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第4話 連射?多重魔法?

 初の魔法で緊張をしていたが、実際に魔法を撃てるとなり好奇心と喜びの方が勝っていた。



「次は……俺の番かな。えっと……腕を構えて……」レイニーはブツブツと動作を声に出して言っていたが、困った表情になった。そう、レイニーは詠唱を知らない。


「え、えっと……どうすれば? 俺、詠唱を知らないんですけど……」とは、今更言えるわけもなく……アニメやゲームを思い出した。


 レイニーは目を閉じ魔力の流れのイメージをする、体の中心から手のひらに魔力が流れ集まっていく感覚がしていた。それから魔法のイメージをして、ゆっくりと目を開けると手のひらの前に赤い炎の球体が現れ、さらに的を撃ち抜くイメージをするとバシュ!と放たれ、的に命中すると貫通させ、後方の壁にボフッという音を立てて消えた。


 レイニーは的に当てるイメージの他にも撃ち抜くイメージをしていたので、魔法が強力になってしまっていた。


「れ、レイニー様!?」団長が驚いた声を上げた。


 どうやら的を撃ち抜く必要はないらしい。ぴょんぴょんと跳ねて喜んでいたレイニーが周りを見渡し呆然としている団長の姿に気づき、えへっ♪と可愛く誤魔化した。


 団長が驚いているってことは、やらかしたらしい。団長が放って当てた的が目に入った。的を撃ち抜いていない……。それに、団長は『的あて』と言ってたなぁ……。


 的自体に破壊できないように強い結界が施されていた。的に当て破壊されると、的を交換をする手間やコストがかかる。


 今の問題は的を破壊をした事ではなく、その強力な結界を破り的を破壊できる威力が異常で、脅威に値する。戦闘になったとして結界やバリアを張ったとしても貫通してくるということだ。



「レイニー様、ま、魔力を抑え威力も抑えて下さい、危険ですので……。それにしても見事な命中精度ですな、ど真ん中を撃ち抜いておりましたぞ」



 団長は、顔を引き攣らせて褒めてきた。団長は、レイニーのやる気を削ぐことなく実力を出して欲しかった。だが、魔力は抑えてもらわないと困る……誤ってルナ様へ当たってしまっては一大事になってしまう。


 やっぱりやりすぎちゃったらしい……。「でもでも、初めての魔法で的に当てたのって凄くない?」と思うレイニーだった。


 レイニーは問題ないと判断した団長がルナの方へ向かい指導を始めた。その様子は厳しいものではなく、優しい表情をして丁寧に教えているのが見えた。それを確認したレイニーは安心をした。


 一人にされたレイニーは、好奇心と探究心が強いので普通に的あてをする訳がない。「俺って詠唱していないよな? そもそも詠唱を知らないし……」イメージをしたらイメージ通りに魔法が発動をしたことに気づいた。


「ならば3つ同時に放てないかな?」と思い、隣の的に当てるイメージで魔法を放った。見事にバシュと同時に3つの火球を放ち、同時に同じ的に当たった。


「よし。これで、3つ同時に魔法が放てるのがわかったぞ♪ 威力の調整というか、イメージの調整が出来たし……次は……残りの3つの的に、同時に当てるイメージかなっ♪」と自分で課題を見つけて、勝手に試していた。



 パシュ……バフッと的に当たる音が、一度に鳴った。


「よしっ♪ やったぁ! わぁい〜。成功しちゃったぁ〜。えへへ♪」


 レイニーが一人で盛り上がり、ジャンプをして喜んでいた。順調に課題を見つけクリアしているが、魔法の常識をまったく知らない。


「次はぁ〜、えっと……3つ同時に撃てて、3つの的に当てたからぁ〜。今度は、遅延させてみよっかなっ♪」レイニーは次の課題を勝手に見つけ、一人で楽しそうにしていた。


 同じ様に構えると、3つの小さな火球が手のひらの前に現れ、手のひらを中心として小さな円を作るように回っていた。「わぁ〜これ、魔術師みたいで格好良いかも〜♪」と心のなかで思いニヤニヤしていた。


 的に当てるイメージをして魔法を放つとパシュ、パシュ、パシュと遅らせて放った。バフッ、バフッ、バフッと的に当たる音が連続して鳴り響いた。



「ん!?」と、団長が異変に気づいた。魔法が的に当たった音が連続で聞こえたからだ。



 団長が音の異常に気づき振り返って確認をした。連続して音が聞こえたのは、おかしい。連射など出来るような熟練度ではないだろ? 連射などは、かなり熟練度が必要で魔術師志望で幼い時から練習を始め会得できるかどうかという技術だ。団長さえ上手く連射を放てない技術だった。



「レイニー様、連続音が聞こえましたが?」


「あ、うん。うるさかった? ごめんっ」



 レイニーが、申し訳なさそうな表情をして謝っていた。



レイニーは、連続した音を否定をしなかった。「……まさか、連射をされたのですか?」



 団長が顔を引き攣らせながら聞いた。



「ん……ちょっと違うかな〜」



 「今のは、連射とは違うよね? 同時に発動させて、遅らせてるだけだし。結果は同じで連続で当たるんだけど、過程が違うよねっ?」とレイニーは考えていた。



 団長は、確かに連続して的に当たる音が聞こえていた。何が起きたのかを知りたくなり、レイニーの側へ移動してきた。


「もう一度お願いします、レイニー様」


「あ、はぁ〜い♪」レイニーが軽いノリで返事をすると、同じ事をして見せた。


「……れ、レイニー様……それは、多重魔法ですが……どの様に習得されたのですか!?」



 レイニーが使用していたのは多重魔法で、魔法陣が実は重なっていて3つ同時に発動させていた。連射より遥かに高度で王国内でも使える人物は一人いて団長の師匠で2つをやっと放てる程度だった。しかも遅延という発想すらなかった。多重魔法を発動するのが精一杯で、その発想があっても操れる訳がない。多重魔法は技術と精神力と集中力が必要で、それに膨大な魔力と2つを同時に操作する処理能力も必要だ。



「え? あぁ……これは、まだ練習中だよ? そんなに驚くことかな??」簡単に出来たので、レイニーは初級の技術程度に思っていた。


「多重魔法ですよ!? それは驚きますよ……最上級の技術ですからね」


 はい? 最上級の技術!? こんなに簡単にできたのに??「え? あ……そうなんだ? えっと……秘密でおねがいっ! 目立ちたくないからさぁ」今更取り消したり、ごまかしようもないので正直にお願いをするしかない。



「他の者に、知られれば確かに騒ぎになりますね。秘密にしておくべきかと思います」


「あのさぁ……また教えてくれるかな?」


「……そですね、こちらからもお願いしたいくらいですな。では、講師を私に変更しておきます。明日から始めますか」


「よろしくお願いしまーすっ♪」


 明日からの魔法の練習が嬉しいのか、レイニーが笑顔で返事をしていた。


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