみなかった。
「ん〜不死なんだよね?」レイニーは無邪気に明るく答えたが、その言葉はディアブロの心に重くのしかかった。
「そうだが……?」ディアブロは答えながら、冷や汗が背中を伝い始めた。
「不死って、どのくらい死なないのか知りたくない? 不死の存在って不思議だよね〜。ずっと興味あったんだぁ♪」レイニーの言葉に、ディアブロの心は一層の恐怖に包まれた。
「やっぱり……コイツ……おかしいぞ。死なないから不死なんだぞ!?」ディアブロは心の中で叫びながらも、どうすることもできなかった。
「真っ二つに切ったら、2人になるのかな? 切り刻んだら増えちゃうのかなぁ? さらにさ〜ミンチにしたらどうなるんだろ? それを 灰にしたら? いろいろと試してみたくならない?」レイニーの目は好奇心で輝いていたが、その言葉はディアブロにとって冷酷な刃のように体に刺さってくるようだった。
「ならないな……。頼むから止めてくれないか……たのむ……」ディアブロは、必死に懇願した。彼の声には、明らかな恐怖と絶望が滲んでいた。
「だって〜約束を守らないキミが悪いんだよ。未知なる力をいろいろと教えてくれるって言ったのにさぁ〜。大した力も教えてくれないんだもんっ!」レイニーが頬を膨らませて文句を言ってくる。可愛い表情ではあるが、今はその笑顔も、愛らしい格好をした存在自体が恐ろしい。
「わ、分かった。時間はあるだろ? じっくりと教えてやろう」ディアブロは、内心で焦りながらも、一縷の希望を見出そうと必死だった。
「ほんと!? やったぁ〜♪」レイニーの無邪気な喜びが、ディアブロの心にさらに深い恐怖を植え付けた。明らかに我より上位の存在に、何を教えれば良いのだ? どうすれば……? 次はないだろうな……
ディアブロの心中には焦りと恐怖が広がっていた。レイニーの無邪気な言葉と行動は、彼の思考を揺るがし、最上位の悪魔としての威厳を奪っていく。こんな少年に従わなければならないという現実が、ディアブロの心に深い不安を刻み込んでいた。